Customer Development Model

ビジネスモデルキャンバスは考え方のフレームワークであること、またアジャイル開発も短期集中型の製品開発手法であることから、知らなければ学び、習熟すれば、質的な課題は残るにせよ実行上それほど大きな障壁はありません。しかし、顧客開発モデルに関しては様相が異なります。顧客開発モデルは、ほぼ全ての企業が採用するレガシーなビジネスモデル「製品開発モデル」とは正反対の特質を持つので、特に大企業における新規事業開発が頓挫しやすい原因となりやすいのです。製品開発モデルは、モノづくり中心の産業構造で長年かけて構築されてきた仕事の仕方です。「顧客は良い製品・サービスを買いたいのだから、良い製品・サービスを創ろう」という思いが強く、製品リリース時に最高なモノを提供することに強い拘りを持ち、研究開発段階から一歩一歩着実に仕事を進め、仕様通りにできていることを確認してから次の工程に引き渡し、受けた側も自分の仕事を丁寧にした後に次工程に引き渡し、それを積み重ねた結果、できあがった製品・サービスを顧客に販売するというウォーターフォール型プロセスを辿ります。こうして新製品・サービスを市場投入した結果、顧客が満足して購入してくれればよいのですが、もし顧客が「これ、欲しいモノと違う」と言って買わなければ、最初の研究開発フェーズからやり直しになってしまうのです。まさに1からやり直し、酷ければゼロからやり直しとなった場合、既に実行した投資は回収の目途も立たず、一気に状況が暗転して事業継続が困難になります。

顧客開発モデルは、新製品・サービスの着想段階から、新製品を誰よりも早く使ってみたいというビジョナリーやアーリーアダプターに対して「こんな商品作ろうと考えているんだけど、どう?」と持ちかけることから始まり、意見を聞いてプロトタイプを作ったら、すぐ見せて「こんなことができるんだけど、欲しい?」と聞きながら、本当に解決したい真の課題を明確にして、それを満たすMVP(必要最小限の機能を持つ商品)を仕上げ、「これどう?欲しい機能ちゃんと使えるよ?まだダメなところある?」と確認、「これなら欲しい!買う!」という言葉を聞いたら「いくらで買う?」と聞いて、正式リリースと同時に販売に漕ぎつける、というプロセスを踏みます。新製品を正式投入するまでに、何度も顧客ニーズと購買の意向を確認しながら改良を進めて購買可能性を高めます。市場投入前に既に買う気にはやる顧客がいることが新規事業にとってどれほど重要なことかはご理解いただけるでしょう。もし「やっぱりお金出してまで欲しいものじゃない」と言われたなら、即座に方向転換(Pivot)できるのもメリットです。それまでの投資は回収不能にはなりますが、経営へのダメージを極小化できる点では、製品開発モデルにおける開発中止よりもはるかに小さな傷で済みます。新規事業創造のリスクを極小化するために、世界中の大企業やスタートアップが顧客開発モデルを採用している理由が、ここにあります。

顧客開発モデルは、顧客発見、顧客実証、顧客開拓、組織構築という4つのステップで構成され、各ステップには4つのフェーズがあります。

  1. 顧客発見:①仮説の記述 ②仮説の検証と洗練 ③製品コンセプトの検証と洗練 ④確認
  2. 顧客実証:①販売の準備 ②エバンジェリストユーザーへの販売 ③企業と製品のポジショニング ④確認
  3. 顧客開拓:①市場投入の準備 ②企業と製品のポジショニング ③企業の市場参入/製品の市場投入 ④需要開拓
  4. 組織構築:①メインストリーム顧客基盤の構築 ②経営と企業文化の課題 ③機能別部門への意向 ④即応性の高い部門へ構築

これらのステップを全速力で徹底的に実行することが、企業や新規事業創造には不可欠です。

Agile

顧客開発モデルを全速力で実行する方法がアジャイルです。アジャイルはソフトウェア開発手法のひとつで、「素早い」「機敏な」という意味であり、大きな単位でシステムを区切り、最初から順番に開発を進める開発手法である「ウォーターフォール」に比べ、小さな単位で実装とテストを繰り返して開発を進める手法です。従来よりも開発期間の短縮が可能であり、仕様変更や設計変更を予め織り込んだ開発手法であり、最初に要件定義や概要設計、詳細設計等の各ステップをきちんと作成しなければならないウォーターフォールより顧客のニーズが開発途中で変わった場合でも柔軟かつ臨機応変に対応できるの点が特徴です。顧客が解決を願う真の課題を解決するために、試行錯誤を重ねては顧客の意向を確認するという顧客開発モデルでは、まさにアジャイルな仕事の仕方が必須になります。

SPRINTは代表的なアジャイルな仕事の仕方です。数か月にわたって巨額のコストを投入したと同等以上の価値のある仕事を、わずか5日間で成し遂げる働き方であり、MckinseyやMetaでも活用されて実績をあげています。日本企業の多くはウォーターフォール型の仕事の仕方に慣れ親しんでおり、重大な意思決定を次々と行いながら新製品・サービスを開発すると聞くと、「拙速に過ぎる」「そんなバグだらけのもの売れるはずがない」「仕事の仕方とはそもそも・・・」という精神論や感情的な反発を示す方がほとんどです。しかし、レガシーなウォーターフォール型の仕事の仕方がフィットしていた過去の成功体験を拭い去り、DX時代のスタンダードであるアジャイルな仕事の仕方にシフトできなければ、ディスラプターの後塵を拝するだけという事実を受け止めて、SPRINTを使いこなしましょう。なお、SPRINTの習得に関しては、Re-Learningでカリキュラムを提供していますので、そちらもご参照ください。

Other References

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Digital Management Modeling
デジタル・マネジメントモデリング
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Leadership
リーダーシップ
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Innovation
イノベーション
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Lean Startup
リーン・スタートアップ
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Cost Management
コストマネジメント
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Performance Management
パフォーマンスマネジメント
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Business Analytics
ビジネス・アナリティクス
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i-BCM
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