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Goal Setting

Demand Assessment

Cost Assessment

Competitor Analysis

Selecting a Pricing Method

Final Decision

Operational System

Other References

Goal Setting

戦略的プライシングは、なんのためのプライシングかという目的設定から始めます。

  1. 業界の雄になること
  2. パイオニアとして旨味を総取りすること
  3. 大規模市場で大きな利益をあげること
  4. 市場シェアを一気に確保すること
  5. 生き残るための急場凌ぎ

目的を定めることで、商品が具備すべき品質や顧客知覚価値、価格帯、採るべきプライシング手法も決まります。例えば、①業界の雄になりたいなら、商品の品質は全ての競合よりも高品質であって然るべきであり、価格帯は極めてもしくは頑張ればギリギリ手が届くくらいの高価格帯となり、基本的なプライシング手法はラグジュアリーもしくはプレミアムとなります。プライシングに悩む企業が、プライシングの目的に立ち返ることで活路が開けることもあるほど重要な意思決定であることをご認識ください。

Demand Assessment

次は需要の見積もりです。価格ごとの需要(市場推定販売量)を把握するには、価格感受性、需要曲線、価格弾力性の理解が必要になります。

価格感受性は需要の見積もりに利用する考え方で、価格変化に対する顧客の敏感度です。高額品やよく買う商品に対しては敏感(感受性が強い)で、個性的で代替品がないオンリーワン商品等では鈍感(弱い)になります。基本的に価格と需要は反比例し、高価格ほど需要は低くなりますが、高級品は時に需要が増すこともある一方、高すぎると需要が落ち込む可能性もあります。

異なる価格感受性を持つ顧客の反応を集約したものが需要曲線で、価格と需要の相関分析とそれに基づくプライシングと販売数量のシミュレーションに役立てます。過去の販売実績の統計処理や、価格実験等が必要になるので、統計分析の習熟度が必要になりますが、視覚的にわかりやすいメリットがあります。

価格弾力性は価格変化に対する需要の敏感度のことで、価格が少し変化しただけでも需要が大幅に変化すれば「弾力的」、ほとんど変わらなければ「非弾力的」と表現します。弾力性が大きい場合は、値下げすれば売り上げが増えて利益も増えるので値下げするのが合理的です。代替品がない、あるいは値上げした場合でも納得できる理由があると顧客が考えている場合には、弾力性は小さくなります。

Cost Assessment

プライシングに不可欠なのが正確なコスト算定です。従来よく使われたのが経験曲線(生産経験の累積に伴い平均コストは低減化する)に基づくコスト算定方式ですが、規模の経済性が前提となる考え方ゆえに現在のビジネス環境ではリスクが大きいと考えるべきでしょう。推奨するコスト算定方法は、活動基準原価会計やターゲット・コスティングです。前者は、各商品の生産量ごとの固定費、変動費を把握して顧客別/取引別/活動別の収益性を明らかにできます。後者は、ビジネスプロセス全体の総コストを、販売価格から利益マージンを差し引いた範囲内に収めるというアプローチで、範囲内に収まらない時は、値上げするか市場投入を諦めるかを検討することになります。なお、活動基準原価会計やターゲット・コスティングを導入していない場合は、別プロジェクトとして同時並行でデザインすることも可能です。これを機に管理会計のバージョンアップに踏み切ることを推奨します。

Competitor Analysis

競合商品に比べて自社商品の差別化ポイントはどこか、それは顧客にとってどれくらいの価値があるのかを精査し、競合価格より高くするか安くするかを決めます。顧客知覚価値の見極め精度を高めるためには、競合価格の精査を通じて得られる知見が役立ちます。なお、自社商品を市場投入した際、競合価格が変化する可能性があることも予め考慮して備えましょう。Goal Settingで記した目的を達成するため、価格引き下げ競争に陥らぬよう留意しながら、ゲーム理論も駆使してシミュレーションを重ねます。

Selecting a Pricing Method

続いて、プライシングの目的に応じた価格帯と標準プライシング手法について検討します。

価格帯は、上限はこれ以上高いとその商品を顧客が買えなくなる価格(顧客知覚価値)とし、下限は自社が最低限の利益を確保できる価格(コスト)とする範囲内に定めることが大原則です。競合や代替品の価格は調整シロとします。主な価格帯別標準プライシング手法は下記のとおりです。

  1. ラグジュアリー:贅の限りを尽くした最高品質のハイパーブランドなら、セレブリティ向けの最高価格帯
  2. プレミアム:高級品質はお墨付きで高額所得者層の御用達だが、中間層でも頑張れば手が届く高価格帯
  3. スキミング:品質は中庸でも競合がほぼないオンリーワンブランドなので、ある程度の高価格帯でも引く手数多
  4. ブリッジ・ベター:必要十分な品質で、ボリュームゾーンの顧客が入手しやすいブランドなら、高級品より安く競合と同じ価格帯
  5. ペネトレーション:競合とほぼ同品質ながら、シェア獲得を狙うなら競合より低価格帯で参入し、競合が反応すれば機能追加と共に機を見て価格改定
  6. エコノミー:競合が多く、機能や品質での差別化が難しければ、一番のアピールポイントはより低価格帯
  7. スーパー・ロウ:品質には片目を瞑ってでも安いことが最大の価値と認識する顧客を囲い込むなら超低価格帯

そして、それぞれのプライシングのしかたには、起点を自社にするか顧客にするか、また基準を何にするかによって様々な算定方法があります。

  1. マークアップ(コスト):コスト+利益という価格決定方法で、簡便だが最適価格かどうかは疑問
  2. ターゲットリターン:損益分岐点分析に基づいて目標利益を確保する価格を決定できるが、価格弾力性と競合価格が考慮されない
  3. 知覚価値:顧客が知覚する価値に基づく価格設定ができるが、顧客ごとに最適化されたCXやHXで顧客に価値を説明できる仕組みが不可欠
  4. バリュー:競合に比べ品質では同等以上の商品を価格感度の高い顧客向けに売る時に最適だが、ローコストオペレーションや強固な財務体質が必須
  5. 現行レート:コモディティ等で競合価格に基づいて価格を決定するが、イニシアティブは競合にあり、価格競争に巻き込まれるリスクあり
  6. オークション:余剰在庫や中古品、入札等で採用され、競り上げ(最高値:英式)、競り下げ(最安値:蘭式)、非公開予算内の最低価格(密封式)
  7. ダイナミック:売上の極大化が図れるが、精緻な需要予測等のシミュレーションが必須で、AIを活用したデジタル・マーケティング・ツールが不可欠

顧客知覚価値を基準にしたプライシング手法が多数を占めるのは、現代の顧客が「自分の価値観に合うものを、自分の目で選別して買いたいので、自分が求めるコトなら高くても買うけれど、似て異なるモノを買えと言われたら安くても買わない」と受け止めるていることの証左と考えます。マーケティングのイニシアティブは企業から顧客に完全にシフトしたのです。

上記プロセスで標準価格を決定したら、次に価格調整方法を検討します。主な調整方法は5つです。

  1. 地理的調整:顧客の所在地、外貨準備高に応じた支払方法等
  2. 販売促進型:早期購入の促進
  3. 差別型:ひとつの商品を2つ以上の価格で販売
  4. 製品ミックス:オプションやキャプティブ製品の追加、抱き合わせ販売等
  5. 割引・アロウワンス:顧客の購入方法が自社にとって有利な場合に提供

こまかな需要の違いやコストの変動、商品の機能追加や変更、見込み顧客の要望への対応、協力業者等に何らかのインセンティブを効かせる等、価格決定に影響を及ぼす要素が変動した場合に備えて、様々な調整シロやリスクヘッジを加味します。

さらに、価格変更に関するポリシーを定めます。新商品導入時には有効だったプライシングでも、ライフサイクルの中盤以降は追いすがる競合との闘うために、価格変更せざるを得ないこともあるのです。

  • 値下げ:攻守両面の性質を持つ打ち手であり、顧客に品質面の不安を想起させ、競合には付け入る隙を与えかねず、ロイヤルティの棄損リスクあり
  • 値上げ:コスト増や供給逼迫時の打ち手であり、便乗値上げと揶揄されないよう丁寧な説明と過剰需要の抑制策(遅延価格、アンバンドリング等)を検討
  • 反応への対応:顧客の品質面やモデルチェンジに対する不安の払拭と、競合動向(特にダンピング情報)の精査、価格戦争への準備が急務

このようなポリシーを予め策定しておくことで、価格戦争が勃発した時でも慌てずに対処することができます。

最期に、価格戦争対策を練ります。平時に備えておきべきことは、価格戦争がいつ勃発しても問題なく対応できるよう、社内においては経営効率を高めて財務体質を強化しておくことと競合価格のモニタリングを継続的に実施することであり、社外に対しては最重要顧客の囲い込みとパートナーとの強固なリレーションシップを確立することです。いずれも、戦闘力の高さを競合に知らしめることで「勝ち目がないから挑むのはやめておくほうが賢明」と悟らせることを目的とした取り組みです。

次に、戦時体制のデザインです。ポイントは「いかに戦わずして勝つか」と「負け戦はしない」ことです。競合が勝てる相手かどうかを見極め、勝てる戦い方を選び、大勢の味方をつけることができれば、自然に勝てることを念頭に置き、下記4つについて検討します。

  1. 状況分析:顧客、自社、競合に対する分析に基づいて、競合価格にいくらまで上乗せしても勝てるかを明確化
  2. 先制攻撃の検討:マクロ環境、市場環境、競合環境、自社の戦闘力、増分損益分岐分析に基づいて、攻撃・防衛戦術を策定、先制攻撃の是非を検討
  3. 対応策検討・実行:最優先は顧客への説明(スイッチングコストやリスク)、次に競合との戦線展開方針の明確化
  4. 戦術の遂行:価格・利益維持/価格維持+価値付与/値下げ/値下げ+品質向上/低価格ブランド発売等から最も効果的な戦術を遂行

シェア奪還や業界再編を目的とする価格戦争はいつ勃発しても不思議ではなく、攻守両面を抜かりなく整えておきましょう。

最期に、ここまではB2Cの戦略的プライシングについて概説してきました。B2Bでも原則はほぼ同じですが、顧客セグメントのニーズに合わせてより積極的に価格を変えることの重要性が高まる点に留意が必要になります。例えば、最重要顧客からさらにプレミアムが取れる余地を探すことや、価格相場に疎い担当者の囲い込み、需給逼迫時等にこちらの言い値で買ってもらうこと、商品のバージョンアップや製品ミックスの価格改定等、利益増加につながる潜在的な可能性があるものです。また、顧客ごとの収益性を明確にすることで顧客を選別し、不適切なプライシングを是正することも必須です。プライシングを適正化できた場合には高く評価できる仕組みを導入して、利益増加を促進しましょう。

Final Decision

仕上げの段階では、当該商品だけでなくラインナップ全体のプライシング・ポリシーとの整合性の確認等、いくつかのチェックを行います。まず、価格以外のマーケティング・ミックスにおける競合との比較です。価格は勿論ですが、品質の優劣や広告の巧拙によって、自社商品と競合のそれに対する顧客知覚価値がどのような関係にあるかを確認します。品質と広告の2軸マトリクスで自社商品がどこに位置するかを検討し、必要に応じて価格を見直しましょう。また、非常に戦略的な価格設定の場合、販売パートナーやサプライヤー、行政等がどのような反応をするかも考慮します。特にコンプライアンスの観点から、関連法規に抵触していないかどうかの検証は入念に行いましょう。

Operational System

これまでの検討プロセスを運用体制に昇華できれば、戦略的プライシングが定着します。プライシング責任者、組織、職務内容を決定しましょう。

責任者は社長です。CxOを何人も配置する必要がある大企業なら適任者はCMOですが、中小企業では社長以外いません。営業担当取締役を置く中小企業も多いのですが、マーケティングとプライシングに関する体系的な知識と実績を持つ方が任命されていることは稀であり、収益に対して最大のインパクを与えるプライシングについてこれまで実効的な改善施策を講じることができなかった方に、引き続きプライシングを任せても期待通りの成果を得ることは難しいでしょう。

また、プライシングをはじめ、少なくともマーケティング・ミックス全体を、可能ならマーケティング機能全体を管掌する組織と実働部隊を設立する必要があります。中小企業では営業部門にマーケティング機能を期待するものの、適切に機能する例は多くなく、マーケティング・ミックスの何たるかを理解して動く最前線の営業マンにお目にかかる機会は限られるのが現実です。マーケティング機能は専任者に任せ、営業部門には販売活動に専念して頂きつつ、プライシングに関する情報収集に協力してもらう体制へ進化させましょう。

マーケティング部門が取り組む業務は、プライシングに関する検討プロセスの体系化をはじめ、CXやHXを軸とするデジタル・マーケティング機能の確立です。顧客の価値観や要求の多様化が進んだ今、顧客にまつわるビッグデータをリアルタイムで解析し、顧客ごとに最適なCXやHXを提供できなければ、すぐ競合にスイッチされる時代になっています。幸い、有益なデジタル・ツールも数多くリリースされており、ここまで活用した分析手法の多くが実行できますので、マーケティングやプライシングに自信がない方でも比較的早く体系的な知見を習得できる可能性が高くなります。この部門に、最重要顧客にできる限り高価格で数多くの商品を購入してもらえる仕組みを整えるミッションを課し、マーケティングの究極目標である「『売る』のではなく『自然に売れる』」仕組みを実現できれば、戦略的プライシングの恒常的実行が可能となります。

【主要調査分析手法】

  1. 需給曲線
  2. 損益分岐点(BEP)
  3. 増分損益分岐分析(IBEA)
  4. 顧客の「生の声」を聴く:ソーシャル・リスニング(定性)
  5. 利益改善の打ち手を読み解く:プロフィットツリー分析(定性)
  6. 価格反応調査:コンジョイント分析(有効だが複雑で統計ソフトも必要)
  7. 競合との位置関係を知り強みと弱みを知る:コレスポンデンス分析 (定量)
  8. 可能性のある価格帯を探る:PSM(Price Sensitivity Measurement)分析(4つの質問)(定量)
  9. 営業取引単位の利益を把握する:ポケット・プライス分析(定量)
  10. 顧客の価格感度の把握:価格弾力性分析(定量)

 【責任部署の設立とマーケティング部門へのエンパワメントの例】

  1. CMO設置とレポートラインの組織化
  2. マーケティング・ミックス全体の管掌
  3. 各事業部門におけるプライシングマネジャーの任命

 

Other References

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HX
HX
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SDX
SDX
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Tactics
タクティクス
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Strategic Pricing
ストラテジック・プライシング
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Marketing Analytics
マーケティング・アナリティクス
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HX/CX Survey
HX/CXサーベイ