Sales Management System(営業マネジメントシステム)では、業績管理体制、営業活動のモニタリング、マネジメントサイクルの3つにおけるデザインと運用に関する課題を解決します。KKDや精神論に基づいた営業活動が主流だった時代にデザインされたマネジメントシステムから、テクノロジーツールを活用するアジャイルな営業活動にフィットする仕組みへのアップデートも解決すべきテーマとして併せて取り組みましょう。
業績管理に関しては、売上から利益にフォーカスする変革に伴い、業績評価指標を刷新することが必要です。営業利益を引き上げるには売上増加とコスト削減のいずれかまたは両方が必要である方程式を更に分解して、管理すべき成果とプロセスをKPI(Key Performance Indicator:業績評価指標)として定義、モニタリング対象とするわけです。また、成果とプロセスの評価バランスに関しても検証しておきましょう。例えば、成果とプロセスの評価バランスのモデルケースでは、CSO(Chief Sales Officer:営業部門責任者)やシニアマネジャーの場合は10:0、マネジャーは7:3、リーダーは4:6、スタッフは1:9となります。なお、シニアマネジャー以上の階層と下位層とで評価方法を別にして、成果責任を明確に定義している企業の場合はこの限りではありません。
次に、営業活動のモニタリングです。そもそも現状の営業活動のモニタリングが、営業活動の進捗状況を確認しながら、利益や売上の獲得見込み、次の打ち手をどのように講じる予定なのかについて上司が部下に確認し、叱責・激励、鼓舞する独演会になっていないでしょうか。もしこのような状況に陥っていれば、営業担当者はその場凌ぎの適当な言い訳や虚偽報告をでっち上げるだけですので、営業部門として営業活動の実態を把握できないだけでなく、営業マンの流動化にもつながりかねない事態を招くことになりますので、早急に是正しなければなりません。まず検証すべきはアクションプランです。適切なアクションプランは、
- 顧客情報
経営環境、財務情報をはじめとする当該企業の基礎情報、意思決定権者・意思決定プロセス、影響者等 - 取引情報
自社及び競合の取引実績(過去と現在)、未導入製品・サービス情報、契約更新時期等の新規導入が見込まれる時期等 - 顧客ニーズ・セグメント情報
ニーズ充足度、過去と現時点のセグメント等 - 目標
利益、売上、販売数量、単価等 - 攻略アプローチ方法とタイミング
目標達成のために、いつまでに何をするか、顧客別に策定する具体的なアプローチ方法等
の5点を満たすことが必要であり、状況変化に合わせて適宜アップデートすることが不可欠です。こうしたアクションプランを予め策定し、内容の適切性を確認後にモニタリングを実施します。モニタリングの目的は、結果を出すことを阻害するボトルネックの特定と、それを解消する手立てを考えることです。ターゲット顧客の見極め、ニーズの詳細把握、提案からクロージングに至るまでをブレイクダウンして、担当者の次のアクションを促すことを主軸に話し合いましょう。留意すべきは、モニタリングはこれからどうするのかを一緒に考える予定管理の場であって、過去の失敗を追究する場ではないことを明言することです。過去の失敗をあげつらえば、営業担当者は萎縮して無力感に苛まれ、参加者全員のメンタルを傷つける非生産的な時間になってしまうので、マネジャーは予定管理の重要性を改めて認識してモニタリングに臨みましょう。
最期に、マネジメントサイクルの適正化についてです。結論から言えば、PDCAからOODAへの進化と、部門全体でのOODAサイクルの確立が必須になります。PDCAは経営環境の変化が現代ほど激しくない時代にフィットするマネジメント・フレームワークであり、前期レビューに基づくPlan、着実なDo、定期的にCheckして軌道修正したActionを行い、その結果を再びPlanにフィードバックするというサイクルが効果を発揮していました。しかし、現代の経営環境の変化は、不確実かつ不連続的に訪れることが当然であり、変化への即応性が重視されるように変わり、巧遅よりも拙速を是とするマネジメントサイクルが必要になっています。それがOODAであり、Observe(観察)、Orient(情勢判断)、Decide(意思決定)、Action(行動)の4つのプロセスで構成されるアジャイルな働き方との相性が優れた必須のフレームワークです。研究開発やシステム開発で活用されるSCRUMやSPRINT等の働き方との親和性が高いものですが、営業部門のマネジメントにも当然活用すべきものです。
このOODAを部門全体と個人に対して適用することが、営業部門全体を適切に運用するためには不可欠となります。まず部門全体におけるOODAですが、CSOからスタッフに至るまでの全階層の隅々までOODAによるマネジメントを徹底することが重要です。大半の企業で月・四半期ごとの営業部門全体ミーティングは実施されていますが、残念なことに上司への状況報告定例会という内容がほとんどであり、顧客ニーズや競争環境等、様々な変化に対応するための戦術変更や体制変更、それを反映したKGI、KPIの再設定、修正を加えたアクションプランの再策定等について討議を重ね、周知徹底をはかる場にはできておらず、あるべき内容からかけ離れた実態であることがほとんどです。営業部門全体としてOODAをまわすことの重要性を再認識して仕組み化しましょう。また、個人別のOODAを徹底する際には、営業部門内の他課・係は勿論、他部門の状況を理解して共有する横串での連携も不可欠です。営業部門は、利益創出を牽引する旗手であると同時に、提供価値を創造する組織全体の事業活動を統合する役割も果たす役割を担っていますから、現場で看取した変化の兆候を一刻も早く他部門とシェアするためにOODAを活用し、アジャイルな価値創造につなげることが可能になるのです。
SFE
Sales Force Effectiveness(営業生産性向上)では、営業の期待役割の再定義と営業活動の標準化、そして営業部門全員の営業プロフェッショナル化を断行します。あるべき営業活動を定義し、標準化することは、営業部門にとって何をおいてもまず最初にチャレンジすべきテーマです。一般的な営業活動の流れは「ドアオープン→提案内容の検討→提案・仕様決定→プライシング→クロージング→納品→リピート」となりますが、各プロセスで実施する関係構築、タスク、投入時間数、提案書作成、プレゼンテーション、クロスセル・アップセル手法等を明確にすること、特に競合に対する優位性を確立できる提供価値をどのように提案に盛り込むか、という点を重視して標準化に取り組みます。営業成績トップクラスの営業マンの行動特性を紐解き、活動分析することが有効な手立てとなるでしょう。
次に、営業生産性の現状を把握するために営業マン別獲得利益を調べましょう。結果は、上位2割ほどのスター営業が利益全体の8割前後を占めるか、それに近い状況ではないでしょうか。数値の違いこそあれ、どの企業でも少数のハイパフォーマーが多数のルーザーの分まで背負って戦っているのが現実です。営業生産性のバラつきはいつの時代でも課題であり、研修や勉強会を頻繁に実施しても解決に至らないケースが大半です。このような状況に陥るのは、営業活動のあるべき姿(営業活動モデル)を的確にデザインできていないことが原因です。営業活動モデルは、利益確保のドライバーを把握したうえで自然に利益を創出できる仕組みとしてデザインされたものです。営業活動モデルが現代のビジネスシーンにフィットしているか否かは、利益目標の達成状況を見れば一目瞭然です。営業活動のどのプロセスに、どのようなインプットを、どれだけの量投入すれば利益があがるのかがわかれば、営業活動モデルを正しくデザインでき、標準化して共有することで営業生産性は確実に向上します。また、営業活動を標準化できれば、組織全体の営業生産性の底上げにつながり、業績が向上する可能性が高まるだけでなく、営業マンが注力すべき本来の営業活動を特定できるため、後述するSFAやCRM等のテクノロジーを活用することで更なる営業生産性の向上を実現するセールスDXにつながる取り組みにもなります。
なお、重厚長大産業のような歴史ある企業の場合、営業活動モデルのアップデートがビジネス環境の変化の早さに追いついていなかったり、ビジネスそのものの質的転換にフィットしきれていないケースも散見されます。また、営業力が強いと言われる業界では、昭和時代から続く根性論や精神論がいまだにまかり通っていることもあります。失注にもめげずに営業活動を続けるには、忍耐力や十分な行動量、それを支える精神力が必要なことは紛れもない事実ですが、現代の営業活動としてあるべき姿と比べると合理性に欠ける、あるいは多様化する価値観や働き方とフィットしにくい営業活動であり、従業員に対するハラスメントの見地からも問題なしとは言い難いことも事実です。令和になってから一度も営業活動のアップデートを実施していない企業は、営業活動モデルの見直しが急務です。
営業活動モデルのデザインが完了したら、部門全体でシェアする段階に入ります。全営業マンが営業プロフェッショナルになることを目指すのです。はじめに、営業マネジャーを対象とする「営業プロフェッショナル開発機能強化カリキュラム」を実施、全営業マネジャーがスター営業マネジャーの価値判断基準、行動特性、具体的なマネジメント活動を完全にトレースできるよう変革します。リーダーシップスタイルやマネジメント手法の習得も同時に行うことにより、理論と実践の両面から営業プロフェッショナルを開発する仕組みを構築するのです。次に、カリキュラム受講後、各営業マネジャーから個別の営業マンに対し、あるべき営業活動モデルの定着促進活動を行っていただきます。自分が習得した知見に基づき、個々の営業マンの強みと弱みを明らかにしたうえで、強みを伸ばし、弱みを補う方法を営業マン本人と共に考え、活動改善計画を策定し、日々の営業活動の是正に取り組みます。MBOや1on1ミーティングと組み合わせて早期定着を実現します。
SPD
Sales Professional Development(営業プロフェッショナル開発)では、営業マンの早期プロフェッショナル化を実現するレディネス整備と仕組みづくりを行います。営業プロフェッショナルが具備すべきレディネスは、顧客主義、高度専門性、そして倫理観の3つです。自分の目標達成や自社の利益を確保するために顧客を誘導するのではなく、顧客のビジネスに価値を提供することを最優先するスタンスを堅持できる営業マンはそれほど多くない現実を見ると、顧客主義を貫くことの難しさはご理解いただけるでしょう。また、自社商品に精通していることは当然ですが、競合の商品情報と商談の進め方、顧客のビジネスに関する情報、顧客の顧客に関する情報等を常に収集・分析し、顧客が直面する課題を解決するソリューションを提供するために不断の努力を積み重ねている営業と、過去から受け継がれてきた御用聞きを相変わらず継続している営業とでは、明らかに顧客からの引き合いに差が出ます。そして、顧客主義のスタンスに立ち、高度専門性を有する営業マンは顧客からの信頼を勝ち得て、継続的な取引が行われるようになりますが、安定的な商習慣が続くうちに魔が差す瞬間が忍び寄ってきます。誰もが手を染めてはいけないとわかっているはずの贈賄や不正会計等の不祥事や事件が、有名企業や大企業でさえ後を絶たないのは、コンプライアンスに抵触しそうな物事に対してどう身を処すべきかという倫理観を確立させることが不可欠です。この3つのレディネスを具備することは、CXからHXへの進化に直面する企業にとってかつてないほど重要度を増しており、営業職であること以前に、人として正しくあることができない人とのつながりは忌避されるようになっています。
具備すべき基本スキルも様変わりしました。KKDと足で稼ぐために必要なスキルが不要になったわけではありませんが、それにも増してマーケティングに関する知見、テクノロジーツールを使いこなすためのリテラシー、そして効率的な営業を行うために必要な人と組織を動かすためのロジカル・コミュニケーションの習得が必須になっています。マーケティングに関する知見は、顧客のCXやHXへの貢献という視点からアプローチするために不可欠であることは勿論ですが、モノからコトへと顧客のニーズが変化した今、顧客の課題を解決するソリューションを提供することが営業という仕事のコアであり、単にモノを売り込むだけのセリングとは何がどう違うのかを認識したうえで取り組むことが求められていることを腹に落とすためにも、必要な知見なのです。モノやサービスを売り込むのではなく、顧客が抱えているジョブは何か、それをどのように解決できるのかについて、顧客とじっくり向き合うことができるか否かは、マーケティングに関する体系的な知見を学ぶことで決まると考えます。そして、テクノロジーツールに関するリテラシーは現代の営業マンにとって必須です。タイムリーかつ効果的な価値提案をするうえで、MA、SFE、SFA、CRM等のテクノロジーツールを駆使できなければ、それを武器に対抗してくる競合に勝つことは難しく、あっという間にシェアを失います。また、フォーカスしなければならないロイヤルカスタマーは誰か、どのようなアプローチが効果的か、クロスセルやアップセルの提案はいつ行うのか、適用すべきプライシングはどのような手法が最適か、このようなアプローチを繰り返すことによって創造できた満足顧客に対し、効率的に利益を創造できるCX、HX、CRMはどのようにデザインするか等、儲かる仕組みの構築に資する取り組みを検討するうえでも必要な知見です。そして、顧客から得た情報に基づいて顧客への価値提案をまとめるには、自分だけでなく社内外の関係者に協働や連携を要請することが必要になります。そのために具備すべきスキルがロジカル・コミュニケーションです。顧客の要望と提案したい価値について理路整然と説明することで、いつまでに、誰に、何をしてもらいたいのかを正確に伝え、組織全体での顧客対応体制を整えることができれば、提案内容への高評価と、営業マンに対する信頼感もより確かなものになります。
次に、SPDのコアである営業スキルアップでは、営業マンのOSであるベーシックスキルと、顧客のジョブを解決するために必要となるアプリケーションスキルの2つを強化する仕組みをデザインします。前者ではマインドセットとコンピテンシーを、後者ではバリュー・プロポジションとジョブ理論に基づく営業シナリオとコンサルティングセールススキルを対象とします。ベーシックスキルアップの中で最初に取り組むべきで最も変革することが難しいのがマインドセットです。マインドセットには
- 知的マインドセット
自分が持つ知見や経験とは異なるものでも、興味と好奇心を持って深く知りたいと思う - 心理的マインドセット
異質な環境・状況や、初めて経験するシーンに直面しても、恐れるのではなく面白いと思う - 社会的マインドセット
異質な背景、価値観、意見を持っている人とでも、関係を広げたいと思う
という3類型があり、①と③はそれなりのビジネススキルがあれば高めることは比較的簡単ですが、②に関しては頭で考えて開発しようとしてできるものではなく、このようなシーンでの経験のうち、楽しいと思えたものを自分のなかで反芻して増幅することでしかなしえないので、一筋縄ではいかないと言われています。DXやグローバリゼーション等、未曽有の変化に晒される現代のビジネスパーソンにとって、まさに②に対処するマインドセットへのシフトが求められていることは明らかです。これまで接点を持つことができなかった世界中の顧客へリーチできるようになった反面、思いがけない反応やタフなネゴシエーションを強いられることもあり、戸惑うのは当然ですが、「これはグローバルな顧客対応体制を新たに構築するためのヒントを得られる絶好のチャンスだ!」と面白がることができるよう、意識的に仕向けていくことで②のマインドセットを強化することが必要なのです。また、コンピテンシーの強化に関しては、現在どの発達段階にあるのかを検証したうえで、どれくらいのレベルまで向上させることが必要なのかを知ることから始めます。コンピテンシーとは「その時々の状況に応じて、最も効果的・効率的に成果に結びつける方法を考えて実践する行動」、つまり「行動様式」であることはご承知のとおりです。成果主義導入時に「コンピテンシー・モデル」を策定した企業が多数あったことから、ワード自体は耳慣れた方々も多いでしょう。一般的に、コンピテンシーの発達段階は5つと言われています。
Lv.1:上司の指示を完遂できる
Lv.2:ある状況においてやるべき当然のことを自ら完遂できる
Lv.3:状況を的確に判断し、その状況下でできる最適なアプローチを選択して完遂できる
Lv.4:閉塞状況や困難な状況でも諦めず、打破する方法を独自の工夫で考案して完遂できる
Lv.5:パラダイムシフトして、すべての成果を集約できるような独自で新しい状況を創造できる
各段階は更にLv.1~3までが状況従属行動、Lv.4が状況変容行動、Lv.5が状況創造行動として分類でき、Lv.5の難易度が最高です。DX以前の時代では、ほとんどのビジネスパーソンはLv.3でも通用しましたが、現代ではLv.5を目指す努力が必要です。しかし、Lv.5は誰もが到達できるレベルではないことも厳然たる事実であることと、安定的にコンピテンシーを発揮することを阻害する3つの要因(解がない、多様性、ストレスフル)の影響を適切にマネジメントする仕組みがなければ、コンピテンシーのレベルアップは容易く実現できるものではありません。Lv.4、5であることが要求される上位職ほどレベル間の難易度格差が大きく、レベルアップに難渋します。これを突破するために必要な施策を考案し、仕組みとして稼働させることが営業プロフェッショナル開発の最期のプロセスになります。
それが、評価・報酬システムとチームワークのデザインです。CXやHXを向上させるためには、営業プロフェッショナル自身が卓越したEXを実感できていることが大前提であることは疑問の余地はありません。成果を適切に評価し、報酬にフィードバックする仕組みが正しく機能することは勿論ですが、利益確保の最前線で戦うことに伴うストレス・マネジメント(コーピング)も同時にデザインすることを忘れてはなりません。ワークライフバランス、健康経営、ウェルビーイングの追求とともに、ストレスと戦う現代のビジネスパーソンをサポートする仕組みの有無は、優秀な人材を獲得するうえでも不可欠であり、こうした仕組みを導入してはじめてエンゲージメントが向上します。また、真の営業プロフェッショナルになるためには、エコシステムも含めた組織全体で戦う「チームワーク」が最強の武器となることを認識して、チームワークを正しく機能させなければなりません。そのためには、チームのメンバーと目的を共有し、目的を実現しようとする協働意欲を持って、協働のためのコミュニケーションを緊密化することが必要です。ともすると個人プレーに走りがちなメンバーには、チーム目標の達成と個人の成功体験を通じた成長をリンクさせる工夫や、キャンペーンを企画して協働による実益(インセンティブ等)を実感できる機会を設けたり、顧客、競合、成功事例等の属人化しがちな情報を持ち寄って次のアクションについて討議したりアイディアを出し合うような質の高いコミュニケーションを行うことで、チームワークが業績向上に資するものであることを営業部門全体が実感できるように変革しましょう。