Tactics

デジタル・マーケティング戦略の実践にあたって念頭に置くべきは、顧客とのエンゲージメントを強化するために何をするかを明確にすることです。素晴らしい製品やサービスが溢れている現代では、製品の卓越性や魅力的なCXだけでなく、顧客が思わずWow ! と口走るようなコトを持続的かつパーソナライズした状態で提供できることが差別化につながります。ブランドと顧客の間に個人的なエンゲージメントを築き上げ、顧客の心の最も奥にある不安や欲求を共有し、パーソナライズ・カスタマイズしたソリューションを提供できる仕組みを構築することが目標となるでしょう。本コンサルティングでは、デジタル・マーケティング戦略の実践上留意すべきポイントをバージョン別に検証し、構築します。自社の現状と目的を検討したうえで、CXを軸とするマーケティング機能を構築したい場合は主にマーケティング4.0を、HXを軸とするマーケティング機能を構築したい場合は主に5.0に注力してアプリケーションのインストールに取り組むことを推奨します。具体的には、CXやCJの課題解決がままならない企業の場合、Marketing 4.0の確立に取り組むことで5.0への移行に必要となるレディネスが整うメリットがあります。また、IPOやグローバル市場に打って出ることを計画していない企業や、事業承継を考えていないスモールビズ企業は、既存事業デジタライゼーションのためにローカライズに特化したデジタルマーケティングを確立することを目指すバージョン4.0の高度化に専念するほうが現実的でしょう。

Marketing 4.0

Human-centric Branding

ヒューマンセントリック・マーケティング

これまでマーケティングの中心に存在したものをバージョン別に振り返ると、製品中心だったマーケティング1.0、顧客中心の2.0、人間中心の3.0となります。4.0となった今、人間中心であることの重要性がさらに高まり、顧客の機能的・感情的ニーズを満たすだけでなく、潜在的な不安や欲求を明らかにして対処することが必須となっています。例えば、ソーシャル・リスニング、ネトノグラフィー、共感型リサーチ等の没入型調査によって、顧客がデジタル・インターフェイスとどのようなインタラクションをしているか、技術との関連でどのように行動するか、顧客が互いにインタラクションをするためにどのようにテクノロジーを利用しているかを探ります。そのうえで、顧客がデジタル・コミュニティでブランドをどのように認知しているか、顧客を特定のブランドに惹きつける要因は何かを理解するためにも利用できます。

このようにして顧客の人間的側面を把握したら、今度はブランドが具備すべき人間的特性を明確化します。かつて上下関係にあった顧客とブランドは、今では相並び立つ横の関係に変わっていることを考えると、威圧的になることなく友人のように顧客に影響を及ぼしたいなら、他者を惹きつける下記6つの人間的特性を備えることが必要となります。

  1. 身体的魅力
    ロゴマーク、タグライン、デザイン、ユーザー・インターフェイス(店舗、スタッフのサービス等)、素晴らしいCX等
  2. 知性
    ジョブを解決するための、革新的で、他のプレーヤーや顧客が思いつかなかった製品・サービスを世に問う等
  3. 社交性
    顧客や顧客同士の声を傾聴し、質問に答え不満を解決し、エンゲージメントを強化、SNSに興味深いコンテンツを掲載する等
  4. 感情性
    顧客の感情に訴求するメッセージやユーモラスな一面を発信して、顧客と感情レベルでのつながりを構築する等
  5. パーソナビリティ(人間力)
    自らのパーパスを正確に理解したうえで、欠点を見せることを恐れず、自らの行動に100%責任を持つ等
  6. 道徳性
    善悪の区別を知り、倫理的で誠実で、適切な倫理的配慮があらゆる意思決定において重要である等

人間中心の時代に顧客を惹きつけるには、このような人間的特性をブランドに採り入れることが急務なのです。

Content Marketing

コンテンツ・マーケティング

従来の広告に代わって顧客へのリーチ手法として広く使われるようになったのがコンテンツ・マーケティングです。それは、広告に含まれる情報が製品・サービスの販売促進を目的とした情報であるのに対して、コンテンツに含まれる情報は顧客が自分の個人的・職業的目的を達成するために使いたいと思う情報だからであり、顧客へのパワーシフトが起きた時代ならではの変化と言えるでしょう。コンテンツ・マーケティングを適切に遂行するための8つのステップは下記のとおりです。

  1. ゴールセッティング:達成することの明確化
    • ブランド構築:ブランド認知、ブランド連想、ブランド・ロイヤルティ/ブランド推奨等
    • 売上増加:リード獲得数、成約件数、クロスセリング件数、アップセリング件数、紹介件数等
      ※重視すべきはB2Bならリード獲得と売上、B2Cならブランド認知、ロイヤルティ、エンゲージメント
  2. オーディエンス・マッピング:顧客と顧客の不安や欲求の特定
    • プロファイリングによるペルソナ(象徴的な人物像)のデザイン
    • ペルソナの不安や欲求、ペイン(問題)やアスピレーション(願望)の明確化
      ※ペルソナの不安を和らげ、欲求を満たす助けになるコンテンツを提供すること
  3. コンセプトワーク&プランニング:総合的なテーマとコンテンツのロードマップの明確化
    • テーマ:顧客の生活との関係が明らかで、ブランドの特性や規範を表現するストーリーを含むこと
    • フォーマット:コンテンツのビジビリティ(可視性)とアクセシビリティ(利用しやすさ)の確保(文書、写真、動画、Web等)
    • ストーリー:複数のエピソードで構成された短いストーリー・アークが全体のストーリーラインを支えること
      ※CJ全体にわたる適切なフォーマット・ミックスとシークエンスの構築が重要
  4. プロダクション:制作者の決定とスケジュール作成
    • 制作者:クオリティ、オリジナリティ、フルフィルメントの観点から、社内or社外での制作を決定
    • 社外制作の場合:アウトソース、第三者制作コンテンツのスポンサード、ユーザー生成コンテンツのキュレート(収集・編集)
      ※一貫性を要する継続的なプロセスがゆえ、長期的には社内にコンテンツ制作能力を有すべき
  5. デリバリー:配信チャネルの決定
    • オウンド・メディア:自社出版物、イベント、Web、ブログ、オンライン・コミュニティ、SNSアカウント等、既存顧客向け
    • ペイド・メディア:ディスプレイ・バナー、アフィリエイト、リスティング広告、SNS・モバイル広告等、新規見込み客向け
    • アーンド・メディア:クチコミや推奨によって獲得できた報道や露出
      ※アーンド・メディアが機能するためには、オウンド・メディアやペイド・メディアでの配信が不可欠
  6. スプレッド:活用方法と顧客との交流方法のデザイン
    • インフルエンサー:意図するオーディエンスの主要インフルエンサー自身の信用創造に役立つと確信させる互恵関係の構築
    • カンバセーション:膨大なカンバセーションの中から最適なものを選定して拡散状況をウォッチ
      ※自分の影響力を拡大することに熱心なインフルエンサーに、より大きなオーディエンス集団へのアクセスを提供することが有益
  7. アプレイザル:キャンペーンの目標達成度の測定
    • ビジビリティ(認知):インプレッション、ユニーク・ビューワーズ、ブランド想起率等
    • リレータビリティ(訴求):ページビュー、直帰率、サイト滞在時間等
    • サーチャビリティ(調査):検索エンジン上の位置、検索エンジン参照件数等
    • アクション(行動):クリックスルー率、CTA(Call to Action)、コンバージョン率等
    • シェア(推奨):シェア率、エンゲージメント率、メンション、リプライ等
      ※これらの測定指標に基づいて①で設定したブランド関連や売上関連の目標達成度を定量的に判断すること
  8. インプルーブメント:テーマ、フォーマット、チャネルごとのパフォーマンスの改善点の明確化
    ※改善の影響が表出するまで時間がかかるので、ある程度の粘り強さと実施の一貫性は必要(拙速は禁物)

これらの視点に基づいて、あるべきコンテンツ・マーケティングを確立します。

Omni-channel Marketing

オムニチャネル・マーケティング

様々なチャネルを統合し、シームレスで一貫性のあるCXを生み出す手法がオムニチャネル・マーケティングです。顧客の移動性と接続性の高まりに伴って、顧客の生活の中で「時間」が最も希少な資源になった今、モバイル・デバイスをオムニチャネル戦略の中心に据え、実店舗(オフライン・チャネル)でのCXにウェブルーミングを、またオンライン・チャネルでのCXにショールーミングを取り入れて顧客に関するビッグデータを入手し、活用することは重要なトレンドとなっています。優れたオムニチャネル・マーケティング戦略の構築は、下記3つのステップで実現できます。

  1. CJの5A(認知→訴求→調査→行動→推奨)別に考えられるすべてのタッチポイントとチャネルをマッピング
    • タッチポイント:ブランドや他の顧客とのオンライン・オフラインでの直接的・間接的インタラクション
    • チャネル:
      • コミュニケーション・チャネル・・・情報やコンテンツの伝達を容易にするもの(各種メディア、Web、コンタクト・センター等)
      • 販売チャネル・・・取引を容易にするもの(小売店、セールスフォース、eコマース、展示販売会等)
  2. 最重要のタッチポイントとチャネルの特定
    • パレートの法則が成立するならば、考えられるすべてのCJシナリオの上位20%が80%の顧客が辿るものであるという仮説を設定
    • 5Aの各要素間のコンバージョン率や平均所要期間、重要度指数等を定量的に試算して、CJシナリオのスナップショットを作成
  3. 最重要のタッチポイントとチャネルの改善
    • オムニチャネルにおける真の素晴らしいCXを提供するためには、この戦略を実行可能にする組織構造への変革が必須
    • 部署間の壁を壊し、異なるチャネルを担当するチームを統合して各チームが協働してシームレスで一貫性のあるCXを提供
    • チーム統合が難しいなら相互にインセンティブを与え合う仕組みでオムニチャネル・マーケティングを支持する動機付けを実行

オンライン、オフラインを行き来しつつ、(ビッグテックが提供しているものと同レベルの)シームレスで一貫性がある素晴らしいCXを顧客が期待している以上、最重要のタッチポイントとチャネルにフォーカスした改善を繰り返すことが求められています。

Engagement Marketing

エンゲージメント・マーケティング

デジタル・マーケティングにおける最重要プロセスは、初回購入者を推奨者にコンバートするための3つのエンゲージメント活動にあります。

  1. モバイル・アプリケーションを活用してデジタルCXを高めること
    • コンテンツの媒体であること:ポケモンGo等
    • セルフサービス・チャネルであること:口座情報にアクセスして、支払いや処方薬の補充、写真印刷、クーポンのクリッピング等
    • コアな製品体験やサービス体験に組み入れることができること:マイBMWリモート、MMIコネクト等→優れたモバイル・アプリケーションの開発ステップの要旨
      • ユースケースの決定:顧客がアプリを使って達成しようとする目的(ジョブ)を特定し、その解決策を考えだす
      • 主要機能とUIのデザイン:協働・共有、位置、移動(SoLoMo:Social, Location, Mobile)機能の組み込みと直観的操作の実現
      • バックエンドの統合の確立:バックオフィス、店舗、他のメディア・チャネル、サードパーティのパートナーとのシームレスな統合
  2. ソーシャルCRMアプリケーションを活用して顧客をカンバセーションに参加させ、ソリューションを提供すること
    • ソーシャルCRMとは、ソーシャル・メディアを使って顧客とのインタラクションを管理、長期的リレーションシップを生み出すこと
    • 特徴は、顧客主導、ブランドと顧客の間だけでなく顧客と顧客の間で交わされるカンバセーションであり、顧客における問題を解決する活動
    • (ブランドやコンテンツを伝える活動であるソーシャル・メディア・マーケティングとは異なるもの)
    • 3つのユースケース
      • 顧客の声を聞くこと
      • ブランドを一般的なカンバセーションに参加させること
      • ブランドの危機につながりかねない不満への対処→優れたソーシャルCRMアプリケーションの開発ステップの要旨
        • 察知・対応能力の構築:重要なカンバセーションとノイズを区別するソーシャル・リスニングのアルゴリズムが必須
        • 専任スタッフの育成とエンパワメント:ハイレベルの共感能力を有する当該ブランドの代表としてトレーニングすると共に、知識基盤と権限を付与
        • 推奨者の利用:推奨者を参加させ、ブランドへの否定的コメントの対応等、コミュニティを顧客同士のセルフヘルプ・プラットフォームへの進化を促進
  3. ゲーミフィケーションを活用して適切な顧客行動を促進すること
    • より高い目標を達成し、自分の達成を認められたいという承認欲求を利用したエンゲージメント増進施策
    • 特定の売上額を得るために必要なマーケティング予算を試算できる計算可能性が確立できるメリットあり
    • カスタマイゼーションやパーソナライゼーションに役立つデータ収集手法で、顧客を階層化すること自体が真に重要な顧客にフォーカスする手助けになる
    • ロイヤリティ・プログラムにおけるマイレージ、顧客コミュニティにおけるバッジ付与等が代表例→優れたゲーミフィケーションの開発ステップの要旨
      • 促したい行動:購入、紹介、支払い等の取引行動や、レビュー執筆、個人情報の提供等
      • 登録方法と階層化方法:初回購入時や個人情報の登録時に自動的に参加させ、個々の顧客の収益性を測定、ステータスを階層化して最も高価値な顧客に注力
      • 表彰と見返り:特定階層に昇格することで付与される特別な権利や、貯まるまで待たずすぐに引き換え可能な見返り(即時満足)の提供がトレンド

Marketing 5.0

マーケティング5.0を構成する5つの要素(2つの規律と3つのアプリケーション)は以下の通りです。検討順に概説します。

Discipline 1 - Data-Driven Marketing

規律1.データドリブン・マーケティング

マーケターの究極目標は、顧客一人ひとりに完全にパーソナライズされたマーケティングを実現することです。かつてOne to one マーケティングにて提唱されたSegment of One(セグメント・オブ・ワン)は究極のセグメンテーションであり、デジタル・テクノロジーがこれを可能にしてくれます。つまり、4つのセグメンテーション(地理、人口統計、心理、行動)を活用してペルソナのプロファイリングの解像度を上げ、いわゆるマイクロ・セグメンテーションを強化できるのです。顧客データベース、市場調査、メディアデータ、ソーシャルデータ、ウェブデータ、POSデータ、IoTデータ、エンゲージメントデータ等を統合するデータエコシステムを構活用するデータドリブン・マーケティングを実践することが急務になったと言えるでしょう。データドリブン・マーケティングのデザインは3つのステップで取り組みます。

  1. 目的の決定
    データドリブン・マーケティングは、新製品・サービス開発、CXのパーソナライズ化、戦略的プライシング、ターゲティング・コンテンツの制作、メディア選定、チャネル選定、見込み客リストの作成、顧客維持、顧客離反予測等のいずれにも活用できますが、一気にあれもこれも成し遂げようと欲張るのはお薦めできません。最も重要なひとつかふたつの目的に絞り込み、集中して取り組むことを強く推奨します。それが、社内に求心力を生み出し、強固な部門連携やコミットメントを引き出し、一人ひとりの取り組みの優先順位付けにもつながります。実用的な知見の創出や具体的な取り組みを加速させるのです。
  2. 必要データの特定と入手
    1で決定した目的を達成するために必要となるビッグデータを特定するとともに、それが入手できるデータかどうかを確認することが必要です。必要な分析と6つのデータソース(ソーシャルデータ、メディアデータ、ウェブデータ、POSデータ、IoTデータ、エンゲージメントデータ)を明示したデータマトリクスを作成、社内外に散在するデータを具体的な取得計画に基づいて収集します。対象データは社内にあるものは勿論、パートナーやサプライネットワークをはじめとする第三者から取得するものもあり、不完全なデータの処理や重複データの統合、不正確なデータの修正等のデータクレンジングは必須です。
  3. 統合データエコシステムの構築
    データ統合の最大のネックとなるのが、すべてのデータソースの共通項を見つけることです。つまり、個々の顧客レベルでのデータ統合が理想ですが、自社顧客ならIDで管理できるものの、そこに第三者から取得したデータを統合することは難しく、現実的には「18歳から24歳までの女性」というような特定の人口統計学的変数のセグメント名で統合することになります。これらのセグメントごとにビッグデータを統合するわけですが、ダイナミックなデータセットをひとつのデータ管理プラットフォームに保管、管理し、やがて分析まで自動化するエコシステムの構築を目指します。

データドリブン・マーケティングは、あくまでもマーケティング・プロジェクトであってITプロジェクトではないこと、具体的な目的のために定期的に実施されるマーケティング・リサーチ(エスノグラフィー調査、ユーザビリティ・テスト等)と実行中のマーケティングをよりよく改善するためにリアルタイムで実施されるビッグデータ解析は両方とも必要であること、分析の自動化はできても、経験豊富でコンテクストに関する知見を有するマーケターによる解釈が必ず必要であること等に注意して取り組むこととなります。​​​

Application 1 - Predictive Marketing

アプリケーション1.予測マーケティング

あらゆるマーケティング活動の結果を予測できるようになれば、先手を打つことができます。例えば顧客管理において、顧客との関係性を構築する前に、どの顧客からどれだけのLTVを獲得できるか予測できれば、当該顧客の獲得と育成に必要な投資額を決めてROIを向上させることができます。製品管理においては、市場投入前の試作品の売上を予測できれば、既存製品・サービスラインナップとのクロスセル・アップセルの余地を明らかにすることができるでしょう。また、ブランディングにおいては、どのようなキャンペーンを打てば成功可能性が高まるか予測できれば、顧客の感性に訴求するブランド・コミュニケーション活動やマーケティング・コミュニケーション活動をデザインすることが見込めます。これらを実現するために必要となるのが「予測マーケティング・モデル(Predictive Marketing Model)」です。予測モデルの主な構築手法は以下の3つです。

  1. 回帰分析
    予測分析におけるもっとも基本的で有用な手法です。カスタマー・エクイティ・モデル、プロペンシティ・モデル、離脱予測モデル、製品親和性モデル等の構築に役立ちます。作成手順は、①独立変数と従属変数のデータ収集 ②関係を説明する方程式の算定 ③解釈して知見を明らかにして正確度を確認 ④独立変数を所与として従属変数を予測、となります。できるだけ簡単に最高の結果をもたらすマーケティング活動を特定したい場合に使われることが多く、Excelのグラフにおける回帰方程式をよく目にするように、数多くの企業で様々な分析で活用されています。
  2. 協調フィルタリング
    顧客(アドボケーター)に自社製品を推奨してもらう仕組みを構築する際に活用されます。作成手順は、①顧客の選好の収集 ②クラスタ分類 ③新製品・サービスに対する評価の予測、となります。人間は、自分が過去に購入した製品・サービスと似通ったものを好み、自分と同じような選好を持つ他人が購入した製品・サービスを好む、という想定に基づく予測モデルです。「いいね」や「☆」の数による評価システム、欲しいものリスト、ショッピングカートに入れる等の選好を反映する行動でデータを収集できます。
  3. ニューラル・ネットワーク
    精緻な予測モデルを構築する場合の活用される手法です。人間の脳における神経細胞(ニューラル)ネットワークに倣ったもので、AIがこれに該当します。非構造化データからモデルを構築する場合や、データサイエンティストでも判断することが難しいアルゴリズムの最適化等に活用されます。①入力データと出力データのロード ②データ間の繋がりの発見 ③隠れ層の中から導出されたモデルを使って結果を予測、という順序で機能します。人間が生涯学習をベースに点と点を結び付けて結論を導出する方法に倣っており、これまで知られていなかった相関関係、関連性、従属関係、因果関係等を発見するものです。

いずれの手法を活用する場合でも、統計プロフェッショナルやデータサイエンティストの支援は必要になりますが、少なくともCMOは彼らを指導できるレベルの知見を習得しておくことは必須です。マーケター自身も、彼らの職務内容や作業内容について概要を理解できる程度の知見習得に努めることが求められます。

Application 2 - Contextual Marketing

アプリケーション2.コンテクスチュアル・マーケティング

顧客の状況に合った体験を、IoTやAIのサポートを受けて大規模に提供することがコンテクスチュアル・マーケティング(Contextual Marketing)の使命です。これを実現するために必要になるのが、スマートセンシング・インフラストラクチャです。①近接センサーで周辺の顧客を感知 ②当該顧客に関するあらゆることをスマートフォン等のデバイスから学習 ③AIによる顧客の特定・プロファイリング ④パーソナライズされた応答を提供 ⑤ユーザーインターフェースがその応答結果を顧客に伝える、という仕組みを構築するのです。スマートフォン、スマートウォッチやRFIDリストバンド等のウェアラブル・デバイス、顔認証技術とその感情推定機能等の生体認証技術、アイトラッキングセンサー、音声分析、脳波モニターのような先端テクノロジーの活用が必要になります。また、顧客のプライベート空間である自宅空間に続々と導入されるIoT機器へのアプローチにも取り組みましょう。スマートスピーカー、セキュリティシステム、ホームエンタテインメントシステム、スマート家電等が導入されたスマートホームには、製品・サービス広告をダイレクトに顧客の生活の場に届けることができます。こうしたインフラを構築したうえでコンテクスチュアル・マーケティングをデザインするには、以下の3つのポイントを押さえる必要があります。

  1. パーソナライズされた情報
    地理的位置データを使ったジオフェンシング・マーケティング(特定地点周辺に築いた仮想境界を設定し、境界内の顧客に的を絞ったメッセージやプロモーション・オファーを自動送信する)により、パーソナライズされた情報を提供します。マクドナルドの店舗周辺にジオフェンスを築き、自社店舗へ誘導するための特別オファー・クーポンを提供するバーガーキングの例が有名です。​​
  2. インタラクション
    情報を得た顧客に対して実施されるのがインタラクション(双方向)コミュニケーションです。例えば、アパレル店に来た顧客に対して、入店したら1p、バーコードをスキャンして商品情報を参照したら3p、試着した6pを付与して、購入時の割引に充当することができる仕組みにすることにより、顧客自身が購買せずにはいられなくなるように仕向けるわけです。
  3. 没入感の醸成
    リアルとバーチャルを統合したシームレスなオムニチャネル体験に没入させることで、購入に結び付けます。地理的データとAR(拡張現実)テクノロジーを使った没入型店内ナビゲーションがその例です。小売店において、スマートフォンのモバイルアプリ内のお気に入りリストに買いたい商品を入れて、AR機能を起動させると、その商品の売場まで誘導するラインが表示され、最短距離で売り場まで辿り着けるようになっています。

このように、販売地点や顧客の生活の場にスマートセンシング・インフラストラクチャを構築することができれば、AIのサポートをうけたマーケターは必要な手立てを講じることができる可能性が拡がっているのです。つまり、いかにして販売地点や顧客の生活の場にセンサーをセットするかが、コンテクスチュアル・マーケティングにおけるKFSであると考えます。​​​​

Application 3 - Augmented Marketing

アプリケーション3.拡張マーケティング

拡張マーケティング(Augmented Marketing)は、人間の知能をテクノロジーによって強化することを目指す知的増幅(IA;Intelligence Augmentation)技術を活用して、人間と人間のインターフェースを含む多くのマーケティング活動をリデザインすることに役立ちます。つまり、デジタル・インターフェースは低価値の仕事を請け負い、高価値の仕事を人間と人間のインターフェースに集中させることで、生産性を向上させることができます。現在のAIは、微妙な差異を理解する人間の知能を再現するには及ばず、汎用人工知能(AGI;Artificial General Intelligence)の実現にはほど遠い状況にあることを考えれば、人間とマシンが互いの得意分野に集中することで補完する階層化されたインターフェース・システムを構築することが望ましいと考えます。CXの大半を占める顧客とのインターフェースであるセールスやサービスを例に考えてみましょう。

  1. セールス・インターフェースのデザインポイント:顧客ライフサイクルに基づく分類
    • 販売プロセス(ファネル)の見極め
    • インターフェース・リストの作成
    • ファネル活動と最適なインターフェースの組み合わせの決定
       ファネル別セールス・インターフェースの例
       ①トップファネル:チャットボットによる見込み客データの捕捉
       ②ミドルファネル:チャットボットによる情報提供を通じた見込み客の育成
       ③ボトムファネル:販売部隊による接客の説得
       ④契約成立:販売部隊による最終交渉と契約締結
  2. サービス・インターフェースのデザインポイント:顧客生涯価値(LTV)とロイヤルティ・ステータスに基づく分類
    • FAQナレッジベースの構築
    • 顧客階層化モデルの決定
    • 複数の顧客サポートオプションの準備
       階層別サービス・インターフェースの例
       ①ユーザー数1000名以上:専任アカウントマネジャーによる専用電話
       ② 同 500~999名:専用電話とライブチャット
       ③ 同   10~499名:Eメール、チャットボットサポート
       ④ 同  9名以下:サポートコミュニティ、オンラインリソースの参照

この例の場合、高価値な仕事(セールス③④、サービス①②)は人間が担当しますが、低価値な仕事(セールス①②、サービス③④)はマシンに担当させるのです。また、拡張マーケティングの考え方は、接客業やサービス部門のスタッフに対してデジタルツールを提供することにも役立ちます。手順は以下の通りです。

  1. スタッフが抱えるフラストレーションの理解
    卓越したCXやHXの担い手であるスタッフのジャーニーマップを作成し、フラストレーションやペインポイントを理解することが第一歩です。現状のオペレーションの効率の悪さや、顧客に望むものを与えられないことでクレームに繋がってもおかしくないこと等について、把握することが重要です。
  2. テクノロジーを活用した有効なソリューションの明確化
    ソリューション選定にスタッフを参加させることにより、解決策の理解を促進すると同時に、スタッフがどのようにスマートフォン、タブレット、ウェアラブルデバイス、パソコン等を使うのかを理解することと、実行時の課題を予測して打ち手を講じることに注意を払います。
  3. チェンジマネジメント
    新しいオペレーションへの転換に対する心理的な抵抗や、デジタルな働き方や考え方のラーニングも含めて、定着化まで粘り強く働きかけます。

マシンを活用することで、スタッフは個々の顧客に合わせてアプローチ方法を調整できるようになり、最上位の顧客には豊富な知見を有するスタッフが対応し、それ以外の顧客にはデジタル・セルフサービス・インターフェースを活用することで生産性を引き上げることが可能になります。卓越したCXやHXを実現するには、このような仕組みが不可欠なのです。

Discipline 2 - Agile Marketing

規律2.アジャイル・マーケティング

製品・サービスのライフサイクルが短縮化した現代において、時間をかけて策定された長期計画はあっという間に陳腐化します。CXやHXにおいても同様であり、前回のWow体験は、他社でより優れた体験をした後には賞味期限切れになります。デジタル空間との常時接続が当り前の顧客にとっては、24時間365日自分のニーズに対応してくれるブランドを求め、どんなものでも、いつでも、どこでも提供されることを要求します。企業は、このような顧客の要望やSNSで交わされるコミュニケーションを、頻繁にモニターして対応しなければならないのです。また、競合の動きより先んじることも当然必要になります。これを可能にするのが、アジャイル手法です。マーケティングにおけるアジャイル手法を活用するための構成要素を以下に記します。

  1. リアルタイム分析
    顧客の選好変化に迅速対応するため、変化をリアルタイムでモニターできるデータ分析能力が必要になります。ソーシャル・リスニングツールでSNSやオンライン・コミュニティでの製品・サービスやブランドに関する議論や意見や、ウェブサイトへのアクセスや取引履歴における行動の変化をフォローすることに加えて、POSデータやRFIDタグによるトラッキングデータ等も活用して、キャンペーンと結果の因果関係、新製品・サービス発売と売上との因果関係などを迅速に分析し、有効な学びを得ることが可能になります。
  2. 分散型チーム編成
    多様な専門知識を有する部門横断的なメンバーで構成された少人数のチームを、異なる問題に取り組ませて複数発足させることで対処します。アジャイルにとって最大の障壁は意思決定の遅延であり、部門間や階層の壁です。トップマネジメントは、チームが自律的に素早く意思決定できるよう、必要な権限を与えるとともに、進捗状況をモニタリングしながらフィードバックやコーチングを行う役割を担い、最終的には全チームを統合して、全社戦略目標との整合性を取ることに強いコミットメントを持つことが求められます。
  3. 柔軟な製品プラットフォームの開発
    アジャイルな製品・サービス開発を可能にするのは、コア製品となるプラットフォームに各種モジュールを組み合わせる方式だからです。この方式であれば、市場や顧客の多様な選好への対応はモジュールの組み合わせ方を変えるだけで済み、短時間で幾種類もの製品・サービスを提供できます。モデルチェンジのスパンが長い製品・サービスの場合は、販売サイクルも比較的長いので、販売からサブスクサービスに移行することで、継続的にアップデートされる製品・サービスを提供することで選好に対応しています。
  4. 並行プロセスの開発
    全速力で失敗して、最速で成功に漕ぎ着けることを是とするアジャイルでは、設計、生産、販売等の全ての要素を同時並行で進めることが特徴です。順を追って進めるウォーターフォール・モデルに慣れ親しんだ人にとっては驚きと戸惑いの連続となるアジャイルですが、致命的な欠陥や失敗が判明した時にいちからやりなおしになるウォーターフォール・モデルとは異なり、違和感や失敗の兆候を確認した時点で何度でも修正が可能な点が大きなメリットです。しかし、それを実現するためには、全チームがコミュニケーションを緊密に交わして調整することが毎日不可欠になります。
  5. 迅速なテスト
    アジャイル最大の特徴は、MVP(Minimum Viable Product、必要最低限の機能を持つ試作品)を顧客に販売して、製品・サービス自体に関する評価だけでなく、UIやCX、キャンペーンのアイディア等についても学習するテストにあります。顧客のMVPを評価してもらった結果をリアルタイム分析することにより、次のバージョン発売や大規模な市場投入に踏み切る前に、市場の受容性や売上を予測することができますし、予測の結果が芳しくない場合には、ピボット(方向転換)を決断することも可能です。サンクコストにとらわれず、素早く方向転換できるのはアジャイルならではの特性です。​​​​​
  6. オープン・イノベーションの活用
    市場投入までのリードタイムを短縮するためには、社内外のリソースをフル活用することが求めらます。イノベーション・プロセスをオープン化すると、顧客との共創やサードパーティとの協働が生まれ、イノベーションが加速するだけでなく、質が高まることも実証されています。オープン・イノベーション・チャレンジを開催して解決策を公募したり、プラットフォームを利用してイノベーション・パートナーを探すことも検討しましょう。留意点としては、社外パートナーとの協働を緊密化する分散型アジャイル・モデルの構築と運用が必要になることです。

これらの要素を考慮して、アジャイル・マーケティングへのシフトを実行します。

Other References

#
HX
HX
#
SDX
SDX
#
Tactics
タクティクス
#
Strategic Pricing
ストラテジック・プライシング
#
Marketing Analytics
マーケティング・アナリティクス
#
HX/CX Survey
HX/CXサーベイ