DX
2018年9月に経済産業省が取り纏めた「DXレポート ~ITシステム『2025年の崖』克服とDXの本格的な展開~」は、日本ではDXは遅々として進まず、このまま手を拱いていると世界的なプレゼンスを喪失する危機に直面しているとして警鐘を鳴らしています。しかし、2020年12月にされた公表された「DXレポート2」によると、DXレポート発出後2年が経過した時点でも95%もの企業はDXに全く着手していないか、取り組み始めたばかりの段階であり、全社的な危機感の共有や意識改革の段階には至っていないという実態が浮かび上がりました。その原因として、変革への危機感が低いことをあげています。また、コロナ禍への対応がうまくいった企業とそうでなかった企業を分けたのは、これまでは疑問を持たなかった企業文化の変革に踏み込むことができたか否かであり、事業環境の変化に迅速に対応するには、ITシステムだけでなく企業文化(固定観念)を変革することが重要であると指摘しています。
そのうえで、政策としては、
- レガシー企業文化からの脱却、ユーザー企業とベンダー企業の共創の推進の必要性
- 究極的な産業の姿としてユーザー企業とベンダー企業の垣根がなくなっていく
という方向性を示しました。しかし、こうした将来像を遠い未来としたうえでユーザー企業とベンダー企業の共創を議論していても、双方が変革の足枷となっている相互依存関係を脱することはできないこと、そして「デジタル産業」と表現したデジタル変革後の新たな産業の姿や、その中で企業の姿がどういったものであるかという点までは議論を進められていなかったとして、同研究会は、デジタル変革後の産業の姿、その中での企業の姿、そして企業の変革を加速させるための課題や政策の方向性を議論することを「DXレポート 2.1」として2021年8月31日に公表しました。
その要旨は、ユーザー企業とベンダー企業の現状と変革にむけたジレンマ、デジタル産業の姿と企業変革の方向性、変革に向けた施策の方向性、施策の検討状況を取り纏めたものとなっています。注目すべきは、① デジタル産業を構成する企業は、価値創出にデジタル・ケイパビリティを活用し、それらを介して他社・顧客とつながり、エコシステムを形成している ② 現在の企業がデジタル産業の構成企業となるための取り組みがDXであることを明記した点でしょう。また、デジタル産業を構成する企業を4つの類型に区分しました。
- 企業変革を共に推進するパートナー(例:コンサルティング会社)
- DXに必要な技術を提供するパートナー(例:SI企業)
- 共通プラットフォームの提供主体(例:プラットフォーム企業)
- 新ビジネス・サービスの提供主体(例:大手小売企業)
更に、デジタル産業を構成する企業が目指すべき姿について、類型別にわかりやすい宣言や原則の形でまとめること、自社の成熟度を評価することができる「デジタル産業指標(仮)」やDX成功パターンを策定すること、また、変革を加速するその他の取り組みについては更に今後議論を深める予定とのことです。これらのレポートを踏まえて、わたしたちはDXについて次のように定義しました。
DXとは、競合に対する優位性を確立するために「売るもの」と「売り方」を変え、「テクノロジー」を活用して、「顧客の本当の要望」を叶えるようデジタル産業を構成する企業へと「新しく生まれ変わる」ための一連の取り組みのことです。
まず、トランスフォーメーション(変態)という言葉が選ばれた理由を考えてみましょう。それは「売るもの」(モノからコトへ)を変え、「売り方」(販売から使用へ、店舗からネットへ、ローカルからグローバルへ等)を変え、「テクノロジー」(AI, RPA等の ITツールと次々出現するテクノロジー・プラットフォーム等)を活用して「顧客の本当の要望」(ジョブ:「ドリル」が欲しいのではなく「穴を開けることで得られるなんらかのコト」)を叶えられるよう、なにもかも(ヒト・カルチャ・組織)従来とは全く異なる新たな姿へと生まれ変わる(青虫が蛹になり蝶へと羽化する様になぞらえて)ということを最も的確な表現は、チェンジ(変化)でもレボリューション(改革)でもなく、トランスフォーメーション以外ないからです。
また、2024年3月27日、経済産業省が「DX支援ガイダンス:デジタル化から始める中堅・中小企業等の伴走支援アプローチ」を策定、公表しました。大企業に比べ立ち遅れが目立つ中堅・中小企業にとって、独力でのDX推進は難しく、金融機関、ITベンダー、コンサルタント等、各地域の伴走役である支援機関によるDX支援を活用するアプローチが有効との考え方に基づいて策定されたとのことです。
従来の競争環境に最適化された経営モデルをゼロ・リセットして、これからの新しい競争環境において、顧客の本当の要望(ジョブ)を叶えるために、何を、どう創り、どう届けるかにフォーカスして、組織を新たに構築し、ヒトのリ・ラーニング(学び直し)を急ピッチで仕上げるのですから、そのプロセスはまさに創業と同義です。しかも、現状のビジネスも回しながらの取り組みであるがゆえに、過去の成功体験の呪縛や、新たな価値観や行動様式、新しい仕事の進め方への戸惑いや抵抗感等、打破せねばならない強固な壁が次々と立ちはだかるわけですから、難易度は並大抵ではなく、かつて経験したことのない挑戦になることは間違いありません。しかし「ここを乗り越えられない企業は淘汰される運命にある」と覚悟を決め、成功するまでじっくりと腹を据えて取り組みましょう。
Approach
DXにおける課題解決アプローチでは、ロジカルシンキングは勿論ですが、アートシンキング、デザイン・シンキングのような思考方法や、リーン・スタートアップやJTBD(Jobs-to be done)等のフレームワーク、推進ドライバの明確化等を行います。代表的なものを記しましたのでご一読ください。なお、思考方法やフレームワークは、リ・ラーニングのビジネススキルセットにて別途習得機会を設けることも可能です。DXを推進するためのレディネスが整っていない場合は、ビジネススキルセットの習得からリスタートすることを推奨します。
アプローチの詳細はこちら → Approach
Art Thinking
パーパス・デザイン、新規事業創造、イノベーション創発等、自分の内にある想いを言語化、具現化する時に活用する思考方法がアートシンキングです。
アートシンキングの詳細はこちら → Art Thinking
Design Thinking
誰も経験したことのないDXを成功させるためには、多くの方が慣れ親しんだ線形の思考方法ではなく、デザインシンキングが有効です。突然のひらめき(コンセプトの探求)からはじまり、調査・分析に戻ってアイディアの検証や改善を行い、更なる探求を何度も何度も切り返す非線形の思考プロセスを辿ります。
デザインシンキングの詳細はこちら → Design Thinking
Lean Startup - Customer Development Model
顧客開発モデルとは、全速力で走りながら考えて、試行錯誤を繰り返しながら、できる限り早く顧客に製品を試してもらい、事業化を実現するためのビジネスモデルです。起業・創業や新規事業開発の成功体験がない多企業が採用している「製品開発モデル」では、失敗しないことが最重要であり、拙速は厳禁で慎重に事を進めますが、時間がかかることこの上なく、一度失敗すると手戻りが発生して、一からやり直しということも珍しくありません。しかし、アジャイル開発したMVP(Minimum Viable Product:必要最低限の機能を持つ試作品)の市場投入と顧客からのフィードバックを全速力で繰り返し試行錯誤して、早期スケールを実現する顧客開発モデルの価値観や行動様式こそ、DX成功のために必要です。慎重に事を進めることを重視する製品開発モデルが骨の髄まで染み込んだ組織では、なかなか理解や協力を得られず拒否反応を示されることもありますが、良い意味で意に介さず、顧客開発モデルでの推進に専念します。
リーンスタートアップの詳細はこちら → Lean Startup
Exploring the Driver
DXで先行する各社の取り組みを参考にして、推進パターンを4つに類型化しています。DX進展度と実効性を検討して最適なドライバーを選択し、小さな成功体験を数多く積み重ね続け、徐々に水平展開して全体の進展度を引き上げていきます。
EX - Employee eXperience
DXでリーダーシップを発揮できるヒトが少なく、DXを推進するために必要なカルチャが醸成できておらず、中央集権的なピラミッド組織の企業への推奨パターンです。DXの成否の鍵は「ヒト・文化・組織」が握っていますから、インサイト、HX、テクノロジー・プラットフォームからのDX展開も頓挫してしまう可能性が高いのです。手を打ってから成果が出るまでのタイムラグはありますが、卓越したEXを実現できれば、インサイトからの新規事業開発や素晴らしいHXの提供が加速され、DXの成功可能性が高まります。デジタル時代に新たに必要となるカルチャや組織構造を構築するための施策が必要です。詳細はこちらをご参照ください。
Insight
既存事業のデジタル化からDXを着手したい企業はここから切り込むことを推奨します。BPR、付加価値創出プロセス全体のデジタル化によって入手したビッグデータを分析、そこから得た新たなインサイトを新しい付加価値創造に結びつけることを狙います。ビッグデータ解析部隊をルーティンワークと切り離した独立の戦略部署として立ち上げ、データサイエンティスト等の専任要員を配属してインサイト抽出に取り組むことが必須になります。これができなければ、RPAやAIを導入したものの、日々増え続けるビッグデータの解析とルーティンとの板挟みとなるIT部門は疲弊し、新たな付加価値創造に辿り着くことは難しくなります。
Technology Platform
既存システムと新しいエコシステムの基盤となるデジタル・プラットフォームの側面からDXを推進したい企業への推奨パターンです。とくに新エコシステム構築では社外のパートナーやコラボワーカー等とつながることが不可欠であり、プラットフォームのアップデート、クラウド化、オープンAPI等によってそれが可能になります。旧ビジネスモデルの既存システムを切り捨て、他社から「つながりたい」と思ってもらえる機能と魅力を持つプラットフォームへと生まれ変わることができなければ、エコシステム構築どころか、どこともつながれず孤立化し、競合の後塵を拝する羽目になるでしょう。詳細はこちらをご参照ください。
HX - Human eXperience
イノベーションやデジタル・ビジネスの新規事業でDXを推進したい企業への推奨パターンです。社会的な課題を解決するソリューションを開発し、デジタル・テクノロジーによって素晴らしいHXを提供できるデジタル・ビジネスモデルを確立することで旧経営モデルからの脱却を狙います。イノベーションや新規事業創造を加速するデザイン・シンキングをはじめ、フルスピードで走りながら考えるリーン・スタートアップ手法の活用、HXを軸にしたデジタル・ビジネスモデルへの生まれ変わり、関係者全員のマインドセット、スキル、仕事の進め方のパラダイム転換等が必須となります。詳細はこちらをご参照ください。
Success Scenario
DXを成功に導く構成要素を、パーパス&DXロードマップ、ケイパビリティ、ビジネスモデル、ヒト・カルチャ・組織、テクノロジー・プラットフォーム、チェンジ・マネジメントの6つにまとめました。
Purpose & DX Roadmap
はじめに、長期的な競争優位性を確立するためにパーパスを定性的・定量的に明示します。新規事業創造、HXの再定義・付加価値創出、他社の追随を許さないオペレーションのデジタル化・デジタライゼーション化・DXを、どの領域から優先して取り組むのか、どの程度のインパクトを見込むのか、そのために必要なケイパビリティはどのように調達するのか等について、考えをまとめます。
パーパス&DXロードマップの詳細はこちら → Purpose & DX Roadmap
Capability
既存事業のBPRとデジタイゼーションを加速してキャッシュを確保するとともに、近未来に訪れるデジタル・ビジネスモデルとの統合に備えた準備に取り組みます。事業ポートフォリオを精査して、赤字事業や勝算が見込めない事業からの早急な撤退、継続する意味がある事業への集中と、業務合理化の徹底、ワークフローの見直し、オペレーションのデジタイゼーション強化等に注力します。
ケイパビリティの詳細はこちら → Capability
Business Model
市場の変化に対応できるデジタル・ソリューションを開発してスケールさせるために、イノベーション&インキュベーションとデジタル・ビジネスモデリングの2つのテーマに取り組みます。イノベーションを計画的に創発する手法を導入し、アナログ・ビジネスモデルとは一線を画す価値創造の仕方をデザインして、事業化に至るまでの一連の取り組みを仕組み化することにフォーカスします。
ビジネスモデルの詳細はこちら → Business Model
People, Culture & Organization
DXを実現するためのヒト・カルチャ・組織とはどうあるべきかをデザインし、いつ、何人、どのように調達するか、そしてその優秀な人材に活躍してもらうためにどのようなイネーブルメントが必要になるかを明らかにします。現時点における自社のHCM(Human capital Management)の人材獲得力を検証し、優秀人材が求めるHCMとのギャップを解決するための取り組みが必要になります。
ヒト・カルチャ・組織に関する詳細はこちら → People, Culture & Organization
Technology Platform
全社、もしくはエコシステム全体で活用する共通基盤と、個別構築するものを切り分け、将来的にどのようなデータを蓄積していくことが競争優位性につながるのかを検討、それを戦略的に活用しうる信頼性の高い共通のデータベースとして構築します。エコシステム全体の活用すべき共通基盤と、自社単独で構築すべきものの区別を行いながら、クラウドベースでのデータプラットフォーム、ソフトウェアの自動化、アナリティクス・ツールの構築と利活用をデザインします。
テクノロジー・プラットフォームの詳細はこちら → Technology Platform
Change Management
ビジネスモデル、ビジネスプロセス、リーダーシップ、マネジメント、カルチャ、組織、各種制度等、自社の全要素をどのようにトランスフォームさせ、そしてモニタリングする仕組みをデザインします。一連の取り組みを現実のオペレーティングモデル変革に結実させ、安定運用が軌道に乗るまでの定期監査や、トップマネジメントが活用するダッシュボードの導入も検討します。