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医療機関が直面する喫緊の課題は、厚生労働省が策定する地域医療構想のもとで、どのようなプレゼンスを確立するかを明確にすることです。現在、2025年の医療需要と必要病床量を推計し、目指すべき医療提供体制を実現するための施策を立てたうえで、地域医療構想調整会議で議論、調整される流れの中で、病床の機能分化・連携に向けた協議が進められています。各医療機関が地域で担うべき役割について抜本的な対策を講じるなら、選択肢は単独での生き残りか、複数医療機関との連携のいずれかでしょう。単独での生き残りに賭ける場合、機能転換や優位性のある診療科への特化、病床数削減による経営効率の向上が打ち手となり、連携する場合は経営統合やネットワーク化による連携を模索することになります。経営環境は年々厳しくなっており、単独での生き残りには高いハードルを越えなければならないことから多くの場合困難であり、診療機能の相互補完が見込める地域においては機能強化や役割分担による病病連携を、診療圏内人口が激減している地域では病院統合を検討するケースがほとんどです。

病病連携には、協定方式と地域医療連携推進法人方式の2種類がありますが、それぞれのメリットとデメリットを検討したうえで選択することを推奨します。協定方式の場合、保有する医療資源を効果的に活用できるため、機能、診療科、病床数は現状を維持したままで、新病院建設等の投資も不要なので、財務面の負担を設備更新時期まで繰り延べられる点はメリットですが、協定関係という強制力を伴わない緩い結びつきであること(罰則等を設けるケースは稀)や、個別最適に拘る思惑が錯綜して協議がまとまらず、患者に最適化された医療を提供できるまでに時間を要する可能性が生じやすい点はデメリットです。地域医療連携推進法人方式の場合、法人格を存続させたまま業務提携ができるため、公立、民間の分け隔てなく連携できることと、法人内で病床数の調整・融通がしやすい点が大きなメリットです。しかし、こちらも各法人が並び立つ緩やかな連携であり、ひとつの法人として機能させるためのガバナンスやマネジメント体制を構築することが難しいこと、また経営の現状を精査した時、本来なら統合すべき状態の病院に対してもそれを進言することが難しく、医療資材の共同購買やバックオフィス業務の連携、あるいはスタッフの相互派遣等の実施に留まることが多く、シナジーを発揮するための抜本的な打ち手を講じることが憚られる点がデメリットです。

病院統合は、経営危機に瀕している病院や、診療圏内人口が激減している地域、また診療科の重複が見られるケースで実効性に優れた打ち手です。公立病院同士や、公立病院と民間病院との間で実行されるケースが大半です。民間病院同士の場合、利害関係の調整が困難を極める可能性があるため、当事者に後継者がいない、あるいは特別な事情がある場合の事業譲渡等、利害関係が一致しやすい場合に限って検討することが現実的です。病院統合のメリットは、保有する医療資源、人材を集約して一括管理できるため、医療提供体制の最適化を推進しやすい点です。施設更新に関する統合的なアプローチや、人材育成・配置の最適化、バックオフィス部門の統廃合・SSC(Shared Service Center)化等、リストラクチャリングを実施して経営体質の強靭化を図ることも可能です。しかし、PMI(Post Merger Integration、M&A後のマネジメント統合プロセス)の難易度が高い点は留意しなければなりません。公立病院と民間病院の間に存在する、価値観、カルチャ、マネジメント、評価、報酬、配置、登用等の違いやギャップを、ひとつの組織としてまとめ上げることは困難を極めます。統合後の主導権を巡る争いが発生すると、診療圏内の患者の利益を毀損する恐れが生ずるばかりか、国や都道府県、市町村、大学や近隣病院、医師会を巻き込む騒動となり、最終的には病院機能のコアバリューである治療方針や施術方式にまで悪い影響を及ぼしかねないため、PMIに長けた第三者のプロフェッショナルを活用して、バリュープロポジションにフォーカスして推進することが望ましいでしょう。

どの選択肢を選ぶかを定めるものがパーパスです。地域医療における自らの存在意義をパーパスとしてまとめ、近い将来に実現したい姿をビジョンとして描き、ビジョン達成に必要な優位性を確立する戦略を改めて策定することが求められます。戦略策定の軸はPX(Patient eXperience、患者経験価値)であり、全てのサービスを素晴らしいPXを提供するためにデザインすることになります。これを可能にするのが医療DXです。医療DXとは、厚生労働省の定義によると「保健・医療・介護の各段階(疾病の発症予防、受診、診察・治療・薬剤処方、診断書等の作成、診療報酬の請求、医療介護の連携によるケア、地域医療連携、研究開発など)において発生する情報やデータを、全体最適された基盤を通して、保健・医療や介護関係者の業務やシステム、データ保存の外部化・共通化・標準化を図り、国民自身の予防を促進し、より良質な医療やケアを受けられるように、社会や生活の形を変えること」とあります。(出典:2022年9月22日「医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チーム「第1回医療DXの推進に向けた今後の取組について」PDF

医療DXは、「全国医療情報プラットフォーム」「電子カルテ情報の標準化、標準型電子カルテの検討」「診療報酬改定DX」の3つで構成され、それぞれのビジョンは以下のように考えられています。

  1. 全国医療情報プラットフォーム(将来像)(令和4年9月「医療DXについて」第1回「医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チーム資料
    • オンライン資格確認システムのネットワークを拡充し、レセプト・特定健診情報に加え、予防接種、電子処方箋情報、電子カルテ等の医療機関等が発生源となる医療情報(介護含む)について、クラウド間連携を実現し、自治体や介護事業者等間を含め、必要なときに必要な情報を共有・交換できる全国的なプラットフォームとする。
    • これにより、マイナンバーカードで受診した患者は本人同意の下、これらの情報を医師や薬剤師と共有することができ、より良い医療につながるとともに、国民自らの予防・健康づくりを促進できる。さらに、次の感染症危機において必要な情報を迅速かつ確実に取得できる仕組みとしての活用も見込まれる。
  2. 電子カルテ情報及び交換方式の標準化、標準型電子カルテの検討
    (令和4年12月「医療DXを進めるために」京都大学黒田知宏先生資料​PDF「大阪公立大学における医療情報(HL7FHIR)活用の取り組み、展望と課題」岡村浩史先生資料PDF​​​​)
    • 電子カルテ情報及び交換方式の標準化
      • HL7FHIR(厚生労働省資料PDF)を交換規格とし、交換する標準的なデータ項目と電子的な仕様を定め、国として標準規格化する
      • 令和4年3月、3文書6情報(※)を厚労省標準規格として採択、令和4年度は厚労省科研費補助金事業において透析情報及び一部の感染症発生届の標準規格化に取り組む
        ※3文書:報酬情報提供商品、退院時サマリー、健診結果報告書。6情報:傷病名、アレルギー情報、感染症情報、薬剤禁忌情報、検査情報(救急時に有用な検査、生活習慣病関連の検査)、処方情報。
    • 標準型電子カルテの検討
      • 小規模医療機関向けに、当該情報規格に準拠したクラウドベースの電子カルテ(標準型電子カルテ)の開発を検討。令和4年度は関係者へのヒアリングを実施しつつ、練和5年度の調査研究事業を実施予定
  3. 診療報酬改定DX(令和5年4月「診療報酬改定DX対応方針(案)」厚生労働省PDF
    • 2~5月に集中する診療報酬改定への対応にベンダや医療機関等に大きな業務付加が発生しており、各ベンダがそれぞれ行っている作業をひとつにまとめられないか検討すべき
      • 改定施行日(4/1)からの患者負担金の計算に間に合うように、ソフトウェアを改修する必要がある※3月に支払基金から電子点数表が示されてはいるものの、その段階では既にソフトウェア改修作業の大半は終了している
      • ソフトウェアリリース後も、4月診療分レセプトの初回請求(5/10)までに、国の解釈通知等について更に対応が必要

この資料からは、医療DXは、医療機関の業務効率化に資するものと、医療機関、自治体、介護事業者等を緊密化することでPXに資するものに大別できること、そして医療DXの実現には、全国医療情報プラットフォーム、標準型電子カルテの導入、診療報酬改定DXが必要であると厚労省が考えていることがわかります。厚労省が描いた全体像を念頭においたうえで、業務効率化のためのDXに取り組むことは、生き残りを図る医療機関にとって最低限必要な取り組みであることがご理解いただけると考えます。公的な社会保険制度のもとで経営が行われるという医療業界特有の事情から、医療機関における経営改革や業務革新を推進することは容易ではないという認識が一般化していますが、地域医療構想における病病連携や病院統合等、抜本的な組織再編や人材の確保、働き方改革を伴う医療従事者の労働環境の改善等に関しては、事業会社におけるM&A、PMI、経営革新、業務変革、DX、HC/CX、EX等のデザイン手法を活用できる領域が多岐にわたり、これまで変革が進みにくかった業界であるがゆえに、その効果は大きいものになる可能性があると考えます。

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