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決済は全ての経済活動における価値交換インフラであり、国家が価値を保証する法定通貨がその役割を担ってきました。貨幣経済の誕生以来、決済の主役はキャッシュであり、キャッシュ以外の決済はお断りという商習慣は、特に初回取引においては現代でも根強く残っています。その後、クレジットカードが登場して信用に基づくキャッシュレス決済も可能になり、手持ちのキャッシュがなくても商品を購入できるようになったことで、消費意欲の喚起に一役買ったものの、法定通貨を利用する点ではキャッシュと変わりなく、消費者の意識も決済革命というほどのインパクトを与えるものではありませんでした。しかし、パンデミックの影響でオンライン決済が増えたことや、対面での非接触型決済、QRコード決済を推奨されたこと、またブロックチェーンにおける暗号通貨等、法定通貨以外の新しい通貨による決済や、金融業務への異業種事業者の参入等、新しいムーブメントが決済業界に革命的な変化をもたらし始めました。ここでは、これらの変化について概説し、各企業がどのような戦略を採るべきかについて考えます。

  1. キャッシュレス化の加速
    • 海外に比べて現金主義が根強い日本でも、海外諸国におけるキャッシュレス化の普及と、中国のアリペイが新たな金融プラットフォームを確立してアジア諸国における中華経済圏の影響力を発揮したことへの対抗策として、2018年4月に経済産業省が「キャッシュレス・ビジョン(PDF)」を発表、キャッシュレス化の推進が始まりました。同年10月からPayPayが大規模なキャッシュバック・キャンペーンを開始して消費者と事業者を囲い込むと、QRコード決済の覇権を巡る競争が一気に過熱、キャリア系(d払い、au Pay、楽天Pay、LINE Pay)、IT系(iD、QUICKPay)、小売り系(ファミペイ)、銀行系(銀行Pay、J-Coin Pay、Bank Pay)が入り乱れた混沌とした状況に至ります。事実上覇権を握ったとみられるPayPayは、収益確保のため、2021年には手数料の有料化、2022年にはポイント外販により利用者増加を狙う攻勢に出ており、淘汰される事業者も出てきます。
    • キャッシュレス決済利用者のメリットは、レジスタッフ等からの感染症罹患リスクが減ることと、現金受渡しの手間がなくなること、Amazon Goのようなウォークスルー決済型店舗でのHX/CXが魅力的なこと、キャッシュバックやポイント還元が受けられること等であり、現金決済への回帰はまずないと見込まれます。
    • 事業者のメリットは、消費者の購買活動データの集積と分析が可能になることにより、割賦払い、リボ払い、キャッシング、ローン、後払い等の金融ビジネスと、個々の消費者の購買活動に最適化されたマーケティング施策をデザインするためのデータフィードバック事業への展開が見込まれます。人口減少が避けられない状況において、成長可能性を秘めていると考えます。
    • キャッシュレス決済の主役はクレジットカードであることは事実ですが、今後はQRコード決済の存在感が増してくるでしょう。店舗にとって、クレジットカードはインフラ整備のコスト負担がQRコード決済より大きく、利用者にとっても決済時の割引率が悪くなる実態もあります。クレジットカードを導入済みの都市圏ならともかく、地方では未だにカードが使えない店も珍しくなく、これから新たな決済手段を導入するなら手間とコストが軽微なQRコード決済を選ぶ可能性が高いと考えます。
    • また、キャッシュレス決済が増えることに危機感を抱いているのが銀行です。銀行業は、社会におけるキャッシュ流通のハブ機能(口座)を軸としてデザインされてきただけに、キャッシュが少なくなることは事業存続の危機を意味するほど大きなダメージを被ります。銀行自身もキャッシュレス決済に乗り出してはいますが、自分で自分の首を絞めるおそれもあるせいか、非金融事業者の後塵を拝する位置に留まっており、打開策を模索している状況です。
  2. 新たな通貨の登場
    • 暗号通貨(Crypt Currencies)、ステーブルコイン(Sutablecoin)、中央銀行デジタル通貨(CBDC:Central Bank Digital Currency)という、法定通貨を代替するものの登場は社会に大きなインパクトをもたらしました。国家が価値を保証しない通貨が消費者に認められるようになった背景には、世界中の法定通貨の価値への疑問が生じたことがあります。低成長に悩む先進諸国は、ゼロ金利政策等の金融緩和政策を長期間継続せざるを得ず、政府が大量の国債を発行して資金調達を図るものの、引き受けてがなく、中央銀行がそれを買い支えるを得ないという異常事態に陥っており、そのような国の法定通貨が価値を維持できるのかわからないという疑念を払拭できないというのが、衆目の一致するところとなり始めたのです。
    • そこにブロックチェーン技術が登場、国家の保証とは無関係に価値や信用が担保できる仕組みが構築できるようになったことで、暗号通貨、ステーブルコイン、CBDCの取引が活発化してきました。Bitcoin、Ethereum等の暗号通貨は、価値の裏付けとなる実物資産がないことが特徴で、通貨というより資産としての性質が強く、投機対象として注目を集めたことで急速に時価総額を伸ばしました。しかし、実物資産の裏打ちがないのに金融緩和から引き締めへと転じた場合でも資産価値を維持できるのか、乱高下する市場相場、暗号通貨の消失事案等、不安や不信を抱く消費者が多いことも事実です。
    • ブロックチェーンにおける取引のしやすさはそのままに、暗号通貨の価値変動の振れ幅を小さくしたものがステーブルコインです。Stable、つまり価値を「固定した」ものとして、法定通貨や実体資産を担保にする「担保型」となにも担保にしない「無担保型」の2種類があります。ドルと紐づけた担保型では、1ドルにつき所定比率のステーブルコインを発行、いつでもドルに戻せます。無担保型では、希少性に着目して価値を維持するためのアルゴリズムに基づいて発行量を調整します。取引のプログラム化、即時決済、相互運用性に優れる点はメリットですが、担保資産との連動喪失リスクが発生した事案や、旧Facebookが発行したLibraが市場を席捲することを懸念した金融当局から激しい批判を招く等、本格的な普及にむけて解決すべき課題は多い状況です。
    • CBDCとは、各国の中央銀行が発行する法定通貨の代替手段です。日本銀行によると、CBDCの基本特性は「①ユニバーサルアクセス ②セキュリティ ③強靭性 ④即時決済性 ⑤相互運用性」であり、その機能と役割は「①現金と並ぶ決済手段の導入 ②民間決済サービスのサポート ③デジタル社会に相応しい決済システムの構築」と定義しています(「中央銀行デジタル通貨に関する日本銀行の取り組み方針」2020.10.9)。日本銀行が「デジタル円」を発行すれば、全てのキャッシュレス決済がデジタル円に置き換わる可能性があります。各国の中央銀行はCBDC発行に対して慎重な姿勢を維持していますが、2020年の北京オリンピックでデジタル人民元の提供を始めた中国のように、キャッシュインフラの整備が進んでいない新興国が、一足飛びにCBDCを発行することも考えられ、グローバルな資金流通に大きな変化をもたらすことも考えられます。銀行業によって支えられてきたインフラが強固な国ほどCBDC発行時のインパクトは大きく、銀行業や各事業者、個人の生活に至るまで、抜本的な変革がもたらされることになります。そのジレンマに苛まれている間に他国に先んじられることを看過するなら、国際的な円の競争力が低下することを招きかねないため、政府と金融政策と日本銀行の戦略を注視する必要があると考えます。
  3. 非金融事業者の参入
    • ここまで見てきたように、決済業界のディスラプターとなる可能性が高いのは非金融事業者です。1994年にBill Gatesが発したと言われる "Banking is Necessary, Banks are Not"(銀行機能は必要だが、銀行は必要ない)という考え方が具現化しつつある今、非金融事業者による決済サービスへの新規参入と、自社サービスに決済機能を組み込む動き(Embedded Finance:組み込み型金融)が加速しています。この背景には、PaaS(Payments as a Service:サービスとしての決済)のような金融機能の提供が技術的・コスト的に可能になったこと、消費者の価値観が変わり、キャリア系やサービス事業者等、銀行以外の事業者が提供する決済サービスを利用することへの抵抗よりも利便性を重視するようになったこと、そして銀行をはじめとする硬直化したレガシーな金融事業者にイノベーションを起こさせるため、規制緩和を行って新規参入を促していることがあります。
    • いわゆる「銀行代理業」のような、決済、送金、資産運用、資金調達支援、家計管理、会計等の分野において非金融事業者が続々と参入しているのは、決済サービスを契機として得ることができる大量の顧客データに大きな可能性を感じているからです。自社サービスのカスタマージャーニーにおいて、今まで金融事業者が独占してきた決済サービスを自社のエコシステムに組み込めるようになると、自社以外の購買行動を含めた全ての購買行動を詳らかに把握できるようになり、いつ、どこで、何を、どれくらい、どのように購買し、消費したのかがわかります。そのデータを分析して、個々の顧客のカスタマージャーニーにおける各プロセスに最適化されたアプローチを行うことが可能になり、成約率やLTV増加が見込めます。Web2.0のメガプラットフォーマーが決済サービスを含むスーパーアプリの提供を競うのは、このような理由があるからです。また、決済だけでなく、ローンやキャッシング、資産運用、ファイナンシャル・プランニングをはじめとするコンサルティングサービス等関連事業への展開も期待できるため、主に富裕層に対する付加価値提供にもつながります。

このような動きを見せる本業界において、各社が採るべき戦略について以下に記します。

  1. 強烈なインパクトを与えるかつてないHX/CXの創造
    • 消費者の都合に合わせて、デジタルデバイスやアプリを介して自由に使える利便性を持ち、フィンテックやXR技術を駆使したカスタマージャーニーを通じてHX/CXを創造することが、消費者に選ばれるためには不可欠になります。時間と場所の制約があり、書類ベースの諸手続き等の古き悪しき商習慣を変えなかったレガシーな金融事業者のHX/CXを、根底から覆すことはもとより、決済だけに留まらず、金融サービスをワンストップで提供できる仕組みを構築することが重要です。
  2. 覇者の見極めと価値貢献方法のシナリオ・プランニング
    • 金融事業者を軸とするメガプラットフォーマーによって業界の寡占化が進行するのか、非金融事業者がそれぞれのエコシステムを構築して新たな経済圏を形成するのかを見極めつつ、特定のメガプラットフォーマーが有利な情勢ならプラットフォーム戦略を、大手プラットフォーマーが相並び立つ情勢なら、自社独自の経済圏形成を目指す差別化戦略を採ることを推奨します。2023年の日本においては、銀行等の大手金融業者とスタートアップ企業との売上規模は文字通り桁違いであり、イノベーション戦略による連携のあり方も様々模索されている過程にあります。
  3. 新しい通貨への対応を見越した戦略における柔軟性の担保
    • 先に述べたように、新しい通貨へのシフトが起きた時に金融業界だけでなく、日本の社会構造や生活様式のディスラプションが起きる可能性があると考えておきましょう。自社のビジネスモデル、マネジメントモデル、製品・サービスの提供方法、カスタマージャーニー、HX/CX等を変革する際、決済プロセスをメガプラットフォーマーに委ねるのか、自社のエコシステムに組み込むのか、新しい通貨への対応策を含めてデザインすることを推奨します。

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