Recruiting
ヒトを採用する際の要件定義、候補者抽出、候補者別選考ポイントの明確化等において、活用することが可能になると考えられます。働くヒトの多様性を包摂することが重視されるようになったものの、求める人物像の要件にまで落とし込めた企業はまだ多くなく、従来の採用基準をカイゼンして対応しているケースが大半です。このような場合、採用システムから提示される幾つかの設問に口頭で回答するだけで必要要件が明示され、社内人材の情報データベースから該当する候補者を自動的にリストアップしてくれる機能を持たせることができる可能性があります。また、リストアップされた候補者のプロファイルを読み込ませれば、面接時に確認すべきポイントを候補者別に明示してくれるため、面接官による選考指標のバラつきも小さくなるでしょう。社内に適切な人材がいない場合でも、人材エージェントに要件を満たす登録者はどの程度いるのかを確認することが容易になったり、この要件自体を求めることが高望み過ぎるのか等の妥当性検証にも役立てることができます。こうした取り組みを通じて、中途採用者の定着率が悪い原因や、採用戦略・戦術の的確性について改めて検証できる機会になることも副次的な効果として考えられます。
Assignment
新組織立ち上げに関わる組織デザインと候補者リストアップに関しては、後者においてアナリティクスが貢献できる可能性が大きいと考えます。組織デザインに関しては、事業戦略、製品・サービス戦略、ケイパビリティ、コアコンピタンス、競争優位を形成する要素を満たすために必要な業務、担当者に求められる要件等を、その時点での意思決定に基づいて考案するため、アナリティクスよりデザイン思考を優先すべきであり、担当者の要件定義への活用に留めるべきでしょう。候補者リストアップに関しては、社内人材情報データベースに登録されている母集団の知識、スキル、経験、志向性、評価・評判、社内外ネットワーク、他社との相性等、アサイン後の成果創出への貢献が見込めるか否かの相関性を提示することが可能です。人材要件における充足度と各種データの因果関係については、最終的にはヒトが判断することが不可欠ですが、そこに至るプロセスを効率的に進められるのはアナリティクスならではの効果でしょう。
Retirement Forecast
退職関連においては、日常業務における動的データの変化を分析することによる退職予備軍の明確化、真の退職理由の特定、退職防止策の策定に役立てる可能性が大きいと考えます。ウェアラブルデバイスの装着等も必要となりますが、コミュニケーションを交わす相手、社内メールやコミュニケーションの頻度・内容、職務行動等において、過去とは異なる傾向が表出し、それが退職者の言動と似ている場合には退職フラグを立てることができます。また、退職理由に関する仮説の提示、並びに退職防止策の提案も可能です。本人だけでなく、家族や家庭の事情について時系列変化を加味して分析すれば、育児、教育、介護等のステージが本人のワークライフバランスに及ぼす影響を明らかにすることもできるため、これまで通りの働き方を続けることが難しくなった、もっと高い報酬が得られるステージに転身したい、長年温めてきた起業を実行したい等、内に秘めた退職理由の洞察に役立てることができるでしょう。理由の特定には必ずヒトによる確認が必要であることは忘れてはなりませんが、これまでほとんどの場合秘匿されてきた真の退職理由を紐解くヒントが得られることは、これからのマネジメントのあり方を検討する一助となることは間違いありません。
More Applications
働くヒトの知的資本が競争優位性の源泉となる現代において、ピープル・アナリティクスの活用余地が特に大きいと考えられるのが、ホワイトカラーの知的生産性を引き上げることに役立つことです。指定された原材料を機械装置に定量投入すれば計画通りのアウトプットを得られる「ものづくり」とは異なり、ホワイトカラーは知的資本同士のケミストリによってアウトプットが良くも悪くもなり得ます。その原因の多くは、相性や好き嫌いといった極めて人間くさい感情に起因するものです。仕事はできるがいけ好かないヒトとの組み合わせより、なぜかウマが合う者同士のほうがよいアウトプットを出す場合がある一方で、喧々囂々の討議を重ねる中から生まれるイノベーションを創発させるため、敢えて全く異質異能者同士でチームを編成し、全く別の視点、観点から新しい製品・サービスの開発に挑戦させる等、目的に応じたチーム・組織編成を実施することにより、ホワイトカラーの知的生産性を高めることを期待できるのです。人材情報データベースの登録者を社内だけでなく社外ネットワークまで拡張すれば、イノベーション創発を加速させる可能性も大きくなるでしょう。
Redesign of the HCM System
ピープル・アナリティクスを活用するに際して必要になるのが、運用するためのHCM(Human Capital Management)システムに相応の機能を実装することです。しかしそれ以前の問題として、分析に必要な「キレイなデータ」が揃っているかどうか確認しておかねばなりません。レガシーな人事システムにおいて不足している可能性が高いデータは、動的データ、標準化・連結化データです。動的データとは、日々の勤務状況やモチベーションの変化、会議・メール・日報・動線の変化等、「今何が起きているのか」をタイムリーに把握できるデータであり、過去の履歴である静的データとともにアナリティクスのために不可欠です。また、データの標準化・連結化とは、散在するデータをコード思想に基づいて体系化し、保有能力・経験と職務をマッチング(連結化)させた状態にあることを指します。更に、パフォーマンスに影響を与えるワークスタイル、部門における仕事の進め方、財務的インパクト等、データ活用範囲が人事領域を越えて拡張していくことも考慮しましょう。こうしてキレイなデータを収集・分析する仕組みを整えたら、新たなHCMシステムのデザインに取り組みます。デザインに際して具備すべきの留意点等はこちらをご参照いただくとして、ここではアナリティクスの観点から人事システムが実装すべき構成について検討します。
ピープル・アナリティクスを実現するHCMシステムは、HCDL(Human Capital Data Lake)へのデータ統合と、BIと統計分析ツールで構成します。まず、HCDLには社内に散在するあらゆる種類の構造化/非構造化データをあるがままの形式で格納します。基幹人事システムで管理されている従業員の基本情報、勤怠管理システムの勤怠情報、研修管理システムの受講実績、外部研修会社から提供されたSPI等の適性検査やエンゲージメントサーベイ、部門単位で実施されている1on1ミーティングにおけるMBO情報等を一元管理できる状態にするのです。次に、HCDLに集積されたデータをBIツールと統計分析ツールを用いて加工、分析、可視化して、意思決定の精度向上や業務効率化に活用します。
この構成のメリットは、「データの網羅性・対応性」「多様な分析ニーズに対する柔軟性」「現場におけるデータ活用に対する適合性」「統計分析ツールとの親和性」の4点に優れていることです。最新データに対して、人事だけでなく現場からも自由にアクセスすることが可能になり、オペレーションにアナリティクスが組み込まれ、定量的な分析に基づくアクションが現場レベルで日常的に実施されるようになります。この仕組みを機能させるうえでの留意点は、データ不整合を未然に防ぐために、定期的なデータクレンジング・プロセスを業務の中に組み込むことと、困難を極める従業員からの情報取得を円滑に進めるために、データ入力に関する負荷を軽減し、インセンティブを与える工夫をすることです。一旦データを入力したらそれっきりになった結果、使い物にならなくなった過去のシステムと同じ轍を踏まぬよう、人事部門におけるHR Ops部隊がマネジメント責任を負う運用体制を整えましょう。
Operating Organization
ピープル・アナリティクス担当者には、CHRO、HRBP、CoE、HR Opsとの連携が必須なので、具備すべきスキルもハイレベルになります。必要となる具体的なスキルは何か、社内におけるピープル・アナリティクスに対する期待値の適正なコントロールをどのようにマネジメントするか等、運営体制を構築するに至るまでには様々なハードルを越えることが求められます。最初に問題になるのが「誰が責任者になるのか」という点です。人事とデータアナリスト・データサイエンティストのハイブリッド人材であることが望ましいのは当然ですが、優先すべきは人事プロフェッショナルであることであり、その方に統計分析やHRテクノロジーに関する知見を習得していただくことが現実的でしょう。PythonやR等を学び、Microsoft Power BIやSPSS等のツールのオペレーションに習熟すれば、ピープル・アナリティクスのプロフェッショナル人材として育成することが可能です。現在の人事部門に適材がいない場合は別部門からの異動、それも難しければ社外プロフェッショナルとの協働体制を整えることで対処することも検討しましょう。社内からの異動で対処する場合の留意点は、対象者のモチベーションの源泉を読み誤らないことです。つまり、ビッグデータを取り扱うことや最先端のテクノロジーに触れることに重きを置くデータアナリスト・データサイエンティストではなく、データ分析の基礎的な知見は十分保有しているうえに、ピープル・アナリティクスやヒトに関する興味・関心を持つタイプが適しています。また、社外プロフェッショナルとの協働で対処する場合、既にプレゼンスを確立したHRテクノロジー各社との協働を模索するのは当然ですが、コスト面で折り合うことが難しい可能性が高いでしょう。また、そもそも社内でピープル・アナリティクスで何ができるのかに関する統一見解さえまとまっていないような状況で協働しようとしても、イニシアティブをベンダーに掌握され、製品購入に持ち込まれるリスクもあります。従って、ベンダー各社のパッケージソフト無料体験版を活用して、ピープル・アナリティクスで何ができるのかについてリサーチを行い、社内トライアルの段階では、統計分析に長けた学生インターンや、スタートアップの活用を検討すべきです。低廉なコストで導入効果が実感できれば、本格的なピープル・アナリティクスの導入に対する社内合意を得やすくなり、後々のツール選択にも役立つでしょう。
People Technology
HRテクノロジー企業群からリリースされている製品群は9つに大別できます。内容が多岐にわたる1から5に関しては、内訳もまとめました。
- 労務管理:勤怠管理、経費管理、給与管理・給与計算他
- 採用:新卒採用、中途採用、転職、ダイレクト・リクルーティング、リファラル、エンジニア、業界特化型、オンデマンドワーク、フリーランス、副業、採用管理、人材マッチング、面接、サイト作成、広報、コンサルティング、マーケティング、適性検査、バックグラウンドチェック、アルバイト、採用代行他
- エンゲージメント:社内コミュニケーション、日報管理、ウェルネス、オンボーディング、人材開発他
- 育成管理:内定者研修、オンライン研修、マネジャー研修
- タレントマネジメント:タレントプール、人材管理、目標管理、人事評価
- アウトソーシング
- チャットボット
- アルムナイ
- マイナンバー
- Web会議
スタートアップから著名企業に至るまで非常に多くの事業者が多様な製品をリリースしていますが、人事部門は製品選択に苦労しており、自社とのフィット度合いの見極めや窓口整理等の動きも出てきました。欧米ではビッグテック企業の大規模リストラクチャリングが相次ぎ、採用ニーズの縮小に伴う事業者のM&Aや統廃合等の淘汰が始まり、その動きは日本にも波及すると考えられます。企業の立場で考えるならば、他社の動向を睨みつつ、できれば早く導入したい思いもあるでしょう。しかし、HRDXを推進して自社が堅持する人事機能を特定することが先決であり、どの製品を活用するのかはその後のテーマであることも考え合わせ、ベンダーの口車に乗せられてはなりません。統計分析ツールやBIでも代替可能ならそれを利用すれば事足りることもあり得ますので、慎重なご判断を推奨します。