Hospitality

Outlook

ホテル、旅館、リゾート、テーマパーク、ゴルフ場、スキー場等のホスピタリティ業界は、パンデミックの影響から需要が完全に回復するのが最も遅い業界のひとつになると考えます。パンデミックによってもたらされた生活様式や働き方の変化は、WHOが緊急事態宣言を解除した現在でも海外旅行や出張等を引き続き控える動きとなっており、更なる変異株やサル痘等の新たな感染症が発生すれば、再び入国制限等が検討されることになり、急速な市場縮小が再現されることになります。それでも回復の兆しは徐々に表れてきています。

旅行業界では、入国制限の緩和に伴うインバウンドの緩やかな増加や、全国旅行支援キャンペーンに伴う高所得者層と若年層の消費意欲が速いペースで回復を見せ始めているほか、パンデミック期に一気に減少した出張の一部回復と、ワーケーション等のリモートワークの拡がりも見られます。高級リゾート系ホテルは都心部や2025年の大阪万博を見据えた新規開業を進めて海外富裕層を攫い、ビジネス系ホテルではM&Aや休廃業・解散が増加する等、楽観視できない状況が続きますが、各地の観光需要やインバウンドが本格的に回復すれば、収益力は向上する可能性がありますので、苦境の只中にあったとしても、徹底した省人化とネクストテクノロジーを活用した独自のWoW ! 体験を組み合わせたHX/CXで顧客満足を実現することが必要です。リゾートやテーマパークは、新設備の導入や期間限定イベント等で個性や特色を打ち出しやすく、TDRやUSJ等が集客力を誇っていました。行動制限が解除されたことで緩やかな回復基調にありますが、入場料金の値上げや新たな設備投資による財務体質への影響を考慮しながら、収益性を高めることが必要です。スタッフのホスピタリティと非現実的な世界観の提供には定評があり、多くの企業のお手本とまで言われるほどのクォリティは来場者を魅了するものです。しかし、人気が集中するアトラクションやイベントにつきものになっている待機時間の長さや、激化する一方のホテル予約争奪戦、リピーターほど陥りやすいマンネリや飽きという問題等、来場者のペインに対する実効性に優れた対策を打てない場合や、ネクストテクノロジーの活用とスタッフのハイタッチを融合させた新次元のHX/CXを提供する事業者が現れると、勢力図に大きな変化が生じる可能性もあります。スポーツ系に関しては、開放空間でひとりでも楽しめるゴルフやサイクルスポーツ等は比較的堅調でも、スポーツ観戦や室内競技、用品購入や施設利用等、蜜になりやすい競技はマイナス基調にあり、それに伴って用品購入等も不調でした。COVID-19の5類移行をうけ、全体的に回復基調になることは間違いないものの、物価上昇に伴う消費意欲の減退との兼ね合いで、早期回復までには至らないと予想されます。日本が優勝したWBCのムーブメントが、ラグビーワールドカップやFIFA女子ワールドカップ等で再び盛り上がれば、需要喚起につながると期待されていますが、在宅レジャーやeスポーツ等の新興勢力との戦いに勝てる魅力的なHX/CXを提供することが求められるでしょう。

需要が回復傾向にある一方で、事業者側が直面している課題が人手不足です。旅館・ホテル業界を例にあげると、2022年9月時点で6割超が正社員・非正規社員とも不足している（「旅館・ホテル業界」動向調査（2022年度業績見通し）帝国データバンク、PDF）と回答しており、宿泊客の「おもてなし」、つまりHX/CXに対する期待に応えられるかが懸念されます。また、モンスタークレーマーの増加によるメンタルヘルス問題、低賃金・長時間労働、非正規社員の使い捨て等、働くヒトとの関係性の抜本的改革にも迫られており、働くヒトに対するマネジメント施策の見直しが待たれます。