Food System

Outlook

はじめに、食料システムをめぐる世界的な潮流を俯瞰した後、本業界に所属する各業界動向について概観します。

食料システムは今まさに変革に迫られています。WBCSD(World Business Council for Sustainable Development、持続可能な開発のための世界経済人会議)は、「食料システムの変革に向けたCEOガイド(PDF)」において、2050年に食料システムを再生型に転換するビジョンを打ち出し、バリューチェーン全体において下記7つの方法を実践することによりシステム変革を推進、SDGsとパリ協定の達成を確実にできると提言しています。(1~4:直接的な方法、5~7:実現を可能にする方法)

  1. 農業を変革し、同時に環境を回復させる
    • 革新的なインプットと農業技術を採用し、環境を回復させながら、農業および水産養殖業の双方において地域の条件に合った作物の種類/混合を最適化する
  2. 価値の公平な分配を向上する
    • 農業従事者の生活や地方のコミュニティに対し公平な価値の分配を創出するような契約慣行、教育上のアプローチ、新技術を採用する
  3. 健康で持続可能であるよう食生活を変える
    • 消費者が健康で持続可能な食生活の選択をするよう支援し、同時に新しい製品設計と効果的なマーケティングにより需要を形作る
  4. 食品の損失と廃棄を最小限にする
    • サプライチェーンの非効率性を減らし、バイオ経済を採用し、生産者と消費者の意識を高めることで、システム全体における食品の損失と廃棄を最低限にする
  5. エンド・ツー・エンドの透明性を構築する
    • 持続可能な原材料確保、農業従事者の収入増加、食品偽装の削減、食品の損失と廃棄の削減、消費者の意識向上を保証するため、新しいレベルのデータを用いて、バリューチェーン全体の可視性とトレーサビリティを構築する
  6. 政策と財務上のイノベーションを加速化する
    • 基礎的なものから最先端まで、食料システム変革を刺激する政策と融資メカニズムを加速化かつ強化する
  7. 新しいビジネスモデルとバリューチェーンコラボレーションを立ち上げる
    • 真の価値を反映するような外部性を一層考慮でき、様々な部門にまたがる多様な利害関係者とのより深い協力関係を生み出す新しいビジネスモデルを確立する

この前提に基づいて、本業界の企業に求められるリーダーシップは以下のようになります。

  1. 対外的なリーダーシップ
    • 政策提言と経済的成功要因の提唱
    • バリューチェーン、サプライネットワーク全体を通した抜本的な解決策の実施
    • トレーサビリティ、データ収集、ガバナンスの標準設定とアラインメント
    • 食料システムの転換と外部性の評価指標づくりの取り組みの加速化への積極的な貢献
    • 国際会議における意見表明、業界牽引、WBCSDのFood & Nature プログラムへの協力
  2. 対内的なリーダーシップ
    • 野心的な企業目標の設定
    • サプライネットワークの変革
    • 外部性を組み込んだ事業指標の設定
    • 全社員のソリューションデザインへの参加とインセンティブ付与
    • 事業戦略と運営のアラインメント
    • 消費者の嗜好やライフスタイルのリデザイン
    • コミュニティにおける貧困問題への取り組み、キャパシティとレジリエンスの両方を築く解決策の策定

(引用:WBCSD 食料システムの変革に向けたCEOガイド )

また、世界経済フォーラムとボストンコンサルティンググループの共同レポート「Net-Zero Challenge : The supply chain opportunity 2021.1(PDF)」によると、世界の温室効果ガス排出量をサプライチェーン別に試算した結果、最も排出量が多いのが食品サプライチェーン(約25%)であり、建設(10%)、ファッション(5%)、FMCG(日用消費財、5%)、エレクトロニクス(2%)、自動車(2%)等を上回る結果となっており、脱炭素実現のボトルネックになりかねない状況にあります。食料安全保障や経済格差、健康問題にも関連する課題を抱えており、変革は必至なのです。

食料安全保障に関しては、日本は危機的状況に直面しつつあると考えるべきでしょう。ロシアのウクライナ侵攻の終結の見込みが立たない中、小麦やひまわり油、肥料等、両国からの輸出が滞ることで世界中が被る影響が深刻化することが懸念されるだけでなく、爆発的な人口増加を見せた中国とインドが経済力もつけてきたことで食料調達力で買い負けることや、中国をはじめとする近隣諸国との日本近海の海洋資源を巡る争いが激化しています。

アメリカ等の外圧に振り回されることが常である日本の農業政策は、海外からの食料調達が滞った場合を想定した準備を整えられているとは言えません。専業農家の激減と小規模兼業農家の増加、作付面積の縮小、後継者不足、脆弱な収益基盤、複雑な利害関係者の存在、非効率な流通構造、大量の食品ロス等の諸問題を抱えた中で十分な対応を実行できるとは考えにくいのが実情です。カロリーベースの食料自給率が低い状況を改善するために国内生産増加に転じたとしても、農地、担い手となる農家、効率的な生産手法、設備、適正価格で販売できる流通経路、そして農家の生活を支えられる収益基盤等の整備も同時に行うことが必要であり、自給率の向上までには時間を要します。

ここまで見てきたように、脱炭素、サステナビリティ、サプライネットワーク、食料自給率といったテーマに対して実効的な解決策をデザインするとなると、キーとなるプレーヤーには業界の盟主としての規模が必要になることが考えられます。穀物メジャーをはじめ、多くの食料サプライチェーンがプロセスごとに寡占化された状況からもわかるように、エコシステム全体の変革にはパワーが必要であり、大手商社や農業機器メーカー等が主導するDX推進が期待されます。農林水産省も「農業DX構想」で取り組むべき課題を以下のようにまとめています。

  1. 農業・食関連産業の「現場」系プロジェクト
  2. 農林水産省の「行政実務」系プロジェクト
  3. 現場と農林水産省をつなぐ「基盤」の整備に向けたプロジェクト

そして、農業DXの推進にあたっては、

  1. デジタル技術の効果のわかりやすい伝達とフィードバックの活用
  2. アジャイル対応、KGI・KPIの設定
  3. 農業・食関連産業以外の分野との連携
  4. データマネジメントの本格実施

がポイントになるとしています。

(出所:農林水産省「農業DX構想」2021.3. 農業DX構想検討会 PDF

このような行政の後押しを受けた企業が採るべき戦略は、

  1. 業界標準、ルール、認証等の仕組みづくり
  2. 消費者のサステナビリティに関するニーズ喚起と購買行動の変容促進
  3. デジタルサプライネットワークのデザイン
  4. 希少資源の囲い込み
  5. 一次生産者と食品企業との連携

という5つを軸としたものになると考えます。大手企業によって新たなエコシステムが構築されれば、これをプラットフォームとして利活用したい中小企業にも活路が開ける可能性が出てきます。例えば、一次生産者と生産地の利益に資する新たなルールの確立、地産地消の取り組みの促進、消費者の購買行動の変容を促す環境ラベルづくり、食品ロスを極小化するための新しいマーケットプレイスの設立、従来の食品を代替する素材の開発プラットフォームの構築等が考えられます。

続いて、本業界に所属する企業群の動向について概観します。

農業ビジネス

  • 就農者数減少と高齢化に対応するために、テクノロジーを活用したスマート農業に注目が集まっています。スマート農業はロボット技術やICTを活用して、超省力・高品質生産を実現する新たな農業のことです。先端技術を活用した作業の自動化による事業規模の拡大、ICT技術を活用した熟練農家から若手への技術承継、センシングデータの解析・活用により農作物の育成促進等のメリットがある一方、高額なイニシャルコスト、就農者のリテラシー不足、農業市場規模の縮小傾向等により、普及が進まない現状もあります。パンデミックによる巣篭り需要で農作物宅配ビジネスが好調であることや、日本の食文化に対する世界的な関心が寄せられて輸出が堅調なことは好材料ですが、日本の特産品や名産品が不正に持ち出されて損害を被ることもあり、防御策や関連法規の整備が待たれるところです。

飲料業界

  • 原材料の高騰によって悪化した収益を、高付加価値商品の投入と値上げという2本柱で回復を図るとともに、飲食産業に消費者が戻ったことによる需要増で弾みをつけたいと考えています。健康志向の普及への対応としてノンアルコール飲料を提供し、宅飲み需要にはチューハイやハイボールで応える等、コストパフォーマンスに敏感な消費者の要望に応えるべく市場を開拓しています。清涼飲料では、人出の回復に伴う需要増が見込まれるものの、未だ本格的な復活の途上であり、維持管理費が嵩む自動販売機事業の統廃合等、各社とも経営の効率化を急いでいます。販売価格が繰り返し値上げされる中、外出時にCVSや自販機で都度購入する消費スタイルから、予めスーパー等で大容量徳用品を購入し、自宅でマイボトルに充填して持参するスタイルへと転じる人が増えることも考えられます。小売業における実売価格の維持、引上げがどこまで受け入れられるかが業績向上の鍵を握るでしょう。

即席麵・製パン業界

  • ロシアによるウクライナ侵攻による小麦相場の高騰と、ポストコロナによる巣篭り需要の反動減に見舞われています。即席麵では、主力商品の値上げが価格感度の高い消費者にどう受け入れられるかを注視する必要があります。また、相次ぐ天災への備えとしての保存食、ヘルシー志向、嗜好の多様化という消費者ニーズの変化への対応力も問われるほか、人気が高まっている海外市場の開拓にも注力すべきです。製パンでは、巣篭り時のプチ贅沢として人気が出た菓子パンは好調ですが、価格が重視されやすい食パンは相次ぐ値上げにより苦戦を強いられる可能性が高いでしょう。

製粉・製糖・製油業界

  • 原材料の高騰と為替の動向の影響で値上げが止まらず、各社とも収益力向上が大きな課題になっています。政府売り渡し価格はコントロールできないだけに、経営統合、業務提携、共同出資会社の設立等、事業効率の向上が急務です。また、ヘルシー志向や高級志向を取り込むために、大手商社や食品各社との連携を活かして付加価値製品の開発・販売に注力することで売上増を図ることも重要です。

調味料・乳製品業界

  • 巣篭り需要の減少とヘルシー志向の定着による影響を受けて変化が見られます。調味料では、巣篭りが終わって街に人出が戻ったため、家庭用は減少し、業務用が増加に転じました。乳製品では、COVID-19感染防止策の一環として免疫力が注目され、各社から免疫力の強化を謳う機能性ヨーグルト等が続々発売され人気を博しています。しかし、生乳の需給バランスが不安定化しており、酪農業において生乳の余剰在庫が発生したり、商品供給が需要に追い付かず販売制限が起きる等、サプライチェーン全体の効率化やデジタル化には課題が残っています。ヘルシー志向やタンパク質摂取に関するムーブメントへの対応力が問われます。

代替食品業界

  • 植物性タンパク質が豊富な野菜飲料や、大豆、ひよこ豆、エンドウ豆、レンズ豆、ピーナッツ等をつかった代替ミート食品の研究開発も進んでいます。昆虫食もひとつの選択肢ではありますが、植物性タンパク質を利用した製品のほうが消費者の心理的抵抗が少なく、徐々に普及していくことが考えられます。人口爆発によって世界中で食料危機が叫ばれている中、タンパク質消費量に占める代替食品の割合を引き上げることは食料品各社にとって優位性の源泉となる可能性があるだけに、各社の動向を注視しておくべきでしょう。

ハム・ソーセージ、水産・冷凍食品業界

  • 畜肉価格、原燃料コスト等の高騰、水産資源の争奪戦、プラスティック使用量の削減等のサステナビリティへの対応等、コストを押し上げる数多くの要因への対策に追われています。百貨店等における中元・歳暮等の贈答品需要が減る一方、冷凍食品の売上は家庭用が業務用を初めて上回ったことや、減塩・低糖質商品が人気を博してD2C事業が伸長しており、事業構造の再編やM&Aが活発化の様相を呈しています。また、水産資源の持続的な利用を目指す取り組みの一環として、MSC認証やASC認証を取得した魚介類の取り扱いを各社とも増やしており、養殖事業や食品加工、素材研究に関する取り組みの強化が今後の成長を担うと考えます。

菓子業界

  • 少子化に伴う市場縮小を補う形でのオトナ市場の拡大と海外市場の開拓がテーマとなっている菓子業界では、原材料費の高騰による値上げが不可避となっています。小売価格を据え置きつつ容量を減らす手法に対するSNS上での揶揄もあり、小売店との価格交渉で本格的な値上げに対する理解を得るための努力が必要です。他業界と同様、ヘルシー志向や高付加価値商品への要望に応えるため、高カカオ、高タンパク質、低糖質、カルシウム、カロリーオフ、各種ビタミン配合等を謳う商品の投入が相次いでいますが、その都度価格が引き上がる印象も与えており、消費意欲を減退させかねない点は注視すべきと考えます。気候の亜熱帯化に伴う氷菓・アイスクリーム需要の伸長は、今後の成長要因のひとつとして活かすべきでしょう。

Consulting Themes

Companies in this industry

  • 食品製造業(畜産物、水産物、野菜、果実、農産保存食、調味料、糖類、精穀・製粉、パン・菓子、動植物油脂、清涼飲料、酒類、茶・コーヒー、その他)
  • 食品卸売業(農畜産物、水産物、食料・飲料)
  • 食品小売業(各種食料品、野菜・果実、食肉、鮮魚、酒、菓子・パン、その他)

Other Industries

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Constr & ME
建設、機械エンジニアリング
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