マーケティングは Wow ! を創造する果てしなき旅

マーケティング

デジタルとアナログが融合したマーケティング4.0時代は、素晴らしい製品やサービスが秒でコモディティ化していくので、ちょっとやそっとのカイゼンやハイスペック化では差別化できなくなりました。「破壊的な技術革新」というパワーワードこそポピュラーになりましたが、そんなものを簡単に投入できるはずもなく、イノベーションを起こすなんて四苦八苦という企業が大半でしょう。

それでも製品・サービスを顧客に選んでもらうミッションを担うのがマーケティングです。4.0にバージョンアップできなければこのご時世勝ち目はありません。差別化ポイントが、製品・サービスのスペックから顧客のツボにハマるかどうかに変化した以上、「顧客が思わず “Wow ! ”と叫んでしまう経験を提供し続けること」に取り組む必要があるのです。

では、顧客に Wow ! と言わせる方法について考えてみましょう。

顧客の Wow !  を引き出すには

人は、自分が好きなモノやコトが、予期せず手に入ったり我が身に起きた時、思わず Wow !  と言ってしまうものです。その喜びや幸せな気持ちが大きければ大きいほど、周囲の人々に触れ回ります。「個人の趣味趣向にヒットする喜び」が「思いがけないタイミング」で提供されると「嬉しくて黙っていられない」ということでしょう。これが Wow ! を引き出すヒントです。

個人的な話ですが、20年ほど前にこんな Wow ! 経験がありました。

伝統と格式は伊達じゃない~Tホテルのケース

都内Tホテルで知人夫妻と私たち夫婦が会食をする機会がありました。伝統と格式を感じさせるレストランの雰囲気に気圧される中、既に社会的な地位を得ていた知人夫妻と共に、美味しい料理を堪能し、知人夫妻の洒脱なユーモアを交えた会話に惹きこまれ、楽しいひと時を過ごしていました。そして、コース最後のデザートを選ぶ時にこんなコトが起きました。

「こちらが本日のケーキになります。お好きなケーキをお選び下さい」と言ってパティシエが運んできたワゴンには、見たことがないほど美しく繊細で美味しそうなケーキが30種類ほどワンピースずつ並べられていました。男性二人が早々に選んだのを尻目に、女性陣は「コレ美味しそう、コッチも、アレも食べたいしチョコは外せない!選べない!全部食べてみた〜い!!」と大ハシャギwww

Wow ! は突然やってきた

すると彼女達を見ていたパティシエは、微笑みながら「少々お待ちください」と言って、女性陣のオーダーを取らずにバックヤードに戻ってしまったのです。数分後、オーダーし損ねて当惑した女性陣の前にパティシエがサーブしたディッシュには、ケーキ全種類を一口サイズにカットして鏤めた gâteau à la carte が、これまた見たことがないほど綺麗にデコレートされて並んでいたのです。

メニューにはない gâteau à la carte の登場に絶句した私たちに、パティシエは「全部のケーキを食べてみたいとおっしゃっていただいたので、趣向を凝らしてみました。お楽しみいただければ私たちも嬉しく存じます。」と言い残し笑顔で戻っていきました。女性陣、感涙。男性陣、感動。周囲のお客様達、驚嘆。最高のディナーになったことは言うまでもありません。

Wow ! の積み重ねがアドボケイトを生む

この日以来20余年、私は、夫婦の大切なアニバーサリーや重要なビジネスで、ほぼ全てTホテルを利用させていただいています。その後の利用体験でも、こちらの要望に対して可能な限り応えようという姿勢が常に高いレベルで維持されていて、ホスピタリティサービスは勿論、ゲストをもてなす時のサポート、ビジネスサービスの提供等、利用する度いつも Wow ! 体験を与えてくれます。

この体験は何十回とセミナーで話しました。プライベートを含めると数千人、SNSまで含めれば数え切れないほどの方々にシェアした訳です。あの Wow ! 体験が、大切な妻と知人夫妻の喜びに貢献してくれたことに感謝している私を、Tホテルのアドボケイト(推奨者)にした訳です。Wow ! 体験ができる稀有な存在として、私の中でTホテルの価値は高まり続けるでしょう(¥も高いけど)。

カスタマー・ジャーニーで Wow ! を繰り返し提供する

Wow ! の初体験時は新鮮な驚きと喜びで満たされますが、その感動は時と共に忘れられ、次回以降の期待値は更に高まり、前回と同等レベルでは「前よりサービス悪くなったんじゃね?」とも受け取られかねない厄介な顧客感情です。これをアドボケイトレベルまで高めていくためには、カスタマー・ジャーニー(CJ)のあらゆるシーンで絶えず Wow ! 体験を提供するしかありません。

現代のCJは「認知(Aware)→訴求(Appeal)→調査(Ask)→行動(Act)→推奨(Advocate)」の「5つのA」に進化しました。Wow ! 体験の提供とは、5A全てで顧客を感動させ続けることです。それには、顧客の意思決定は「自分自身(Own)」「他者(Others)」「外的(Outer)」という「3つのO」の影響を受けることを踏まえ、各重要度を識別して注力活動を見極めることがポイントです。

顧客の意思決定に影響を及ぼす順番は、最初に「広告等の外的要因」、次に「クチコミ等の他者」で、二つが作用し合って最後に「自分自身」の影響を形づくると言われています。2015年、60ヶ国で行われたニールセン調査によると、回答者の83%が「友人知人・家族」を最も信頼できる広告源とし、66%が「オンライン上の他人の意見」を参考にしています。

また、顧客の経験知がCJに影響を与えることも理解しておきましょう。初物買いの場合は、世の中にどんな製品があるのかを知る「認知」からCJが始まり、最後の「推奨」まで5A全てを通過する長い旅路になりますが、長年の愛用品をリピートする場合は、「認知」から「調査」までのプロセスを飛ばして「行動」から始まり「推奨」で終わる、ごく短いCJになるのです。

経験知の違いは、周りからの影響の受け方の違いにもつながっています。よく知らない製品を買う時は、価格.comやSNS上のクチコミやレビューで高く評価されているものを選ぶほうが安心できますし、趣味や嗜好品に関しては、たとえ周りから悪評が聞こえようとも、それには耳を貸さず、「自分が好きならいいのさ」とうそぶき、清水の舞台から身を投げ大枚を叩くものです。

マーケティング・マッピングを策定しよう

ここまでお読みいただいたところで、ちょっと頭の体操をしてみましょう。

以下にCJの5Aにおける顧客接点の例をあげます。

  • 認知:ブランドのことを人から聞く、偶然CMを見る、素敵な人がそのブランドを持っているのを見た、過去の購買経験を思い出す
  • 訴求:興味を惹かれるブランドがある、購入候補としていくつかのブランドを選ぶ、人から薦められたブランドがいくつかある
  • 調査:周囲の評判を聞く、SNSやWebをチェックしてレビューを読む、価格を調べる、わからないことをメールで問い合わせる
  • 行動:店舗で購入する、iPhoneで注文する、実際に使う、不具合をコールセンターに告げる、サービスを受ける
  • 推奨:そのブランドを愛用し続ける、リピートする、同じブランドの上級グレードを購入する、親しい人に推奨する、SNSにアップする

それぞれの顧客接点における効果的なマーケティング活動は異なり、その都度 Wow ! 体験のチャンスも提供できる訳です。「認知」されてから徐々に上がる Wow ! ハードルをクリアし続けるには、「推奨」まで到達するように体系立てた複数の施策を提供する「マーケティング・マッピング」が必要です。ここがマーケターの腕の見せどころですね。貴社ならどんな手を打ちますか?

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マーケティング4.0とは、製品・サービス視点の1.0、消費者視点の2.0、消費者をマインド・ハート・スピリットを備えた全人格的存在と捉える3.0の次に来たDX時代のマーケティング・コンセプト。誰でも、いつでも、どこでも欲しい物が手に入る現在、デジタル時代のマーケティングが具備すべきフレームワークの概要をわかりやすく解説している。

若者、女性、ネティズンを蔑ろにして炎上する昨今の事例は、マーケティング・システムのバージョンが古いままであることも一因かもしれないこともうかがい知れた。さらっと読める文体で、なんとなくコトラー先生より共著者の方がメインで書いている印象(もしくは翻訳の文体の問題か)。全盛期は過ぎ、すでに神格化されたコトラー大先生の神通力をまだ少しは感じ取れる、かな。

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