イノベーションを起こすには「認知の外」に目を向けよう

イノベーション

「顧客が解決したいコト」にフォーカスする

イノベーションとは「起きるもの」ではなく「起こすもの」である、と高名な先生方はおっしゃいます。背後にある大人の事情を差し引いて考えるべきでしょうが、この言葉を素直に信じ、日々奮闘する人が、いつかイノベーションを起こすことができるのも事実です。実践的な理論に裏付けられたアプローチで試行錯誤すれば、ですけどね。

そのためには、視野狭窄のワナにはまりがちなプロダクトベースの発想から脱却することが先決です。顧客ニーズがモノ(製品・サービス)からコト(Wow ! 体験)に変わった訳ですから、コトにフォーカスしなければ顧客には響かないのは当然です。カイゼンやハイスペック化ではなく、顧客の気持ちを動かし、初めての経験をもたらす何かを提供しなければならないのです。

では、具体的にどうすればいいのか、考えていきましょう。

ケイパビリティに合うイノベーション・タイプの選択

イノベーションは、懸案や課題の取り扱い方の違いで3つに分類できます。それぞれの特徴、破壊的な技術革新の重要性、推奨企業プロファイルについて簡潔にまとめました。貴社が投入できるリソースを考慮しつつ、どのタイプを狙うべきかご検討ください。

解決型

レコードがCDに、アナログカメラがデジカメに変わったように、技術革新によってこれまで長い間リリースされてきた製品・サービスが一気に新しい製品・サービスにリプレイスされるタイプのイノベーションです。破壊的な技術革新を持つプレーヤーが業界地図を一変させます。デジタルネイティブのテクノロジー系スタートアップが狙うのはこのタイプでしょう。

発見型

ED治療薬のバイアグラ、貧困層に小口融資を行うグラミン銀行等、今まで放置されていた問題を見出し、解決するタイプのイノベーションです。破壊的な技術革新の要不要は製品・サービスによって異なりますが、既存企業との戦いはなく、全く新しい市場(ブルー・オーシャン)が創造されるだけなので、一気呵成にシェアを獲るケイパビリティを持つプレーヤーが有利です。

再定義型

バレエとサーカスを融合させたシルク・ドゥ・ソレイユ、油を使わず蒸気でフライを作るティファールを傘下に持つグループセブ等、懸案を定義し直して解決するタイプのイノベーションです。既存製品・サービスの代替と、新規製品・サービスが支持される全く新しい市場の誕生が同時に発生します。カイゼンで対応可能なものもあり、中小企業でも挑戦できます。

貴社ならどのタイプを狙いますか?

メタ認知能力がイノベーションのKSF

メタ認知能力を鍛えよう

どのタイプを狙うにせよ、求められるのは「メタ認知能力」です。メタ認知能力が足りないと、ターゲティングはある程度明確になっていたとしても、顧客要望のどの部分を見逃しているのか、あるいは全く見ていないのか等、自己認知状況を適切に捉えることができません。捉えられなければ評価はできず、評価できなければ課題も認識できず、課題解決に必要な手立ても打てません。

たとえば、顧客分析はどの企業も一生懸命取り組んでいますが、それと同レベルで非顧客分析を行う企業は稀です。非顧客にどんな価値を提供すれば顧客になってくれるのかを検討するには、非顧客のニーズを適切に理解できなければならないにもかかわらず、調査さえしていない企業が圧倒的多数です。顧客を注視するあまり、非顧客が「認知の外」に置かれがちになるのです。

イノベーションは「顧客が解決したいコト」を見出すことから始まります。メタ認知能力が乏しく、自分のことさえよくわからない企業が、必ずしも顕在化している訳でもない「顧客が解決したいコト」を、適切に捉えることができるとは考えにくいでしょう。多くの企業がイノベーションを起こせない一因がここにあるのではないでしょうか。

目指すはバリュー・イノベーション

破壊的な技術革新によるイノベーションは、類稀な才能によって引き起こされるものであり、文字通りノーベル賞モノです。フツーの人には雲の上の話でしかないというシビアな現実を突きつけられると、「やっぱりイノベーションなんてムリじゃん」としょげてしまいそうですが、既述したようにイノベーションを起こす上で破壊的な技術革新は必須ではありません。

必要なのは、顧客にとってなんらかの新しい価値を提供することです。これがフツーの人々が目指すべき「バリュー・イノベーション」です。バリュー・イノベーションには特筆すべき技術面での新規性や独自性は必須ではありません。しかしながら、その多くは、既存の価値の扱い方にちょっと手を加えることによって、顧客が解決したいコトを叶えてくれます。

この手のことは日本人お得意のカイゼンにも通ずるところがあるので、本当なら日本企業にもバリュー・イノベーションの旗手となるチャンスがあるはずですが、そうなっていないところに失われた20年のダメージが垣間見えます。メタ認知能力を培うために必要な視点の高さと視野の広さを習得するより、コスト削減を優先した当時のマネジメントの不明を嘆きたくなります。

ご高名な先生方は「デジタル時代に企業が大切にすべきは人間性である」ともおっしゃっています。ここはひとつ、メタ認知能力を強化する方向で投資することが賢明でしょう。ミッション、ビジョン、目標を再確認し、提供価値が顧客の懸案を解決できているのか、認知できていない課題はないか等、ゼロベースで検討してみませんか?

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ブルー・オーシャン・シフト

かつて一世を風靡したブルー・オーシャン戦略の集大成、というか、コンセプトを具体化する手順書とでも言うべき最新刊。30余年にわたる研究の成果は伊達じゃなく、実務者の手引きとして活用しやすいだろう。かつて市場を一気に制覇できる大企業だけが実行可能と言われたブルー・オーシャン戦略が、スタートアップや中小企業でも選択できる可能性を示唆している。ブルー・オーシャン開拓と不可分であるイノベーションを起こすヒントを体系立てて記した点も興味深い。数々の経営手法、例えばリーン・スタートアップやビジネスモデル・キャンバス等のフレームワークと、業務推進手法であるスクラムやスプリント等も活用してブルー・オーシャン創造にあたれば、結実する可能性も高まりそう。

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