中小企業におけるデジタル経営改革vol.3.~マーケティング編

デジタル経営

しばらく間が空きましたが、デジタル経営改革の続編です。シリーズ前半の「プロローグ編」、「DX編」、本稿の続き「新規事業開発編」もご覧いただいてご一読いただければ幸いです。では、マーケティング編をご覧ください。

デジタル化でマーケターの夢が叶う、のか?

デジタル・マーケティングのメリットは、特定のセグメントやターゲットにササるアプローチを、必要な時に、欲しいモノや体験したいコトを提供できる可能性を飛躍的に高められることです。一方、あまりにも急激に発達する最新アドテクノロジーを自在に使いこなすことは容易いことではなく、理解するのもひと苦労という方も多いのではないでしょうか。

例えば、入手データが多岐にわたり精緻になるほど、分析の巧拙や活かし方が問われます。かつてのように「詳細データがあれば有効なマーケティングプランを打てるのに、、、」という言い訳が通用しなくなったのですから、今のマーケターは本当に苦労が絶えないでしょう。「持たざる苦労」と「持てる苦労」、後者のほうがマーケターへの要求水準が高くなっています。

そこで、デジタル・マーケティングを武器として活用するための7つの要件について、以下にまとめます。

デジタル・マーケティングにおける7つのKSF

アドテクノロジーの目利き

こう言うと身も蓋もありませんが、続々登場するアドテクノロジーを正しく理解できる専任者が社内にいなければ話になりません。CMOが目利きならベストですが、スタッフでも構いません。担当者を確保・養成し、アドテクを適切に評価し、ターゲティング、リターゲティング、クリエイティブ、リーチ方法等、自社のニーズに応えられるアドテクを選択しましょう。

代理店等の提案内容を適切に評価できなければ、リーチしたい顧客に、その時に伝えるべきコンテンツやクリエイティブが適切に届いているか、どの広告がどの程度購買行動に結びついているか等を検証する能力がないことを露呈し、アドテクの無駄遣いや不要な投資が嵩みかねません。理解できないものに投資してはならないという原則を忘れてはいけません。

アジャイルな働き方

働き方のアジャイル化が必須である以上、マーケティングでもASAPで試行錯誤して極めて短時間のうちに成功することが要求されます。幾人もの上司に逐一お伺いを立てる必要があるPDCAでモタモタ働くのではなく、上司からの方針を受けた担当者がOODA(Observe-Orient-Decide-Action;観察-方向付け-判断-実行)で即断即決できる働き方に変えましょう。

OODAを機能させるには、当事者自身が職務遂行上必要だと判断したことを独断で実行できる環境が不可欠です。アジャイルな働き方で成果を出すヒトを高く評価するマネジメントの仕組みへの転換も急務です。エンパワメントや評価制度等のハードと、コミュニケーションやカルチャ等のソフトの両面において、包括的な対応が求められます。

リーチ対象と方法の見直し

自社の顧客(見込客)データ収集は勿論、競合のデータを入手しましょう。なにもスクリーニングされていないマスデータを無償で入手するより、たとえ有償でも競合のデータの方が有益です。競合の顧客をターンオーバーできればシェア切り崩しにもなるので、本腰を入れて貪欲に収集しましょう。こうしたデータを精査して、リーチすべき対象を改めて絞り込みます。

また、代理店やアドテクベンダーの提案を鵜呑みにせず、チャネル、メディア、アドテクが、いつ、誰に、どうリーチできるのかという詳細データの開示を求めましょう。ターゲットにササるメディア、デバイス、時間帯に集中してリーチできるのか検証し、最も効果的かつ効率的な手法を決定します。データやファクトに基づいた判断が大事です。

カスタマイズド・アプローチ

CJの各ステージごとにフィットするアプローチとコンテンツを制作します。自社製品をまだ買ったことがない人、お試し買いを悩む人、インフルエンサー、プレゼントを探す人、リピーター、アドボカシーでは、選択すべきチャネル、メディア、ササるコンテンツが違います。それぞれに購買を決心させる最も効果的なコンテンツを伝えることに、徹底してこだわりましょう。

移ろいやすい顧客の心情と行動の変化をキーにして、ロジカルかつきめ細かく即応できるアドテクに任せ、ヒトは相手の感情を動かすコンテンツ制作や、他社が真似できないエモーショナルなフォローに専念し、顧客に素晴らしいCXを提供しましょう。このような忘れがたいCXを提供できれば次回の購買につながり、やがてアドボカシーへと成長してくれます。

KPIの最適化

消費者の購買行動が引き起こされたプロセスを精査しましょう。購買直前に接したメディアやコンテンツをトリガーとして特定するのは早計です。消費者は、オン/オフライン双方で、様々なメディアやコンテンツに触れたうえで購買しています。ステージ別、チャネル別、メディア別、コンテンツ別に最適なKPIを設定する理由がこれです。

例えば、CJステージ別では、認知;ブランド認知度、調査;一定時間以上滞在したPV数、シェア;SNS上のファボ・RT・コメント数、リピート;アップセル金額等です。コンテンツ別では、CJシナリオに則った広告別購買意思決定への影響度等です。投資効果をモニタリングするためのコストパフォーマンス指標、実際に購買に結びついたCV率も不可欠です。

コアプロセスのグリップ

デジタル・マーケティングに限ったことではありませんが、差別化の源泉を手離してはいけません。代理店やアドテクベンダーに任せ過ぎると、知見が空洞化するばかりか、いつしかイニシアティブを奪われ、ナメられ、自分達の都合を紛れ込ませないとも限りません。昨今のアドテクについていけていないなあと感じているなら、既にカモられているかも、です。

アドテクをウォッチしつつ、提案やクリエイティブの中身を適切に評価し、実行管理できる専任組織を整えて、コア人材の確保・育成に尽しましょう。デジタル・マーケティングのHQを当該組織として、代理店やアドテクベンダーをマネジメントします。デジタル・マーケティング戦略の司令塔はあくまでも当該組織であり、彼らにはしっかり貢献していただきましょう。

オペレーション体制の確立

自社のベストプラクティスを何度でも創造できる仕組みの確立が最後の仕上げです。知見を投入し、誰でも同じレベルでオペレーションできるよう形式知化、標準化、自動化しましょう。MA、CRM等の構築を目指し、フロントオフィスにはSFE(Sales Force Effectiveness)、バックオフィスにはSFA(Sales Force Automation)、それぞれへのRPA導入も待ったなしです。

とりわけヒトのトレーニングは重要であり、感性や感情を顧客に伝える営業マンのスキルアップは不可欠です。代理店やアドテクベンダーとの協働体制を整え、施策の有効性と効率性を絶えず検証・見直しする一連のオペレーション体制を確立できて、ようやくデジタル・マーケティングは威力を発揮するのです。

デジタル・マーケティングでゲームを変えよう

ARやVRを駆使して、エンタテインメントに溢れたCXを幾つかの企業が提供し始めた今、デジタル・テクノロジーやアドテクの進化についていけない企業からは顧客が離れ始めました。ジャイアント・キリングの可能性が開いたのです。老舗がキャッチアップに難渋している隙に、デジタル・マーケティングを武器にしたスタートアップが中小企業が大物喰いできるのです。

近年、優れた企業価値を誇る企業は、デジタル・テクノロジーに基づく優位性を確立した企業です。「デジタル・テクノロジーってよくわからない」「どのアドテクをどう使えばいいのかわからない」等とぼやく方は、この現実を真剣に受け止め、デジタル・マーケティングの確立に本気で取り組まねば、企業存続の危機に瀕するということを覚悟しましょう。

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