人生100年時代のキャリア戦略

キャリア

年金支給開始年齢を68歳に引き上げる案が紙面に出始めた。自分が対象となる頃には年金制度はベーシックインカムに切り替わっているだろうし、現役で働いているだろうから傍観者的に推移を見守っている。要は、一生働き続けなければならない国と時代になったのだというある種の諦観を抱きつつ、これから先は働くこととどのように向き合っていくべきかを考えるしかないのだ。

キャリア80年、就職3,4回は当たり前?

100歳まで生きると仮定すると、80年の長きにわたりキャリアを創造しなければならない。これは大変だ。事業の寿命は30年と言われ、盛者必衰の定めを超越できる企業はひと握りしかない。勤め人としてキャリアを創造するなら生涯で3〜4社程度にお世話になることだろう。しかも、転職時において採用されるに相応しい能力と実績を有していることが必須なので、生涯ひとつのスペシャリティで通用すると考えてはならない。

ここで、企業におけるキャリアプランのイメージをまとめておこう。大体以下のようなものだ。

・20代はポテンシャル重視。試行錯誤や仕切り直しを大目に見てもらえる間に実績を残すべく奮闘する

・30代は20代の努力が結実する時期。スペシャリストとしてプレゼンスを確立できるか否か、並びに漠たるキャリアの方向性が見えてくる

・40代で登用と選別が本格化する。この時点でマネジメントに進むか、スペシャリストとして更にスキルアップするか、プロフェッショナルとして一騎当千の生き方を選ぶかの選択に迫られる。それ以外は事実上据え置きだ。

・50代で勤め人として最後の篩にかけられる。ひと握りの昇格者とその他大勢の役職定年者に分かれ、この時点でキャリアゴールがほぼ決まるだろう。

このようなキャリアプランを、一つできたら二つ目に取り掛かり、二つできたら三つ目に仕掛かるというウォーターフォール型で進めてはいけない。先述のように、転職には能力と実績が必要であり、試行錯誤や仕切り直しが許されるのは20代のうちということを考えれば、同時並行して複数スペシャリティの習得に挑むことが最も効率的ではないだろうか。

振り幅の大きさが可能性を拡げる

複数スペシャリティの習得にはジョブチェンジが最適だ。転職や異動に積極的に挑み、業界・業種、職種の壁を越え、その道で一人前と認められる実績を積もう。ただ、闇雲に様々な職種に挑戦すればいいというものではなく、キャリアゴールがある程度明確であり、全ての知見と実績がゴールに到達するために相互に関連したキャリアであることが望ましいのは言うまでもない。

新市場創造に優れた実績を持つ製品開発者、営業売上記録ホルダーの会計責任者、人事制度改革を成し遂げたITコンサルタント、起業した会社のイグジットで得た資金を元手にVCを設立したエンジェル等々、幾つかのキャリアはやがて太い幹を形作り、企業から採用したいと思わせるだけの魅力(エンプロイメンタビリティ)を放つ。

さらに言えば、その時代の変化に対応する力であるラーニング・コンピテンシーを持っていることも不可欠だ。「昔とった杵柄」で勝負できた前世紀と違い、2020年を間近に控えた今は技術革新へのキャッチアップと知見のアップデートができない人は置いていかれる。新しい技術や知見習得に貪欲に取り組み、自分のものにできる人だけが採用ターゲットとなるのだ。

また、年齢相応のマネジメント経験を有することも魅力を高めるには有効だ。シニアマネジメントやディレクター、CxO経験はキャリアゴールに近くなる程必要になる。一定規模以上の企業でCxOになりたいなら、それよりもやや小規模の企業のCxOに一旦就任し、事業再生やトランスフォーメーション等で目覚ましい実績を上げてから改めて挑戦する強かさも身につけておきたい。

いずれにせよ、「貴方に来て欲しい」と企業から声が掛かるだけの魅力がなければ生涯を通して働くことは叶わない、キビシー社会になったのだ。

キャリアだけが身を助く

自分のキャリアについて少し明らかにしておこう。私は院卒で入ったRの3年目にコンサルタントになることを決意、30代前半までに営業・マーケティング5年、経営企画4年、人事・人的資本開発7年、IT4年、プレイング&ゼネラルマネジメント6年という事業会社経験を積んだ後にDTCにて修行、独立開業した。経験年数の合計が合わないのは、同時に多職種を兼任したためである。経験した企業規模は、従業員一桁のスタートアップから、年商数十億の一部上場企業グループ会社まで様々だ。

コンサルタントとしては、世界中のエリート校から集まったスマートな新卒組と比べ、なんとも泥臭い、歳食った叩き上げのおっさんだった。キックオフの自己紹介も、クライアントを圧倒する錚々たる学歴とキャリアを誇る若い上司や先輩に比べ、数段見劣りする自分はいわばオチ担当だった。クライアントも上司や先輩には羨望と嫉妬が入り混じった卑屈な態度なのに、自分には上から目線ということも多く、正直ヘコんだ。

でも、逆にこれが自分の強みだった。事業会社内における合理的な意思決定を阻む政治力、改革提案の咀嚼力、推進力、責任の所在を巡る醜い争い等について、肌感覚と実体験を持つコンサルタントは少ない。提案に対するクライアントの思考や反応が手に取るようにわかり、その対処を如才なく行えたのは上司でも先輩でもなく自分だった。やがてクライアントも私を事実上のカウンターパートナーとして信頼を与えてくれた。

これはジョブチェンジの賜物だと思う。事業会社における実務経験とマネジメント経験を有することは、自分が目指すコンサルタントの必須条件だった。あえて異なる業界・業種、従業員数、年商規模の企業で様々な職種を経験したことが、新卒組には知り得ない事業会社あるあるに通じることとなり、コンサルタントとしての力量に活きると考えたことは間違っていなかった。

現在はこれから先を見据えてコンサルタント以外の複業も行っている。時々に合わせてポートフォリオを変更しつつ、現役の最後まで複業を楽しんで生きていきたい。この件についてはまた記すことがあるかもしれない。

この本を読んでみよう

ワークシフト ー 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図

2025年時点で人はどう働いているか?様々な変化が働き方を変えるよう作用する中、人は自らが主体的にキャリアを創造できた自由人と、食うために働く下流民に二極化するという。2012年発売とあって新鮮味やディストピア感はやや薄れているが、AIとの協働やイノベーションも視野に入れれば、今後のキャリア創造に関する示唆が得られる。漫然と時間を浪費している人には非情な宣告かも。

戦略コンサルタント、外資系エグゼクティブ、起業家が実践した ビジネスエリートへのキャリア戦略

Big4や投資ファンド、外資系企業のエグゼクティブへの転身を1000名以上支援してきた気鋭のキャリアコンサルタントが紐解くキャリアデザイン手法の解説書。東京大学の3・4年生向けキャリア設計講義「キャリア・マーケットデザイン ー Design Your Future, Design Our Future」の指定教科書になっている。フツーの人がいかにしてビジネスエリートへ上り詰めるか、興味があればご一読を。

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