「やりきる力」を支えるレディネス

HCD

コンサルタントとして数々の課題解決に携わってきたが、多くのケースで成果創出上のボトルネックとなるのがクライアントとコンサルタントの「やりきる力」だ。

極端な話、あるコンサルタントが2つのクライアントに対して同じ課題解決策を提案しても、クライアントのやりきる力が違えば結果は違ってくる。現実にはコンサルタントが全く同じ課題解決策を2つのクライアントに提案することはありえないし、それぞれのやりきる力だけが成果を左右するわけでもない。

だが、コンサルティングサービスとは「クライアントがそれまでできていなかったことを、できるようにすること」なので、コンサルタントとクライアントの「やりきる力」が優れていれば成功可能性が高くなるのは間違いない。

では「やりきる力」とはどんな力なのだろう。言葉からイメージされるのは「業務上必要な知見とスキルを持ち、粘り強く活動し続け、目標を達成すること」あたりかもしれないが、今回はレディネスの側面から考えてみる。

クライアントが具備すべきレディネス

CEO,COO,CFO等、業績責任を負うCxOにとってやりきる力は必須だ。業績向上のプレッシャーがキツければキツいほど、短絡的なリストラや資産売却のような禁じ手を講じてでも黒字化させたくなるものだが、そんなことを続けられるわけはない。中長期的に高業績をあげるには、地道なトランスフォーメーション(組織改革)が不可欠なのだ。

では、それを叶える4つのレディネスは何か、考えてみよう。

意識〜顧客のために変わる

すべてのビジネスプロセスを顧客のために再構築するので、意見の相違や衝突が起きるが、最終的にクリアできるよう粘り強くアプローチする。顧客接点の弱点克服にフォーカスした抜本的改革には、こうした意識が必須である。

活動〜科学的アプローチ

ビジネスプロセスの最初から最後まで、業績にインパクトを与えるKPIをウォッチし、定性的な評価だけでなく定量的な数値に基づく経営ダッシュボードを構築して経営状態を共有する。

統率〜PDCAの徹底化

マネジメントサイクルを適切に回し、問題があれば即修正行動を徹底、目標達成まで絶対に諦めないカルチャも醸成する。メンバー相互を競わせて競争原理を導入し、ストレッチ目標の設定、達成を促進する。

フィードバック〜メッセージの明確化

経営からのメッセージに対して、成果で応えた人を高く評価・賞賛し、応えるベクトルが違ったり、成果を出せなかった人を低評価することを通じて、方向性と執行方法を明示し、組織の隅々まで浸透させる。

これらが整っていれば、トランスフォーメーションの成功可能性は高まる。

コンサルタントが具備すべきレディネス

コンサルタントには、クライアントに課題解決をやりきって頂けるまであらゆる支援を提供し続ける使命がある。執行当事者ではないがゆえ、CxOとは異なる力が必要だ。智に富み、芸に通じ、情に厚く、楽観的であり、クライアントと共に目標に向けて歩み続ける黒子に徹することが求められよう。

コンサルタントが具備すべきレディネスは以下の通りだ。

ロジック

事実に基づく仮説設定・検証の積み重ねによって課題解決に導くためのコアスキル。弛まぬブラッシュアップが必須だが、オールドスクールなグレイヘアは経験値に頼りがち。ファクトベースで考え抜く力が全て。

クリエイティビティ

課題解決の先にあるビジョンを経営者と共に描くことができる。単なる画餅ではなく、フィジビリティスタディ等で実現可能性を検証しながら壮大なビッグピクチャの創造支援ができるか。イノベーション支援には不可欠だ。

チャーミング

この人なら安心して相談できる、信頼できる、だけでなく、話を聞いていて面白い、知的好奇心を掻き立てられる、サガった時に会うとなんだか元気になれる等、常に「会いたい」と思わせるだけの人間的魅力があるか。

ストレスマネジメント

絶えず襲いくるストレスに臆せず、適宜発散し、気分転換することに長けているか。自己投資や趣味・スポーツ等でストレスとうまく向き合えれば、自ずと話題も豊富になり、経験値や人間的な幅が広がり更なる魅力につながる。

これらが整っていれば、クライアントにとって頼り甲斐があるコンサルタントになれる可能性が高くなる。

「やりきる」までやる

孤高にならない・させない

責任感の強さゆえCxOはなにもかも自分一人で背負いがちだ。いくら手を打っても改革は思うように進まないものだが、それがゆえに自分のプランが間違っていたのかと悩んだり、部下の動きが不十分ではと疑ったり、周囲を信じられなくなることもある。なんなら自分でやったほうが上手くいくとも思うものだ。自ら部下に歩み寄り、コミュニケーションを交わすのは、言うほど簡単ではない。こうなっては孤立無縁であり、改革は笛吹けども踊らずに終わる。

コンサルタントはクライアントがそうならないためにできる全てのことを行わねばならない。時にはCxO、時には社員、そして第三者の立場から、全体を俯瞰し、必要な支援を必要な人に提供することで、クライアントを孤立させぬよう取り計らうのだ。時にはエグゼクティブ・コーチングを提供する等、手厚くかつきめ細やかに支えることも視野に入れよう。

失敗の叱責より小さな一歩の賞賛

新たな取り組みには失敗がつきものと割り切り、小さくても一歩踏み出せたら褒めるよう、スタンスを切り替えよう。遅々として進まぬ改革に苛立ちやすいCxOをなだめ、成功実感の乏しさを嘆く社員を鼓舞しつつ、顕在化した問題を解決し、躓きやすいポイントを潰すのはコンサルタントの腕の見せ所だ。

また、褒め慣れていないクライアントに代わって、コンサルタントが褒められ慣れていない社員を賞賛しよう。レコグニションだ。皆の前で褒めたたえるのだ。小さな進歩でも素晴らしいと賞賛されれば、社員は褒めてもらえる方向に走り出す。そしてまた小さな一歩が踏み出され、小さな進歩が生まれる。

これを繰り返し行えば、クライアントが少しずつ自信を持ち、実績に裏付けられた成長を実感し、次の一歩を踏み出せるようになる。このフェーズではコンサルタントが目立ちがちだが、あくまでも晴れ舞台にはクライアントに立って頂き、自身は黒子に徹するよう注意しなければならない。

結果が出たら還元する

大半の社員にとって、改革業務は通常業務+αに過ぎないか面倒で余計な仕事なので、そもそもCxO並みのコミットメントを期待してはいけない。彼等のモチベーションを高めるには、改革の果実を成果貢献した全員に還元することが非常に大切になる。

どんな結果を出せばどう報われるか、社員が実感できる仕掛けを盛り込み、社内に浸透させよう。インセンティブや臨時賞与、昇給等の金銭報酬、レコグニション等の非金銭報酬のいずれでも構わないが、改革への貢献度を明確に測定して、相応に還元しよう。

課題解決の道筋が目に見えて、かつ自分の実入りが良くなってきて、初めて多くの社員の行動は変わる。この行動変容なしにトランスフォーメーションは成功しない。成果を出した社員を大いに讃え厚遇する一方、改革に貢献しなかった社員は冷遇する。信賞必罰の徹底は経営からの明確なメッセージとなり、改革を加速する。

成果責任はトップが負う

減点主義の評価に慣れたクライアントの社員には「挑戦して失敗するより、なにもしないで失敗しないほうがマシ」という価値観が蔓延っている。この誤った価値観の呪縛から解き放つには「なにもしないで失敗しないより、何かに挑戦して失敗するほうが高く評価される」現実を見せることが必要になる。

トランスフォーメーションの道程は試行錯誤の連続であり、小さな躓きをおそれず果敢に挑戦してもらう雰囲気づくりが非常に大切だ。「失敗しても構わないから挑戦してみよう。失敗しないよう俺がフォローするし、最悪の場合でも責任は俺が取るから、目標を達成できるよう懸命に行動してみよう」というスタンスを明確に打ち出すのだ。

同様に、カウンターパートナーであるコンサルタントも課題解決プロジェクトの執行責任を負っている。メンバーにかかるプレッシャーも相当強いため、無意識に保守的なスタンスや発想や思考における制約を設けてしまうこともあろう。クライアントの期待を上回る価値を提供するには、柔軟で自由な発想が必須であり、闊達なタスク遂行を奨励しつつ「責任は俺が取る」と明言していただきたい。

この本を読んでみよう

やる気を引き出し、人を動かす リーダーの現場力

1985年生まれの元ファンドマネジャーが沈み続けるミスターミニットをV字回復させた物語。秀才ではあるが類い稀なカリスマ性や経営経験などない一人の若者が同社の再建を成し遂げたプロセスは、実務執行責任者のロールモデルとなるだろう。組織の中枢を担う幹部候補生に、トランスフォーメーションを成功させるための事例として一読をお勧めする。

コンサルティングの極意:論理や分析を超える「10の力」

クライアントの課題解決ができるのはコンサルタントとして当然だが、それができるから選ばれるとも限らない。経営者が問題に直面した時「何よりもまずあの人に相談したい」と思ってもらうには、どんな存在であるべきだろうか。コンサルタントのみならず、ビジネスパーソンにも参考になる普遍的な力についてコメントしている。上司や他部署との協働にも活かせるだろう。

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