L&D4.0をA&Rのコアにしよう

L&D

以前の投稿(人生100年時代のキャリア戦略)で「人生100年時代が到来、キャリアは60〜80年程度続くことを前提にしたプランを持とう」と主張しました。当該投稿では個人が主体で、企業がどう対処すべきかについては論じていませんでした。前回投稿(「これからの組織」への転換を急げで組織論に言及したこともあり、改めて考えます。

論旨は、L&D(Learning & Development:学習と能力開発)とキャリアの考え方をどう転換すべきかです。インダストリーが4.0にバージョンアップしたことに伴って、L&Dも同バージョンにすべきことと、「自社色に染め上げる3.0以前」から「労働市場で高く評価されるポータビリティスキルの自己学習を支援する体系へと転換する」ことが必須です。

なお、略語の濫用は良くないことは重々承知しているのですが、表題を「ラーニングとディベロップメントをアトラクションとリテンションの中核にしよう」と書き連ねるのは文字数的に流石に無理でした。ご理解下さい。

では、参りましょう。

3.0までのL&Dは「これからの組織」に資するか?

会社が定める階層別研修が主軸

3.0以前のL&D体系は「階層別集合研修」「OJT」+「eラーニング」である企業が大半です。競争環境に大きな変化がなかった時代に誕生したL&D体系が、現代の環境下で適切に機能するとは考えにくいのですが、一向にアップデートされない理由は、やはり同じようにあまり変わっていない「組織のあり方」と無縁ではありません。

しかし、昭和時代の硬直的縦割りBUが、アジャイルネットワーク型のクロスファンクショナルBUへと進化し始めた今、その進化への対応としてL&Dも新体系への抜本的改革は待ったなしです。爆速化する仕事や破壊的な技術革新、能力開発がカバーする領域の広さ、レベル、知見の陳腐化スピード等を考慮すれば、アジャイル、ハイレベル、自律的なL&Dが求められるのです。

従業員、5年に一度、総入れ替え!?

「平均在職期間4.5年、スキル陳腐化5年(ITは1.5年)」という調査があります。42%のトップは従業員は5年以下の間隔でキャリアチェンジすると見ています。また、保有スキルの賞味期間が5年ということは、即戦力採用した人でも5年の間に新たなスキルを習得できなければお払い箱になる訳です。ひとつのスキルに拘り過ぎる人は、5年粘ってクビになるより4年半で辞めるほうが賢明かも(違)。

また、90%のCEOは自社が破壊的な技術革新に直面していると考えている一方、70%は自社にその変化への適応スキルがないと考えています。従業員のお尻にムチを入れても、育った頃にあっさり辞められてはROIは惨憺たるもので、ITなど悪くすれば倒産の危機に瀕しかねません (出典:Deloitte Global Human Capital Trend 2017)。

これらの調査が物語るのは、L&D3.0がいかに機能していないかということでしょう。では何をどう改革すれば良いのか、次に述べます。

L&D4.0の主役は従業員、企業は機会提供に専念

決定権者は従業員自身

学びの内容とキャリアの方向性を決める権限を従業員に委ねましょう。終身雇用が前提だった時代、決定権は人事や上司が握っていましたが、ようやく自分の手に取り戻せます。年次やポジションにとらわれず、学びたい人、成長したい人はどんどんスキルアップしてもらえばいいのです。ただし、企業がROIを把握しておくことは言うまでもありません。

キャリアは縦横社外に伸展可能

長期間勤めていれば様々な事が起こります。ジョブチェンジは勿論、異動、転勤、出産、育児、療養、介護等のやむを得ない事情や、自分に合った働き方を選びたい等、事情や希望に応じて働き方やキャリアを選べる柔軟性が必要になります。 Up or out の画一的なキャリアラダーを止め、社外も含めた全方向にキャリアを伸ばせるようにしましょう。

キュレート&機会提供機能への転換

自社のみで通用する知見ベースの学習の企画・開発・運用の主体者から脱却し、ポータブルスキルのレベルアップに資する優れた学習機会を世界中からキュレートする機能へと変わりましょう。従業員個人のバージョンアップに資するカリキュラムは、自社製に拘るより既にコモディティ化した優れたコンテンツをキュレートする方が効率的・効果的です。Courseraとか、圧巻です。

継続的ラーニングを可能にする多様な学び方の提供

集合研修やeラーニング等は、受講時は盛り上がるものの職場に戻ったら冷めるものでした。階層別研修は5年以上間が空くのもザラで、その間の学びは本人任せでは機会損失もいいところです。職務遂行上必要な学びは、本人が学びたい時に最適なコンテンツを最適な環境で提供されて然るべきなのです。テクノロジー投資を欠かさず行いましょう。

全員がサプライヤーでありキュレーター

企業内大学等では、コンテンツは「先生」から提供され、従業員は受講に専念していました。従業員自身が主体的に学ぶこれからは、全員が知見を持ち寄って新たな集合知を生み出す機会が増え、コンテンツの集積とキュレートのレベルアップが見込めます。従業員自らがその役を担うことが当たり前になり、「先生」の専権事項ではなくなるのです。

実践の舞台を提供できるか

60年以上にわたるキャリアをどう構築するか考える時、時間、場所、手段を問わず、望み得る最高水準のL&D機会を提供してくれる企業に惹かれるのは当然です。自分の市場価値を高める絶好のチャンスですから、この点だけで在職期間が5年以上になる人が出ても不思議はないでしょう。とはいえ、企業は従業員のステップアップの踏み台に成り下がる事は避ければなりません。

ここでカギとなるのは、学びの実践の舞台を企業が提供できるかという点です。学びのレベルが高くなり、従業員のスキルも高度化すれば、実践の舞台にもある程度のレベルとスケールが必要になるので、その期待に応えられるかどうかが企業側の腕の見せ所になります。頑張って成長しても上が詰まっていて活躍の場を与えられず飼い殺し、なんて嫌ですものね。

中小企業の課題がここです。成長した従業員が腕を揮うのに相応しい舞台をタイムリーに提供できないと、社外流出リスクが一気に高まってしまいます。とはいえ、簡単にポジションやステージを用意できない企業がほとんどなので、協働関係にある企業や懇意な経営者同士のネットワークを活かして、人事交流や出向等でのステージづくりも視野に入れましょう。

また、社内クローズだったキャリアの考え方は、社外にまでオープン化すべきです。人材流出の懸念も理解できますが、逆に言えば、社外の優秀人材をヘッドハントする機会も得られるのです。人材ポートフォリオの最適化という観点から、また副業解禁への対応としても、社内外全方位にキャリアを伸ばしたい従業員の意向に応える仕組みを取り入れるべきでしょう。

なにもかも一気に導入することは難しいでしょうが、できる事から取り組んだ企業だけが戦いに勝つ資格を手にできると考えます。

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