デジタル時代のキャリアデザインはどうあるべきか

キャリア

イノベーター総取り時代の到来

ここ最近、Big4等のコンサルティングファームは、ピープル&カルチャーをはじめ、ストラテジー、デジタル、テクノロジー、オペレーション界隈に注力しています。いずれの領域においても、デジタル・トランスフォーメーション(DX)の旗印を掲げ、積極的なAIやRPAの活用を前提とした新たなビジネスエコシステムの構築を推奨しています。

製品・サービスを消費者が手にするまでのエコシステムは、雑駁に言えば、ひと握りの稀有なイノベーターがコンセプトを発案し、選りすぐられた頭脳明晰な秀才達が具現化する手立てを整え、大多数のフツーの人々が労働力をもって製造・提供する仕組みでした。より大きな付加価値を創出し、より多くの報酬を得るには、ヒエラルキーの上位を目指すよう動機付けられ、研鑽を重ねたものです。

しかし、DXの推進は、秀才をAIに、フツーの人をRPAに代替することを視野に入れており、人には、現時点のAIとRPAにはできない複雑で高度な意思決定や価値創造に専念してもらうことを念頭に置いています。有り体に言えば、「唯一無二のイノベーターになるか、ハイレベルな経営判断を下すバイス・プレジデント(VP)やディレクター(D)になるか、AIやRPAと協働して付加価値の維持以上の貢献を果たせるようになるか、去れ」という究極の四択を強いられる訳です。

私はシンギュラリティがすぐ到来すると考えているわけではありませんが、多くのクライアントにDXを前提にしたビジネスエコシステムの構築を提案しています。となると、VPやDになれない秀才と、付加価値の維持に貢献してきたフツーの人々のキャリアデザインについても論じなければ片手落ちです。本稿では、デジタル時代のキャリアデザインについて考えてみます。

不遇な秀才の居場所はどこにあるのか

可能ならイノベーターとして起業するか、それができなければ在籍中の組織と同等以下の組織に転身してCxOポジションに就くべきでしょう。いずれにせよ、トップマネジメントとしてリーダーシップを発揮することでプレゼンスを確立できるキャリアの模索が急務です。たとえすぐCxOになれないとしても、次の機会でCxOを狙えるポジションを得るプランをデザインしましょう。

不遇な秀才の強みはハイレベルな課題解決スキルですから、このスキルを存分に活用できる居場所を獲得できれば存在価値が高まります。しかしその反面、イノベーターや起業家に必須の課題発見スキルには必ずしも長けているとは限らないし、具備すべきコンピテンシーを持ち合わせているとも言えません。彼らは一種の天才であり、そもそも秀才とは別物なのです。

在籍組織でボードメンバーになれなかったということは、要は先が見えているということであり、経営陣の世代交代や同期の昇格時期に合わせて出向・転籍もあり得る微妙な立場です。見栄や体面のために定年まで飼い殺されることを厭わず、ひたすら忠誠を誓うにせよ、自分の人生を他人にグリップされるのは望ましいキャリアとは言えません。

フツーの人は生きていけるのか

真面目にコツコツ働くことで、贅沢を言わなければなんとかフツーの人生を送ることができた人々は、RPAオペレータとして残る人以外、居場所を追われます。才気溢れるイノベーターや起業できるコンピテンシーを持ち合わせている人はまずいないでしょうし、大多数は正社員としての転職も難しく、非正規社員として複業をこなして生きていくのが精一杯になるでしょう。

政府が推進する異業界への労働移動や、異職種への転換も簡単ではありません。採用選考上のライバルはその業界・職種に精通したRPAとそのオペレータですから、生半可な勉強で太刀打ちできるはずがありません。一旦派遣社員となり、食い扶持を稼ぎつつ派遣会社の研修で資格を取り、書類選考を通過できるようにならなければ、箸にも棒にも引っかかりません。

両親が敷いたレールを直向きに走り、コミュニティや企業、国が構築したインフラとプラットフォームの上で生きてきたステレオタイプな人ほど、ゲームのルールが変わった時に立ち竦んで身動きがとれなくなります。周囲に先んじてRPAのオペレーションに習熟してリスクヘッジしましょう。できる範囲で努力して代替不能な存在になるしか手がないと覚悟しましょう。

成長なき生存なし

売り手有利な労働市場が喧伝されるなか、企業が最も注力しているのはハイパーピープルへのアプローチです。彼らは破壊的な技術革新を前にしても決して怯まないラーニングコンピテンシーを持ち、DXや業務のアジャイル化をリードし、今まで以上に高い水準での価値創造を実現する稀有な存在で、イノベーターになる可能性を秘めています。人に対する期待役割が僅か数年前と比べても飛躍的に高度化しているのです。

かつてフツーの人々基準だったジョブ・ディスクリプションはハイパーピープルに次ぐレベルのハイパフォーマー基準へと引き上げられ、平成時代のマネジャーはポスト平成ではリーダー相当へと実質的に格下げされるケースも出てきました。それに加え、DXやアジャイル化、イノベーションへの対応、新たなテクノロジーへのリテラシー、多様化・複雑化・高度化したメンバーマネジメント課題への卓越した対応も、フツーの人々に要求されるのです。

コンサルタントとしても、クライアントの消化能力と運用体制を把握した上でこのレベルのマネジメントシステムをデザインすることに一切躊躇しないのかと問われると、思わず逡巡することもあるというのが本音です。しかし、このレベル到達できない企業は淘汰されるリスクを免れ得ないことも容易に推察できるので、意を決して提言しています。

 

コンサルタントは、例の「近い将来消滅する職種一覧」には含まれていませんでしたが、私はクライアントの期待をはるかに上回る付加価値を創出できないコンサルタントはAIとRPAに仕事を奪われると考えています。自他共に認める非秀才の私は、今後どのようにクライアントに貢献すべきか自問する毎日です。優れたコンサルRPA、早々に導入すべきかなw

この本を読んでみよう

the four GAFA 四騎士が創り変えた世界

フツーの人々は勿論、ほとんどの秀才も全く敵わないイノベーターに世界は平伏すのかと思わされる戦慄の一冊。与えられた課題を解決する術を磨き続けた日本人が最も苦手とする課題発見力に優れたイノベーターが、世界をどう牛耳ろうとしているのかを理解したうえで、キャリア開発の指針を得よう。アウトプットの量と質を高めない限り、彼らのキャッチアップさえできないかも。農奴呼ばわりはあんまりだが、うかうかしてると本当にそうなりかねないのが怖い。

ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか

ペイパル・マフィアの雄、ピーター・ティールが母校であるスタンフォードで行った起業講義録。YouTube,Tesla,Space X,Yelp!,LinkedIn等々、数多くのイノベーターを次々輩出できるのは理由を伺い知ることができる。秀才やフツーの人々にはハードルが高いが、彼らのコンピタンスについて学ぶことで、なんらかのケミストリが生まれるかもしれない。ただ、それを本当に活かせるかとなるとかなり難易度が高いので、かえって身の程を弁えることになったりして(哀)。

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