新卒入社したR時代、メインは懐かしの採用広告営業で、クロスセルで人材開発サービスも取り扱っていた。自省して涙ながらに自己改革を宣言させる若手・中堅向け研修や、「マネジメントとはなんぞや」ということをひと通り学ぶ新任管理職研修等である。当時は競合も少なく、Rの強烈なプッシュもあって、クライアントから「売って欲しい」と依頼されることもままあったので、数字欲しさに片手間で売っていた感は否めなかった。
経営者から人を育てる事の重要性と醍醐味について伺う機会も多い。経営における人材育成の重要性について疑問を差し挟む余地はないが、醍醐味となると「ちょっと趣味入ってる?」と思うくらいご熱心な方もいて、滔々とご高説を吟じてカタルシスに浸る様子に不安を覚えることもある。よく言えば「個性」「特徴」だが、程度によってはマイクロマネジメントや独特なカルチャの要因にもなる。経営者の醍醐味が社員の満足に資するものになっているかどうか見極めて施策を講じて頂きたいと願う。
話を戻すが、キャリアの初めからずっと「人って教育や研修で本当に育てられるのかな?」「育てられた人ってどんな人?」「育たない人っているよね」「どんどん成長する人もいるよね」等々、人材育成にまつわる疑問は尽きず、釈然としない思いがあった。
現時点の私は、人を育てる方法はあると考えている(一部例外を除く&育つとは言ってない)。ただ、人は成長になんらかの支援が必要なタイプ(育てられる人)と、自ら必要なプロセスを切り拓いていくタイプ(育つ人)に分かれることと、それぞれに最適化した育て方をすることが育成結果を左右するとも考えている。
育てられる人と育つ人とは
人は親に育てられて幼少期を過ごす。栄養を与えられ、知見、社会性や価値観等を親を通じて学び取り、人格を形成していく。自我に目覚めた頃から、自らの意思でどう成長したいか考え始め、方向性や方法を学び始める。様々な考え方、価値観、生き方に触れ、戸惑い、反発や受容を繰り返して自らを模索する。それは死ぬまで続くかもしれない終わりなき思索だろう。
人材育成も似ている。右も左も分からない新入社員には教育研修が必要だし、経験を積み一人前になったら自分の成長は自己責任だ。自らのキャリアが終わるまでどう成長するのか考え、実行し、成果に結実させるよう経営が働きかけるのが一般的だろう。
本来なら「育てられる人」は新入社員や若年の中途採用者程度しか該当しないはずだが、現実には組織内の至る所に存在している。一方、自律的に「育つ人」は、高業績者や経営幹部候補の数名程度なのではないだろうか。経営が精魂込めて育成しているのに、多くの企業でこんな状況にあるのは何故なのか。
まずその特徴を知ろう。
育てられる人
端的に言えば、経営の言う通りに働く人だ。ビジネス環境がそれほど変わらなければ成果を出せるので、上司の経験や前例を参考にして、今の課題を解決するアイディアを考え出し、価値の維持・改善で組織に貢献する。素直で従順、教えたことはきちんとできるので、階層別教育で促成栽培が可能である。従来の教育研修のターゲットである。
しかし、言われた事や教えられた事しかしないし、できないので、手取り足取りの指導が必要になり、自律的成長も望み薄。しかも上司より「小物」しか育たない。企業スケールは経営者の器で決まるという法則に似て、上司を凌駕する大物になりそうな人は上司が潰しにかかるという哀しい現実もあり、大物候補ほど辞めるので、結果的に小物しか残らない。
育つ人
独力で未知の課題を発見し、解決できる可能性を持つ人だ。ビジネス環境が短時間で一変する時代でも成果を出せるので、上司の指導や経験がなくても論理的に考えて課題を特定し、解決するアイディアを考えることができ、イノベーションをもたらすかもしれない。信任すれば自律的に成果を出すので、頼もしくもある。
しかし、定型業務やルーティンには興味がなく、社内ルールを逸脱することもあり、上司のチェックを嫌い、何か言われるとストレスを感じやすく、モチベーションもすぐ下がりやすい。部下育成より自己成長への意欲が強く、組織貢献にはあまり積極的ではないことが多い。優秀が故に上司の理解や支援が得られにくく、自分の実力を発揮するうえで窮屈な思いをしたら、すぐ流出する。起業して競合になることも懸念される。
主役は育つ人、育てられる人に配役はあるか
経営が欲しいのは、価値を創造し続けるひと握りの「育つ人」と、それを支えるために必要最小限の「育てられる人」であり、大量には抱え込まなくなる。「育てられる人」の仕事の一部は、RPAやAIで代替できる可能性が高いため、採用・配置は今後漸減する。
戦略完遂に資する人的資本ポートフォリオは、業界業種・ビジネスモデルに従う。例えば、接客シーンでのヒューマンタッチがKSFとなるサービス業は、スタッフ全員に期待する言動をマニュアルや研修等で教えることは不可欠だ。司令塔には「育つ人」を任用すべきだが、オペレーターには、指示命令を守り、マニュアルに忠実に働くよう「育てられた人」であることが望ましい。また、高度な専門性が求められるプロフェッショナルがクライアントに製品・サービスを提供するビジネスなら「育つ人」で揃えるべきだ。
育てられる人の生き方は根底から揺り動かされ、生きる術を真剣に考えねばならない。これまで安泰と見られてきたメガバンクのホワイトカラーが大量に削減され始めたのも、育てられる人の先行きを明示している。
ただ、経営が集中すべき問題は、育つ人の育て方だ。
育つ人を修羅場に放り込め
育つ人を育てるには、自らの知見と行動を最大に発揮する必要に迫られる機会ー修羅場ーを提供することが最適だ。業績不振部門や赤字子会社の経営再建、新製品開発や人材採用プロジェクト等の責任者としてアサインし、成果、推進計画、マネジメントルール、成果判定基準等をオープンにして約定の上、本人に一任する。
経営は、本人からの要請には対応する受け身の支援体制を敷き、致命的損失を被る怖れが著しい場合を除き、一切手助けしない。本人が成果を出すために何をするのか見守り、創出した成果のみで成長度合いを評価する。経営のおメガネに叶えば昇格・昇進が、ダメなら降格・配置換えが待っている。
後継者や役員選抜等で活用されることが多い修羅場アサインは、若手の早期選抜でも同様の効果が期待できる。育つ人をできるだけ早く発掘し、投資を集中して業績貢献を果たしてもらうことで流出を食い止め、優位性確立と企業存続につなげよう。
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マッキンゼー流 リーダー人材の育て方 DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー論文(Kindle版)
日本企業の人材育成に対する問題提起。優れたリーダーを育てるには今までの教育では難しいということを元McKinseyHRマネジャー(ちきりん氏)が提唱している。Kindle版で安く入手できるのでこの機会にぜひ。
修羅場は与えられるものでなく、みずからつくるもの(インタビュー) DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー論文 Kindle版
次々と人材を輩出するリクルートの人材育成体制についてリクルートの代表取締役である峰岸真澄氏自らが説明した。自ら作り出す修羅場経験が人の成長にどう作用するのかを知ることができる貴重な論文だ。
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