トランスフォーメーションのKSF vol.2 ~プロセス編

トランスフォーメーション

前稿「フレームワーク編」で、トランスフォーメーション(以後Xと表記)を成功させるためには「キャッシュ」「中長期的成長」「組織・カルチャ」に関する検討を推奨しました。本稿では、その具体的な検討プロセスについて概観します。

戦略策定フェーズ(6ヶ月)

Xの背景、目的、必要性を明確にして、n(5年以上)年後の「ありたい姿」をビジョンとしてまとめましょう。現状を適切に把握するためSWOT分析も並行実施することで強みと弱みを再認識できますから、ビジョンとのギャップも明らかにできます。このギャップをどのように解消するのか、ビジョン達成から逆算して計画に落とし込みます。

目標設定、とりわけ利益改善目標は、大企業なら数百〜数千億円、中小企業なら数十〜数百億円という大きなインパクトがあるレベルで設定することがミソです。売上、経常利益、営業利益ではなく「利益改善」でこのレベルですから、ハードルの高さが並大抵ではないことがおわかり頂けるでしょう。画餅と懸念されるかもしれませんが、これ、本気なんです。

これレベルの利益改善目標を達成するには従来戦略の延長線上では不可能です。従来戦略や成功体験を一旦リセットし、自社の理念や存在意義にまで立ち返って、社会や顧客への貢献の仕方やその提供方法のあり方について洞察するプロセスを経ないと、このレベルの目標を達成できる新戦略にはなりません。思考に悶絶する稀有な体験をご堪能いただけます。

構造改革フェーズ(12ヶ月)

「売上拡大」「効率向上」「コスト削減」の3つの重点施策に取り組みます。

売上拡大

マーケティング

コスト最適化とデータアナリティクス導入が必須です。コストダウン目標は20%程度までは追求したいところですが、サービス品質や効果との兼ね合いから、無理強いは禁物です。相見積もりの活用や是々非々の事業者選定等が効果的です。長年の付き合いがある事業者の場合、マージンやキックバック、不正等の是正も断行しましょう。

プライシング

8%程度の売上拡大を目指し、プライシング機能そのものの見直しと値引きの是正が必要です。他稿でも述べた通り、プライシングは利益改善に大きく作用するので、ブランドやアイテムのポジショニングを明らかにした上で価格を見直しましょう。安易な値引きを撤廃し、正価への引き上げ交渉を行い、適正価格の維持と適正利益の確保に尽力しましょう。

営業生産性

目標は15%程度とし、真の顧客の特定と、営業スキルの向上に取り組みます。ネームバリューや柵ではなく、利益をもたらしてくれる重要な顧客を尊重し、手間とコストがかかる割に利益が少ない顧客とは決別しましょう。潜在ニーズの発掘や、ストレッチ目標でも確実に達成できる常勝部隊をのスキルアップトレーニングを重ねましょう。

効率向上

資産

運転資本、固定資産、プロジェクトポートフォリオの最適化に注力します。運転資本については、在庫と掛金の適正化で最大40%削減、固定資産については、不良資産の売却、アウトソース化等で、設備投資で20〜30%、EBITDA(Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation & Amortization:利払・税引・償却前利益)では2〜8%削減が目標です。

プロジェクトポートフォリオについては、成果が出ていないプロジェクトを中止した上でプライオリティを明確にしましょう。その上で、各プロジェクトに投資するか否かは、最低でもIRR(Internal Rate of Return:内部収益率)ハードルレート、投資回収期間、NPV(Net Present Value:正味現在価値)等の定量的指標に照らして判断しましょう。

組織

階層のフラット化とコントロールスパン(マネジメント人数/マネジャー)の拡大がポイントです。年功的な運用で肥大化・複雑化・多層化した階層を7つに削減してレポートラインを短くしましょう。また、コントロールスパンは全ての階層において10人以上を目安に拡大します。これにより、現場の情報がトップまで素早く吸い上げられ、フィードバックのスピードも上がります。

コスト削減

 売上原価、調達

売上原価は2〜3%程度、調達コストは最大20%程度の削減を目指しましょう。自分自身の営業マン時代を思い起こすと、販売経費をつぶさに精査すればかなりのコストを削減できる余地が残っています。また、サプライヤーとの関係を最適化することで調達コストも相当程度削減できる可能性があります。良好な関係と相互成長を実現できる合意点を真摯に探りましょう。

SCM

ロジスティクスについては、運送費の高騰を抑制しつつ、ラスト1kmのデリバリ品質を高めて顧客満足を損なわぬよう交渉しましょう。また、グローバルでサプライヤーのネットワークを構築し、常に最安値で製品を調達できる体制を整えます。取扱製品のポートフォリオ・マネジメントも徹底し、死に筋製品は撤廃しましょう。トータルで最大30%カットが目標です。

人件費

抜本的かつ大規模な変革であるXに対応できない方には、配置転換や出向、転籍、転職支援、コラボレーション・パートナー化等の手を尽くした上で、どうしても上手く活用できない場合には退職を勧奨しましょう。ビジネスモデルが変われば、アウトソーシングすべき機能や部門、サービス等が発生しますので、断行しましょう。目標は相当シビアな20〜40%カットです。

その他経費

地代・家賃、水道光熱費、設備・什器費、ITサービス費、旅費・交通費等、全ての経費を検証します。不要資産の売却は勿論、本社ビル売却後賃借化、支社・営業拠点等の統廃合・移転、SLAの見直し、保守費用低減、投資繰延、交通機関指定席等のグレードダウン、日帰り出張対象の拡大、各種手当の見直し等、チリツモでカットします。20%カットが目標です。

 

これらの施策を成功させるためには、「ありたい姿」と「現状のコスト構造・人員数・人材ポートフォリオ」ギャップを明らかにした上で取り組むことが求められます。その際、成長のために必要な投資まで一律にカットする愚を冒さぬよう留意しましょう。また、経費削減目標を適切に統制できるよう、具体策を検討する実務担当者ごとに目標を設定することも忘れずに行いましょう。

再成長フェーズ

前段で全てのムダを削ぎ落としたら、いよいよ飛躍するための成長戦略の策定に着手します。Xの取り組みにおいて最高難度に位置付けられるこのフェーズでは、これまで漠然としていただろう「ありたい姿」をより明確なビジョンとしてとりまとめ、中長期的な成長を実現すべく、新しい戦略とオペレーションモデルを構築し、将来にわたる競争優位を確立することが必要です。

再成長戦略の検討ポイントを以下にまとめます。

リ・ビジョニング

「中長期的な成長」を定義して、新たに掲げるビジョンを刷新します。定量的な目標にまで落とし込めれば幸いですが、抽象的・定性的な表現に留まっても大きな問題ではありません。組織が目指す「ありたい姿」とはどういう状態なのか、心の拠り所になる言葉にまとめることが大切であり、心の拠り所をシェアできることが大切です。インパクトのあるビジョンにしましょう。

チャレンジ

再成長を実現するためには、従来戦略で躊躇していた難易度の高い数々のチャレンジが必要になります。社歴が長い組織ほどその傾向が強く保守的で変化を嫌いますが、現代において極端に保守的な姿勢を貫くことはリスクと捉えるべきです。あらゆる業界・業種がXに取り組む中で不変を貫くことは、相対的に見れば退化していることに変わりないからです。

挑戦テーマのひとつに「弱みを強みに転換すること」を掲げると検討が深まります。「弱み」とは、裏返せば、成長可能性を追求したことがない分野や手付かずの市場が残っているということです。リソースも知見もない分野や市場で成長することは難しいものですが、それは自社単独で試行した場合の話です。例の手があることを思い出してください。

そう、投資や海外展開、新市場参入、M&A等、自社単独での成長以外の手法に積極的に挑戦しない手はないのです。競合が果敢にチャレンジして成長を加速するのを徒手空拳で眺めているようでは、再成長など叶うはずもありません。競合に先んじて、社外専門家をフル活用して取り組みましょう。最初の一手は影響が軽微なレベルでも充分ですので、知見習得目的でできる限り早く挑戦すべきです。

知見を集積しながら徐々に投資規模を拡張し、競合の吸収合併や他業種企業の吸収合併、クロスボーダー案件のM&A等、より高難度な案件にも挑戦しましょう。加速度的な成長を叶えてグローバル市場への参入を視野に捉えることもできるでしょう。その過程で、IPOやMBO、ホールディングス体制への移行等、ステージアップの可能性も積極的に検討すべきです。

10個の検討ポイント

チャレンジの具体的な検討ポイントを10個にまとめました。

検討ポイント検討の方向性
成長基本戦略ニッチから脱却、加速度的成長を実現できる戦略への転換
グローバル戦略日本で負けても新興国で勝つ等、戦場を世界に拡げ勝ち方を探求
デジタル化バリューチェーンや競争優位性の強化におけるデジタル技術の活用
ビジネスモデリング提供価値、提供方法、サービスのあり方等の抜本的転換
イノベーション・R&Dイノベーションの数の向上を通じた質の向上体制
マーケティング・セールスコスト効率を高めた新市場で勝つマーケティング戦略の策定
ITプラットフォーム意思決定・行動のアジリティ・有効性の向上と業務改善の加速化
オペレーションSCMからCRMまでの収益性とコスト効率の向上
組織・カルチャアジャイルで高効率的な意思決定と職務執行の実現
バックオフィスコスト極小化とパフォーマンス極大化に資するサポート体制の構築

このプロセスでは中長期的な競争環境の予測と経営者の構想に基づいて洞察することになります。テーマの括りが大きく、高い視座、広い視野からの抽象的議論が中心なので、なにをどう検討すればいいかわからなくなり、煮詰まる局面も多々あります。具体的な検討の際には、コンサルタントをはじめ、この手の知見に優れる社外専門家のファシリテーションの活用を推奨します。

 

本稿はここまでです。長きにわたるXの概観ですが、最後の実践編で締めくくりとなります。ここまでお目通しいただき、ありがとうございました。

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