トランスフォーメーションのKSF vol.3 ~ 実践編

トランスフォーメーション

フレームワーク編」「プロセス編」と続いたトランスフォーメーションの概観ですが、いよいよそのラストとなる「実践編」です。本稿では、実践時におけるマネジメント上の留意点についてまとめます。

トランスフォーメーションのマネジメント体制

PMO(Program Management Office)の設置

複数プロジェクトが並行実施されるXのマネージを統括する総司令部です。その直下に、意思決定や全体調整を差配する「ボードミーティング」、実務推進を主導する「事務局」、大変革を継続的に実行するための人材育成や体制構築を推進する「イネーブルメント本部」を置き、それぞれが担う機能面から全体が連携してXを完遂に導く体制を整えましょう。

ボードミーティング

Xマネジメントの最高機関として位置付けられるミーティングです。推進指導、意思決定支援、重要事項の確認・遵守、全体調整等を司る機能を担います。複雑で多岐にわたるプロジェクトマネジメントから距離をとりがちな経営陣に対して、様々なコミュニケーションを行うことによって、完遂へのコミットメントを強化する重要な役割も担います。(週or隔週1回、半日程度)

事務局

X実務推進の司令塔です。各プロジェクト、分科会等ユニットごとの進捗管理、情報集約、全体像の把握とボードミーティングへの報告を担います。実務推進上の問題や計画と実績の乖離は必ず発生しますので、それを見越した上で未然に防ぐ手立てを考案したり、タイムリーに対処できる体制を整備することが求められます。(週2回、各2時間程度)

イネーブルメント本部

数年単位で推進されるXの場合、プロジェクト推進を主体的に担う人材を継続育成する必要があります。Xに関する知見が乏しい初期段階で社外専門家に指導を仰いだ実務推進を、適宜社内推進できるようにしましょう。社外専門家とのコラボを通じ、プロジェクトマネジメント手法、フレームワーク活用、ファシリテーション方法等を習得するのが早道です。(常時、プロジェクトごとのOJT)

トランスフォーメーションマネジメントの6つの留意点

Xのマネジメントは、中長期経営戦略マネジメント+プロジェクトマネジメント という感覚で捉えていただければイメージしやすいでしょう。従って、留意点も似ています。

緻密なコミュニケーション

数年にわたる大規模変革において最も重要なのは社内外コミュニケーションです。ブレないメッセージを発信し、社内外に浸透させ、意見を傾聴し、意思と行動を目標達成に向けて方向付けましょう。Xの必要性を説くだけでなく、Xが引き起こす数々の不安や不満、不信を解消し、ファクトとロジック、パッションを活用して粘り強く語りかけ、関係者の温度差を失くしましょう。

トップダウンの目標設定

目標は必ず「ありたい姿」から逆算して設定します。ボトムアップで積算した目標設定では、従来戦略の延長上のカイゼンが見られる次元に留まるのが関の山だからです。全体目標設定後、分科会や個別プロジェクトごとの目標設定プロセスに入ったら、コスト、人員数、どのプロジェクトの誰にいくら目標を分担させるかを決め、ブレイクダウンし、達成の手立ても明らかにしましょう。

徹底的な全体最適化

組織のいたるところで変革に取り組む場合、推進者の所属部門ごとの個別最適に陥りやすくなります。「顧客満足を追求せよ」と号令をかけると、開発:高機能化、製造:高品質化、営業:リレーションの緊密化、デリバリ:即納化、サービス:無料保証期間延長等を考えますが、その全てはコストを押し上げ要因です。全体最適の勘所を押さえた差配が必要になります。

ロジカルな判断

ファクトベースで具体的数値を用いたシミュレーションに則って判断しましょう。工夫や発想の転換により、撤廃すべきもの、外注化すべきもの等を明らかにし、投資においては費用対効果を明らかにした上で有効と認められたもの限定で実行等、根拠のない定性的な判断を偏重せず、定量的な基準に照らして判断を下すのです。そのためには情報の一元管理及び統制体制が必要になります。

グローバル最適化の促進

グローバル企業の場合、現地をXへどう巻き込むかが問題です。対岸の火事のように傍観を決め込むことを許さず、現地でも着実に推進させましょう。その際には、X推進が現地のトップ自身のメリットになることを理解させ、具体的な報酬への反映方法を明示することで協働体制を構築します。はじめは主要国のひとつで試行して、成功したら水平展開します。

イネーブルメント

Xの中核を担う組織とヒトを発掘し育成するイネーブルメント体制の構築は、Xの基盤強化に不可欠です。自社の存在意義への深い理解と、大変革を成し遂げる強い意思を持ち、学ぶ力と実行力に優れ、チェンジ・マネジメントに対する高い問題認識を持つヒトと、アジャイルなカルチャとナレッジをシェアできる組織を生み出す取り組みは、未だかつてないチャンレジになります。

おわりに

茫洋としがちなXについて、フレームワーク編で考え方を、プロセス編で手順を、そして本編で実践時の留意点についてまとめました。名だたる企業が取り組んでもその成功確率は25%前後という難題ですが、皆様が自社でXに取り組む際のお役に立てば幸甚です。もう少し詳解すべきテーマですし、かなり粗い概観なので、ご質問や疑問点等、お気軽にお問い合わせください。

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