ポートフォリオを再構築して未来を切り拓こう

M&A

成長の踊り場で停滞している企業、多いです。理由は様々ですが、いずれにせよ主力事業がキャッシュを産んでいる間に次のスター事業を確立させなければなりません。あれこれ手を出しては頓挫するという悪循環で身動きが取れなくなっている場合ではありません。しかし、顧客の要望を上手く捉え、変幻自在に対応する逞しい企業もあります。この違い、気になりますね。

このタイプの方は、果敢に攻める一方で損切りの決断も早く、事業ポートフォリオの最適化に余念がありません。お考えを伺うと、時代が変わり、顧客ニーズが変われば、成長する市場と事業も変わるので、常に新しい市場と事業開発に挑むことと、思い入れが強い事業、主力事業、大規模投資した事業でも、予め設定した成長指標を達成できなかったら即撤退するとのことでした。

この意思決定は簡単ではありません。ナイナイ尽くしの企業にとって、社内は勿論、目の届く範囲を懸命に探しても新規事業ネタを見つけることは容易ではありませんし、新規市場への参入もハードルの高さを感じるものです。しかし、成長の踊り場を脱するためには、ポートフォリオの再構築は避けて通れません。成長市場で新たな成長事業を確立することに怯んでいたら、未来はないのです。

ポートフォリオ再構築のKSFはM&A

とは言っても、新規事業を開発し、軌道に乗せて主力事業にまで育てるのは10年単位の大仕事で、至難の技です。これを短時間で実現できる手段がM&Aです。自社の目的や状況次第で「買い手」「売り手」のどちらにもなりうるM&Aですが、社外の専門家の手を借りても3割強しか成功できない(実感値)難業です。なぜそれほど難しいのか、理由を考えてみましょう。

経験不足を克服しよう

ほとんどの日本企業にはM&Aの経験がなく、これが成功のボトルネックになっています。M&A専門家の金融機関や弁護士、CPA等は、ディールを指導する知見はあるものの、当事者としての知見は持っていません。経営者が一番欲しいのはこれなんですけどね。追い立てられるプレッシャー、タフ・ネゴシエーション、決断することの恐怖等、当事者しか知り得ないのです。

これを克服するには「やってみなはれ」しかありません。M&A着手までの事前準備、M&Aの実務、M&A後の経営統合等について、専門家のアドバイスに基づいて、当事者となって試行錯誤して下さい。最初は小規模に留め、知見を集積したら段階的にステップアップしていきましょう。リスクヘッジしながら案件を積み重ねれば、成功するプロセスを確立できます。

ポートフォリオ再構築のフレームワーク

では、具体的な手順について見ていきましょう。

業界構造と進化の把握

参入業界における自社、競合、サプライヤー等のポジショニングを改めて整理して、優劣や相関を明らかにしましょう。時系列での変化や、他社のアライアンス、M&A等、業界再編につながる直近の動向、デジタル化による影響等を分析して、適切な現状認識と、目指す姿とのギャップを直視して、どこに機会があるかを探ります。

基本戦略の策定

はじめに、成長事業と撤退事業を特定します。判断基準は「業界動向」「競争優位性の有無」「業界内ポジション」の3点です。ここで判断に迷いが生じた事業は、撤退すべき事業とバッサリ切りましょう。中途半端は禁物です。次にディール成立要件を熟考し、現状では要件を満たせない場合には、自力で行うのか、他社の力を借りるのかを決めます。これらをまとめれば基本戦略は完成です。

アクションプランの策定

目的の明確化

なんのためにポートフォリオを再構築するのか、M&Aするのかを明らかにしておきましょう。M&Aに着手するとこれに纏わる様々な熱気にあてられてしまい、一種の熱病に浮かされるが如く舞い上がり、冷静な判断ができなくなります。そんな時はいつでも、ここに立ち戻れば決してブレないのです。社外の専門家はこういう時にも力になってくれます。

2つのターゲットリストの作成

アプローチ相手を具体的な固有名詞でリスト化しましょう。「買い手」「売り手」「組み手」という3つの立場から相手を決めて注視すれば、チャンスを掴めます。同時に、アプローチされる可能性がある企業のリスト化も必要です。お声がかかった時、「積極的に受ける」「いい条件なら聞いてみる」「受けない」と予め明確に区別しておけば冷静に対応できます。

レディネス整備

いついかなるチャンスが来てもいいように準備しておくことが大切です。ディール話がどこにあるかを探るために、あるいは相手候補のリサーチのために一定のリソースを常に投入しておく事は勿論、自社がM&Aに興味があることを積極的に発信することも忘れずに行いましょう。アンテナを張り巡らしておけば、どこかでネタが引っ掛かってくるものです。

実行計画のブレイクダウン

ここでは一例として、買い手としての事業統合の実行計画が具備すべき手順について考えてみます。

契約成立前

自社と相手方、双方の中核メンバーが一堂に会し、守秘義務を締結した上で、心理的な抵抗感、不信感、不安感の解消と、ディールを円滑に進めて価値向上に結実させるための懸案の解決方法について、徹底的に意見交換しましょう。社外専門家のファシリテーションのもと、当事者同士として、胸襟を開いて語り合い、わかり合い、同じ目標を目指す下地を整えることが重要です。

ディール期間中

統合会社の経営戦略、統合事業の事業戦略についてまとめます。経営戦略は中核メンバー全員、ファンド等の金融機関、社外の専門家が参加するワークショップで事業分析や問題提起、討議を重ねて合意を形成します。これをシェアしたうえで、事業戦略の検討に入ります。事業戦略はワーキンググループを発足させて検討するのが一般的です。このような手順で事業計画をとりまとめます。

このプロセスでは、徹底的な検証を尽くしましょう。ファクトベースの定量的な予測、複数のシナリオ(楽観的/標準/悲観的)に基づくシミュレーションを尽くすことは勿論、豊富な経験を持つ外部のM&A専門家による検証を仰ぐことを推奨します。事業計画がオーソライズされたら、いよいよ新しい統合会社、統合事業のローンチとなります。

PMIフェーズ

実はM&Aの成否は、PMI(Post Merger Integration:M&A成立後の統合プロセス)において新たなカルチャをシェアできるかどうかにかかっています。カルチャは、パフォーマンスに直結するコンピテンシー(行動様式)を支える基盤です。異なるカルチャを持つ者たちが、互いの違いを認識し、受容し、新たなカルチャをシェアするまでには、幾度もの衝突と理解が必要です。

ここが辛抱のしどころです。失敗例の多くはここで諍いが起きます。最も多いのが経営の主導権を巡る内向きの権力闘争です。競合と戦い、顧客の支持を得るために使われるはずの貴重なリソースが、くだらない内ゲバに浪費されてしまうのです。この有様でM&Aが成功するはずはありません。出自に拘泥せず、中核メンバーが一体となって新たなカルチャ醸成に集中しましょう。

M&Aのチャンスは今だ

「M&Aは大企業がやるもので、中堅中小企業がやるものじゃない」とお考えの方、その間隙を縫って様々な業界でスタートアップと大企業が虎視眈々とM&Aを仕込んでいます。全速力で端折ったのでわかりにくいとは思いますが、ポートフォリオ再構築に取り組むなら、思い切って今こそM&Aに挑戦してください。逡巡していると、そう遠くない将来、足元を掬われます。

この本を読んでみよう

M&Aを成功に導く ビジネスデューデリジェンスの実務(第4版)

M&Aで相手の企業価値を評価するDDについてまとめた一冊。ターゲットリスト選定時には必ずDDを行うので、実務者の手引きとして備えておきたい。第4版へのアップデートに伴い、スタートアップ、業種別、クロスボーダー案件への対処ポイントが追記された。M&A未経験企業にとっては、ディール前からPMIに至るまでの一連のタスクを俯瞰するのに役立つほか、社外の専門家を選ぶための学習用にも使えるだろう。

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