トランスフォーメーションのKSF vol.1 ~フレームワーク編

トランスフォーメーション

昨今のビジネスシーンでよく見聞きするようになったパワーワードのひとつがトランスフォーメーション(trans-の略語「X」で表記されることも多く、本稿でもこれ以降Xと表記)です。「大規模で抜本的な構造改革」を意味するXですが、腰をすえて取り組んでも中長期的な成功に辿り着けるのは1/4程度と言われています。

わざわざそんな難しいことに挑戦する理由は、激変する競争環境への対応のために企業の仕組みや仕掛けを全て一から作り直さなければ、競合との戦いに敗れ去ることはもとより、自らの生存さえままならなくなるからです。中小企業が取り組むのは非現実的と思われるかもしれませんが、本当は中小企業こそ死に物狂いで取り組まなければならないテーマだと私たちは考えています。

中小企業の皆様がこれまで行ってきた数々のカイゼンが思ったほど奏功しなかったのは、「中長期的にどんな姿になりたいのか」というグランドデザインを描けないまま、場当たり的な問題解決を図ってきたことが一因かもしれないのです。ゴールを定め、現状とのギャップを埋めるアプローチはXそのものであり、だからこそ取り組む価値があると考えたのです。

では、どうすればいいのかが問題です。テーマがテーマなので一気に概観するには長くなり過ぎます。そこで本ブログでは、Xについて「フレームワーク編」「プロセス編」「実践編」の3編に分割して考えようと計画しました。本稿はその第一弾「フレームワーク編」です。第二弾以降は後日改めて掲載しますので、掲載確定次第広報いたします。

トランスフォーメーションのフレームワーク

Xの成功事例を紐解くと、3つのフレームワークを活用していました。「キャッシュの確保」「中長期的成長の実現」「適切な組織構築とカルチャ醸成」がそれです。複雑で高難度なXでも、このフレームワークを活用して課題を明らかにし、「ヒト・モノ・カネ」という経営資本をバランスよく成長させることができれば、成功可能性が高まるのです。

キャッシュの確保

Xへの取り組みは重要ですが、大多数の方にとって専従は難しいのでルーティンとの並行実施となります。また、何かを改革しようとすれば必ずヒトが動き、モノが動くのでカネがかかります。つまり、Xへの取り組みにはキャッシュが必要なのです。しかも、それなりの額をすぐ調達するよう求められるので、以下のような施策を中心に実施しましょう。

組織の簡素化

グループ企業の再編をはじめ、いつの間にか肥大化、複雑化した組織の統廃合を実施しましょう。現在の事業部、部門、チーム等のBUは適切に機能しているのか、機能不全だとしたら阻害要因は何か、その解決策は何か等の検討を通じて、真の顧客への対応は中長期的にどうありたいのか等の観点をまとめると、簡素化のヒントが浮かび上がります。

資本効率の向上

ROA(Return on Assets:総資産利益率), ROE(Return on Equity:自己資本利益率)等をはじめとする資本効率を検証し、資本活用における課題を明らかにしましょう。業界平均指標、ベンチマーク相手や時系列比較等から、最適化へのヒントを得ましょう。そして中長期的に自社がありたい姿における資本効率から逆算して、ギャップをどう埋めていくかを考えます。

コスト構造改革

コストを総浚いして削減可能な部分を徹底的にカットしましょう。現在の購買、製造原価、物流、人件費等の検証と、ありたい姿における新たなコスト構造との対比により、業務合理化や間接部門のアウトソース化、SSC(Shared Service Center)設立等も検討しましょう。成長エンジンとなる投資的コストまで一律カットする愚行を繰り返さないことも重要です。

中長期的成長の実現

「そもそも中長期的に成長できるならXなんか不要じゃないか」とお叱りを頂きそうですが、Xとは手間もカネもかかる取り組みだからこそ、キャッシュとモチベーションがある成長期でなければできない戦略的施策なのです。ありたい姿をビジョンとして明確化し、そこに到達するために必要な仕組みと仕掛けについて、改めて考えましょう。

ビジネスモデルの見直し

かつて企業単位だったビジネスの競争主体が、特定機能や提供サービスごとのスタック単位に変わったことと、戦場とルールも変わった今、従来のビジネスモデルの刷新は急務です。基本戦略、戦術、戦闘方法の検証と同時に、競争優位の源泉を見つめ直し、ありたい姿に辿り着くためにはどのような儲かる仕組みが必要なのかを考えましょう。

新たなオペレーションモデルの構築

サプライチェーン、R&D、製造、販売、物流、サービス、間接部門等、全オペレーションにおけるデジタル化の影響を評価し、新たなオペレーションモデルが具備すべき要件を特定しましょう。ハイスピードとハイクォリティを両立するITプラットフォームへの刷新、付随するリテラシー、オペレーションスキルの引き上げ方も具体的に作成しましょう。

徹底的な効率化

効率化が期待通りの成果を上げるかどうか、最終的な仕上げはヒトの手に委ねられています。ビジネスプロセスの効率化は、SCM, バックオフィス、フロントオフィス、CRMの全てがリアルタイムかつシームレスに連動して初めて実現できるわけですが、ごく僅かな部分の運用が滞れば全体効率は著しく落ち込むのです。効率化に対するコミットメントを組織の隅々まで浸透させましょう。

適切な組織構築とカルチャ醸成

ゲームとルールが変わった以上、勝てるヒトと組織のあり方も変わります。中長期的にハイパフォーマンスを持続できるヒトと組織の姿とは何かを描き出し、硬直化した現状を打破しましょう。ポイントは、意思決定を任せられるヒトを育て、現場に権限と責任を与え、チームで戦い、組織が支える、という仕組みに変えることです。

エンパワメント

意思決定の際、稟議書類を回して上司の決裁を仰いでいるようでは、アジャイルな競争で勝てるわけがありません。現場から遠く離れた上司に意思決定権限を集中させる中央集権体制を改め、顧客の要望を一番把握している現場に意思決定権限を委譲しましょう。権限と責任を負ってチャンスをものにすべく戦う逞しい現場を出来る限り早く、数多く育てることが急務です。

チェンジ・マネジメント

アジャイルな仕事の進め方を可能にするためのレディネスを整え、変革推進へのモチベーションを磨き上げると共に、変革に取り組んだ結果を適切に評価し、報酬に反映する仕組みが欠かせません。人材マネジメントに関する基本的な考え方を改め、リーダーシップスタイルの変革とコア人事システムの抜本的改革は必定であり、適切に機能する状態へと変化させましょう。

キーパーソン育成

Xの計画的推進には、その戦略性、重要性を認識し、統率力と実行力に優れた変革パートナーが必要です。各部門におけるトップ候補者から精鋭を選抜し、必要な資質を磨き上げ、経営陣と共に各部門における変革の旗手として活躍してもらいましょう。彼等のような人材を継続的に発掘・育成するスキームを確立して運用することも忘れてはいけません。

カルチャ醸成

日本人が特に優れている「空気を読む」センスを活かし、ハイパフォーマンスを継続して創出できるヒトとチームを高く評価するカルチャを醸成しましょう。できるヒトとチームには更なるストレッチを求める一方、ローパフォーマーは退場を余儀なくされるカルチャが定着すれば、常に適切な緊張感が保たれ、自浄作用も働くようになり、良貨が悪化を駆逐する好循環が実現できます。

フレームワーク編はここまでです。続きはプロセス編をご参照ください。

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デジタルトランスフォーメーション経営――生産性世界一と働き方改革の同時達成に向けて

DXにまつわる最新知見をとりまとめた一冊。「デジタル」という枕詞がついた途端に未知なるもの、不可解なイメージが付加されてしまいがちだが、Xの本質は最終的には人や組織、カルチャにあること、そしてそれらをどう変えるか、粘り強く取り組むうえでのヒントについて学びたい方に推奨する。その反面、X自体の捉え方、フレームワークに関してはやや物足りなさを感じるかも。

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