「これからの組織」への転換を急げ

デジタルHR

昨今ビジネス誌面を飾る組織の特徴を見ると、洗練されたテクノロジーのインフラを持ち、リモートワークや短時間労働をはじめとする多様な働き方が選べ、正社員だけでなく社外協働者とのコラボを活用、コミュニケーションは、リアル・サイバー双方で縦横無尽かつ緻密に交わされており、様々な意見をリアルタイムに吸い上げるアジャイルな働き方ができるようになっています。

昭和の頃から働いてきた方は異国で働いているかのごとく戸惑うかもしれませんが、現在のパフォーマンスの出し方や働き方を考えれば、組織のあり方は、昭和、平成初期の頃に比べて大きく様変わりして当然です。むしろ、様変わりしていない企業は、成長が足踏みしているか、衰退過程を辿っていると言ってもいいでしょう。ビジネスにおいて「変わらないこと」はリスクなんです。

組織はどのように変わればいいのか、考えてみましょう。

「これからの組織」のフレームワークを読み解こう

平成半ば頃までの組織は、効率と効果を考慮してデザインされたものが大半でした。経営環境があまり変わらなければこれでも良かったのですが、今のように予測不可能な経営環境では、ダーウィンよろしく「いかに素早く変化に対応できるか」こそが問われるようになり、効率と効果に加え、アジリティ、変化への適応力が重視されるようになりました。

これを叶えられるのは、個人が有機的につながって編成されるチームが、ジョブやプロジェクトに合わせて自在に集散されるネットワーク型チーム組織です。その特徴は、「営業部」「開発部」「製造部」という部門による階層型の縦割りBU(ビジネスユニット)ではなく、「営業A、開発B、製造C、経理Dで構成されたチームX」のように、部門を超えてつながったチームがBUになる点にあります。

チームはジョブ等と紐付くので、メンバーは毎回異なることもありますし、ジョブ等が終われば、各メンバーはそれぞれの職種プールに戻って次のアサインに備えます。また、職制上のタイトルとチーム内のタイトルは切り離されるので、果たすべき役割もジョブ等によって変わります。職制上のマネジャーがジョブ内容次第ではチームのいちメンバーということもありえるのです。

ウォーターフォールでノロノロ進めていた仕事は、アジャイル手法を取り入れることによってハイスピード化され、全速力で試行錯誤しながら成果を上げるように変わります。「失敗は成功の母」というリスクテイク・スタンスが当たり前になり、イノベーションへの取り組みが推奨されます。失敗を恐れ、リスク回避を決め込む「これまでの組織」にはできないことです。

ガラパゴス化が懸念される「ジャパニーズ組織論」

ここまで読んで「本当にそんな組織になるものかねぇ」と他人事のように感じているアナタ、実は日本人がそんな感想を抱くのは至極当然というグローバル調査があるんです。下記に Deloitte Global Human Capital Trend 2017 において「これからの組織」への転換が「非常に重要」「重要」と回答した回答者の割合(%)を示します。

<国別>

<地域別>

(2つのグラフとも Deloitte Global Human Capital Trend 2017 より筆者作成)

日本は70%。3人中2人は「これからの組織」に進化すべきと考えていますが、1人は「現状のままでもいい」そうです(汗)。

和を重んじる日本型組織モデルへの信奉か、先進国のプライドのなせる業なのかは不明ですが、世界は勿論、アジアと比べても、日本の経営者は「これからの組織」への転換の必要性をそれほど認識していないことが読み取れますね。現代のトップマネジメント世代が階層別組織において年功序列で昇格してきたことを考えれば、この結果も一定程度理解できます。

丁稚奉公や年功序列の理不尽を長年耐え忍び、やっと自分の順番が回って来たと思ったら、組織のフラット化やら成果主義やらIT革命等に見舞われ、自分達の世代を頭越しする若造の抜擢が是とされるようになった訳ですから、現状の組織を肯定的に捉える背景には今までの苦労が水泡に帰してしまうのはやるせないという思いや、鬱積した憤懣もあるのかもしれません。

ただ、タレント獲得競争がグローバル化する中、「このような認識の日本企業で働きたいと思ってくれる人材は果たしているのだろうか」という観点から見れば、一抹以上の不安を禁じえないことも事実です。団塊以後の世代、たとえばバブル世代に思い切った転舵を期待したいところですが、、、少々不安はありますが、バブル世代らしいノリの良さでブレイクスルーしてほしいですね。

今こそアジャイルネットワーク型組織への進化を

「それなら新しいフレームワークを今すぐフル装備しよう」というのは少々無理が過ぎます。でも、できることから始めましょう。今から取り組めば、少なくとも国内の競合に先んじることができる可能性があり、上手くいけばタレント争奪戦に勝てる術を手にできるわけですから、検討する価値はあります。以下、5つのポイントを列記しますので、ご参考になれば幸いです。

ハイスピードへの慣熟

これまでの仕事の進め方が、デジタル化によって一気に高速化します。このハイスピード感に慣れることがはじめの一歩です。トップマネジメントからフロントオフィスに至るまで、意思決定、受発注、デリバリ、請求、回収、アフターサービス、アップセル・クロスセル、R&D等、必要な情報がリアルタイムで入手できるようになります。この変化が自分の業務に及ぼす影響をよく理解しましょう。

集散自在スタッフィングのコアコンピタンス化

ジョブ等に紐付いたチームを集散する仕事の進め方に不慣れな組織において、ネットワーク型チーム組織の運営は相当手強いものになります。役職者自らがプロマネやメンバーになる機動的な配置を経験することによって、職制とチーム内のタイトルの分離の何たるかを理解し、チーム運営はどうあるべきかを迅速に学びましょう。競争優位の源泉にできるのはここです。

ネットワーク型チーム組織におけるKSFの特定

新しいフレームワークの元で優れた業績を上げるチームや個人を分析して、KSFを特定しましょう。大半の人は新しい仕事の進め方に戸惑い、思うように業績をあげられないものです。上手く進めているロールモデルを探し、KSFを見出すことができれば、ナレッジをシェアして水平展開すればいいのです。分析対象は多岐にわたりますが、体系立てて取り組みましょう。

HRテクノロジーの評価と活用

Slack, Workplace等、働き方の多様性と高業績を両立させるためのHRテクノロジーを徹底的に評価して、最適なツールを導入しましょう。集散自在のチーム運営に欠かせないサイバーコミュニケーションツールと、顔を見ながら交わされるリアルコミュニケーションをフル活用することにより、組織全体の業績マネジメントの円滑な遂行が実現できます。

成長支援目的のフィードバックの徹底

年2回行う査定目的の年次評価を止め、週1回15分程度行う成長支援目的のフィードバックを1on1ミーティングで実施しましょう。集散自在のチーム単位でのジョブにおける成長と、担当職種における成長目標を絶えずリンクさせ、見失いがちなキャリアゴールへのクリティカルパスを全速力で駆け抜けてもらう体制を確立しましょう。

これらの取り組み、マネジャーには相当なストレスがかかりますので、覚悟をお決めください。すぐに上手くいくことはまずありませんが、めげずに格闘してくださいませ。

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