起業家モドキはお引き取り下さい

スタートアップ

その意気や良し、だがもう少し考えよう

起業したい若者からのご相談が時々入る。若者の夢に貢献できることがあるならと思い、できる限り時間を割くよう心掛けているのだが、起業家モドキに閉口させられることが増えてきた。

アイディアを聞くと、どこかで見聞きしたことがある内容。独自性や差別化ポイントを聞いてもモゴモゴ言っていて、ターゲットやマーケットスケール、競合、製品・サービスの作り方、売り方、価格、デリバリ、アフターサービス、ビジネスモデル等も曖昧。経費も試算できていない。これでよくコンサルにアポ取るね、という人が珍しくないのだ。

また、こういうタイプは、起業するとどんな生活になるのかも考えていない。OnとOffは分けたい、朝はゆっくり起きて、 短時間集中してカフェでリモートワーク、15時には仕事を終えてジムに行き、サッパリしたら夕方から取引先や気の合う仲間との会食で英気を養い、夜はバンド練習、夜半過ぎに帰宅して明日に備える、、、

悪い冗談ではなく、結構本気でそんな毎日を思い描いているところが恐ろしい。ひと財産築き上げ、アーリーリタイヤメントを決め込んだ人のような暮らしを、まだ何も成し遂げていない人が思い描くことの異常さに気づかないのはなぜなのか。

現実は、MVP開発に苦悩し、資金調達に追いまくられる生活が続くのに。

果てしなく続くストレスに耐えられるか

百歩譲ってそれはそれでいいとしても、肝心のビジネスの話が杜撰極まりない。

プレゼンを聞いても「そうそう、そんな製品・サービスがあったらいいよね」とは全く思えない。MVPを支持してくれるエバンジェリストユーザーがいるのかと聞くと、まだ誰にも売っていないばかりか、アプローチ先のリストアップもできていない有様だ。

しかも近しい人に漠たるMVPのイメージを伝えた時に得たフィードバックに右往左往し、リリースしないうちからカイゼンや機能追加に走るという、起業する時にやってはいけないことをほとんど全部やっているのに、本人には頑張ってる感と俺ってイケてる感が漲っている。

それらしいキーワードやパワーワードで語ってくれるのはいいが、顧客開発モデリングにほとんど着手できていない状態では、コンサルタントとしてできることは皆無に近い。30分程度話を聞いた後、「今日伺った質問へのご回答がまとまってからもう一度お話をお聞かせいただければと思いますので、改めてアポをおとり下さい」と回答するのが精一杯だ。

こうしてお引取り頂いた人とは、再びお目にかかることはまずない。 こちらも真摯に奮闘を続けるクライアントに尽くす使命があるので、モドキに割く時間はないのだ。

1人の成功の陰に死屍累々、それが起業

「A社、10億円の資金調達に成功」「B社、C社に事業売却」「D社、E社と合併しF社としてリスタート」のようなニュースが紙面を賑わすが、幸せなイグジットは1/1,000,000以下の確率だ。真剣に取り組んでいる起業家でもそうなのに、モドキなら億分の一以下でも無理だろう。

仮想通貨界隈の億り人と違い、起業のリターンは提供価値相応だ。多くは地味で華やかさの欠片もなく、しこしこカイゼンを繰り返し、次の手を打ちながら、VCや金融機関に頭を下げまくって資金繰りに勤しむ。寝食を忘れ、仲間と衝突し、裏切られ、罵り合い、私生活は破綻、人間不信、鬱、孤独、心身の不調に苛まれながら、MVPを開発し、まだ見ぬ顧客をあてもなく探し歩く。成功するまでずっとだ。しかも成功の保証はない。これが起業家の毎日なのだ。

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起業の科学 スタートアップサイエンス

スタートアップが失敗せずに済むようにすべき事をまとめた起業家の必読書。読みやすく実践もしやすい。本気で起業したいなら、その道のプロフェッショナルに会う前に絶対読んでおくこと。著者自身の起業経験と起業家のケーススタディに裏打ちされた内容だけに、実践的で参考になる。これを読んでからビジネスプランを作成しよう。

Yコンビネーター

シリコンバレーの起業家養成スクール、Yコンビネーター。起業家が数百の投資家にビジネスアイディアをプレゼンする「デモ・デー」まで起業家を鍛え上げる様子を詳述している。世界中から集まった俊英でさえこれだけ努力を重ねているのだ。テック系でなくても参考にできるプロセスが数多掲載されている。これを読んで怖気づくならリーマンになるべし。

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