年次相対評価をやめると何が変わるのか
まずはじめに、ノーレイティングとは「年次相対評価(レイティング)の廃止」であり、評価そのものを廃止する訳ではないと明言したい。年次相対評価と業績向上との相関が認められないと判断した企業が次々とノーレイティングを導入しはじめたので注目されているが、あたかも評価そのものを廃止するかのような表現が目につくので留意していただきたい。
さて、ノーレイティングは成果主義型評価制度の反省をもとに考えられた仕組みだが、厳密に言えば評価・育成と組織業績向上を緊密化したパフォーマンス・マネジメントツールである。
成果主義型評価制度も、パフォーマンス・マネジメントツールとして機能を果たすことが期待された。しかし、人件費削減という隠された目的、所詮πを喰い合うゼロサムゲームだったこと、そしてできる人と比べられても多くは格差を痛感するだけだったこともあって、モチベーション向上につながらなかった。結果、組織全体の業績向上にも結実しなかった。
それに加え、絶対評価と相対評価の取扱いを巡る試行錯誤の影響もあった。
ある企業では、保有能力や結果を出すプロセスにおける努力と取組姿勢を絶対評価とする一方、結果業績は相対評価で行い、組み合わせて総合評価を決定した。しかし、発揮されない能力の評価はできないし、考課者の好き嫌いやバラつき、印象に残る事象しか評価に反映されないこと、そして中心化傾向等の問題を排除できない。
相対評価を徹底した企業では、合理的ではあったものの納得性には疑問が残り、それがゆえにSランク以外の社員の効力感や自信の喪失、沈滞ムードの蔓延を招いた。このケースも期待通りの業績向上が叶えられたとは言い切れなかった。
一生懸命取り組んだのに、成果主義は業績向上に結びつかなかったのだから見直して然るべきという機運が高まったのも頷ける。
こうして生まれたのがノーレイティングだ。
基準は過去の自分であり他者との比較ではない。過去と現在の自分を比べ、どの程度成長したのか、今後どう成長したいのかにフォーカスする。目標は当然設定するが、全社目標を個人目標と密接にリンクさせたMBOほど上位下達の色彩は濃くない。上司から組織の方向性を聞き、理解した上で自分がどう貢献するのかを考えてオーソライズされた後確定する。このプロセスによってモチベーションが継続的に維持・向上し、成果創出が促進される。
年2~4回・1時間程度の目標管理・フィードバックミーティングではなく、週1~2週に1回・15~30分程度実施する1on1ミーティングで評価結果をフィードバックするので、タイムリーかつ効果的なコーチングやアドバイスが可能になり、成果創出にドライブがかかる。その積み重ねが組織業績の向上につながり、好循環が回り始める。
ただ、コトはそう簡単ではない。ノーレイティングを機能させるには、シビアな要件を満たす必要があるのだ。
ノーレイティング導入の4要件
意識改革
人材はフローであり、いつ流動化するかわからない。環境も日々激変する。なのに評価はなぜ年に数回なのか?「まとめてドン」ではなく「リアルタイムで少しずつ」フィードバックを重ねることが極めて重要なのだ。また、マネジャーには部下一人ひとりに合わせた方法で育成するために膨大な工数を割く覚悟がいる。その際のスタンスは、何をしてきたのかとあげつらうのではなく、これから何をするために今何をするのかという未来志向であることが必須だ。
信頼関係
上司と部下がStraight Talkできる関係が構築できているか。評価にまつわる問題の多くは、上司と部下の信頼関係に根ざしていることが多い。信頼できない上司の評価を受容できる部下はいないし、信用していない部下の意見や主張を傾聴する上司もいない。はじめは些細な仕事でもいいから、上司が部下を信じて任せ、部下が結果を出して応えたら、きちんと評価するということを愚直に積み重ね続けることから、強固な信頼関係を再構築しよう。
システム
パフォーマンス・マネジメントシステムの再構築は必須だ。評価・育成だけでなく、ランク制度、報酬制度、トータルリワード、職務分掌、エンパワメント等のマネジメント基盤を総浚えすることは勿論、1on1ミーティングをはじめとする新たな仕組みの導入、それに伴うマネジャー・トレーニング、定着化プログラム、運用体制の見直し、ITプラットホームへの投資等も必要だ。手間もお金もかかるし、はっきり言って全社あげての大仕事になる。
レディネス
マネジャーがこれらの大転換を理解し、受容し、運用できるかどうか。多くの企業ではこれが一番大きな問題だ。ノーレイティングの導入事例として錚々たる著名企業が並ぶのはこれが理由である。これらの企業の社員は優秀で、よくトレーニングされている。ノーレイティング導入の背景や目的、ロジックを理解し、運用もそつなくこなす。これらの企業には入れない人や体系的にトレーニングされていないマネジャーではそうはいかない。
安易な導入は成果主義の悪夢の二の舞
要件をクリアできていない企業が安易にノーレイティングを導入するとどうなるか。まずマネジャーが長時間労働を強いられて疲弊する。評価・育成とランク、報酬制度の整合性が取れず、マネジャーに裁量も与えていないので部下の要望を汲み取ることもできない。効果的なフィードバックができないので部下のモチベーションも低下し、当然業績も上向かない。そしてまた今日も話すだけ無駄な1on1ミーティングで信頼できない上司の顔を15分我慢して見るしかない、、、まことに残念な様相だ。
ノーレイティングを機能させたいなら、自社が要件を満たしているかどうか、事前に入念なアセスメントを実施して課題を洗い出し、解決策の計画的遂行も同時に行わねばならない。「これで年2回の考課から解放される」なんて不純な動機で安易にノーレイティングを導入すると、マネジメント上の課題が明らさまになり、結局手痛いしっぺ返しを受けることになる。その先に何が待っているかは推して知るべしであろう。
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成果主義で実現できるはずだった組織業績の向上が叶わなかった反省から、評価・育成の仕組みを包括的・抜本的に見直して年次相対評価を廃止、タイムリー・短時間高頻度なフィードバックで業績に結実する仕組みへと転換する手立てを紹介している。ノーレイティングの概要を知りたいなら最初に読もう。
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