デジタル化の凄まじいスピードについていけないエグゼクティブを戴く組織において、リーダーシップ開発体系の進化は大きな経営課題です。かつて日本企業のエグゼクティブは、長い下積み期間中に実績を積み、周囲から高い評価を得て、年功序列の順番待ちで漸く辿り着く50代の方が占めるポジション、というのが常でした。
しかし、このプロセスでは、デジタル社会におけるエグゼクティブを育てることは難しいのです。競争相手がデジタルネイティブであり、テクノロジーを駆使してアジャイルに攻めてきたら、スピードの遅さだけで退場を迫られかねません。そこで本稿では、デジタル時代のリーダーシップ能力開発体系とはどうあるべきかについて考えます。
遅々として進まぬアップデート
現場での実感として、アナログ時代の残滓が最も色濃く残るのがエグゼクティブの能力開発体系です。マネジメントとスタッフに熱心に教育投資をする組織でも、エグゼクティブの教育機会を戦略的に提供しているところは限られます。このレベルになると能力開発は自己責任が当然ではあるものの、実態は事実上放任されてきたと言ってもいいでしょう。
このような実態の背景には、エグゼクティブとは、トッププレーヤーとして優れた実績と知見を持ち、周囲がそれを認め、昇進の度に研修を受けてきたエリートだから、ある種の神聖不可侵な存在かのように扱ってきた歴史があります。現場で数多くの経験を積んできた人特有の圧の強さに抗ってまで意見する人はそうそういませんから、自己研鑽頼みになってしまったのでしょう。
しかし、デジタル社会での競争は誰もが初めて経験するゲームであり、皆ゼロからのスタートになります。ゲーム、プレーヤー、ルール、ツールが変わるので、戦い方も当然変わります。アナログ時代の伝説をいくら持っていようと勝てるかどうかはわかりません。むしろかつての勝者こそ、イノベーションのジレンマよろしく、身動きが取れなくなるかもしれないのです。
それ故に、リーダーシップを4.0へと進化させる必要性が生まれました。
デジタル社会での成功に必要な3つの異能
リーダーシップ4.0に望まれる能力の特徴は下記の通りです。
認知面
コンセプチュアルスキルのアップデートに余念がなく、次々登場する新しい物事の進め方を学び、積極的に取り入れ、情報が不十分な状況でも迅速に判断を下す等、人とは異なるものの考え方が必要です。
行動面
社内外パートナーとのコラボをはじめ、社外の労働力も積極的に活用して、全速力で試行錯誤し、激変する状況にも適切に対処して成果を出す等、アジャイルな行動力が求められます。
情緒面
勇気と自信を持ち、不透明な先行きを果敢に斬り開き、許容範囲内のリスクテイクを厭わず、成果結実まで粘り強く取り組み続ける、起業家にも似た熱く逞しいハートが必須です。
要は、未知の大海原に漕ぎ出し、悪戦苦闘の末に新大陸を発見した冒険家のようなリーダーが望まれているのです。ハリケーンや荒天を何度も躱し、船の故障や未知の疫病に苛まれても、所々の港で補給し、船員や他の船長達と情報交換しながら何度も針路を練り直し、決して諦めずに他の冒険家に先んじて新大陸に辿り着いた姿が、求められるリーダーのロールモデルと重なります。
こんな稀有な資質を持つ人を、連綿と続いてきた堅苦しい日本企業のリーダーシップ能力開発体系で育成できたでしょうか。むしろ、資質ある人が異端児や問題児扱いされてきたのではないかと懸念しています。組織を飛び出して起業する人にこんなタイプがいそうですから、独立してしまった彼らのリーダーシップを紐解くことでなんらかのヒントを得ることができるかもしれません。
革新すべき4つのポイント
現行のリーダーシップ能力開発体系の革新ポイントを以下にまとめます。
リーダーシップ・モデルの見直し
個人にフォーカスした従来のリーダーシップ・モデルを、チームや集団・組織、チームワーク、コラボレーション、インクルージョンに関する能力開発を主体とするモデルへと見直しましょう。不透明な将来を切り拓くためには非連続的な成長を叶えるイノベーションが必須であり、それを叶えるためにはこれらの能力強化が従来以上に必要となります。
デジタル・リーダー候補の発掘
デジタル時代の新たなビジネスモデルを構築するビジョナリー、デジタル化のどこに投資すべきかを見極めるインベスター、アナログ業務をデジタル化するトランスフォーマーという3つの役割を担うデジタル・リーダーとなり得る人材を組織内外から発掘します。それぞれが具備すべき資質は異なるので、複数の候補者を篩にかける体制が必要です。
優秀人材の早期選抜
年功や実績ベースではなく資質ベースで選抜する以上、たとえ10代、20代であっても躊躇なく登用できる仕掛けが不可欠です。才能をフル活用するために、ロール・チャーターの定義、責務と権限、競争環境、ゲームルール、修羅場の提供、年長者からの支援体制等、年齢に関わらずリーダーシップを発揮できる選抜体制を整えましょう。
イノベーションへの活用
新しい価値創造に専念してもらうため、デジタル時代のリーダー候補者を現行業務の推進から切り離し、イノベーションの創出プロジェクトに専念させるべきです。スピードが遅いウォーターフォール型ではなく、アジャイルなビジネスの進め方で戦えるよう、従来の組織からの干渉を防ぐことも重要です。リスクテイクしながら果敢に挑戦する力を開発しましょう。
この本を読んでみよう
複雑な環境変化に対応できる「アダプティブ・リーダーシップ」についてまとめた一冊。著者のロナルド・A・ハイフェッツは長年ハーバード・ケネディスクールでリーダーシップについて研究を重ねてきた大家。eテレ従来型リーダーシップに関する最新の知見を学ぶには好適。やや難解な文体に苦戦する方もいるようだが、リーダーシップ4.0へのバージョンアップに対する示唆を得る見地から一読しておきたい。
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