政府が、101人以上300人以下の企業に対しても、女性登用の数値目標を盛り込んだ行動計画策定を義務づける検討を始めました。これまでの努力義務から一歩踏み込み、19年に女性活躍推進法を改正、20年運用開始を目指すとのことです。
DTCのシミュレーションによれば、女性管理職比率10%、女性比率23%(従業員1000名)のモデル企業が、女性活躍推進のお題目だった「202030(課長相当職の目標値2020年時点で30%、現在202015に下方修正)」を達成するには、採用者数・昇格率・離職率を全て男女同じにしても2030年までかかり、下方修正後の15%でも2021年まで達成できないという結果が出ています。人事に携わる方は現在の施策を漫然と継続しても目標達成には遠く及ばないという結論を重く受け止めるべきです。
本稿では、当該中小企業がこの目標をクリアするためのヒントとして、女性の活躍を後押しするキャリアマネジメントのあり方について考えてみます。
女性を隷属させた20世紀のキャリアマネジメントモデル
戦勝者がリーダーとなってきた歴史を背景に、リーダーには男性が相応しいという考え方が長く続いてきました。戦略や戦闘に長けた男性が高く評価された一方、力が弱く白兵戦の戦力にはなれなかった女性には後方支援の役割を課し、間接的に戦争に貢献するよう強いられました。戦場での給仕や傷病治療、留守宅の家事、出産・育児、教育、老親の世話、そして家計等の一切を女性が切り盛りするよう強いられたのです。
現在のビジネスシーンにおいてこのような考え方や役割を強いることに何ら合理性を見出すことはできません。にもかかわらず、当時の政治家や資本家は、上位下達・絶対服従の軍隊におけるマネジメントルールをはじめ、太古から脈々と受け継がれてきた男尊女卑や家長制度の考え方を社会構造や働く人のキャリア形成に持ち込みました。自分たち男性に都合が良いからでしょう。例えば、社会構造に関しては、現在事実上破綻している年金制度における女性の扱われ方や扶養控除制度を思い起こせば、このような考え方が透けて見えます。
では、キャリア形成に関してはどうでしょう。
まずキャリアのスタートとなる採用において、男性は幹部候補への道がある総合職、女性は総合職の補佐的な職務しかさせない一般職での採用に限定することで、男性優位のマウンティングが始まりました。
ランクは、学歴、年齢、性別とともに総合職と一般職の違いに基づいて決定されました。しかもスタートラインが違うだけでなく、昇進昇格スピードもキャリアラダーも違い、滅私奉公する男性総合職が優先されました。
評価と報酬においては、業績貢献が具体的な数値や現物となってわかりやすい総合職を高く評価し、失敗がなくて当たり前で万一ミスすれば叱責される一般職の評価は低く抑え、登用機会と賃金の格差は開く一方でした。
更に、一家の大黒柱として定年まで勤続する男性総合職に対し、女性一般職は結婚や出産を機に退職すべきという暗黙の了解がありました。女性社員採用を男性社員の将来の花嫁探しと位置付けていた企業も珍しくなかったのです。
また、育児・介護は女性が担うものという考え方が支配的で、休暇取得こそできるようになったものの、女性のキャリア形成上大きな障壁となっていました。復職後も社会の進化についていけず泣く泣く退職した方も多かったでしょう。
転職に関しても、男性は総合職正社員の募集が普通にありますが、女性は派遣社員、パート・アルバイト等の非正規社員の募集しか事実上ありません。キャリア形成を考える機会も余裕もなく、食べるために働くのが精一杯でした。
このような考え方と社会構造では、男女雇用機会均等法をはじめとする関連法規が施行されても、女性活躍が遅々としてすすまなかったのは当然です。
次世代キャリアマネジメントモデルの要件
残念ながら今も男尊女卑の考え方と社会構造は残っています。ただ、家長制度の衰退や終身雇用の崩壊、未曾有の少子高齢化、男性非正規社員の増加等の変化が、「男が稼ぎ女が家を守る」という価値観を揺るがし、若年層を中心に「男女問わず稼げる者が稼ぎ、一緒に家を守ればいんじゃね?」という方向に変わりつつあります。
この変化を前にして、企業には性差なきキャリアマネジメントモデルの再構築が求められます。
例えば、採用においては、応募者全員に総合職を選択可能にするとともに、男女同数採用を目標として設定します。一般職は将来的にはRPAやAIに切り替え可能ですし、高度な専門性が必要な職種に関してはアウトソーシングや派遣、業務請負等で対応すべきです。採用は経営幹部候補のみに絞り込めばよいのです。
ランクは、学歴、年齢、性別の違いではなく期待役割基準で決定します。非限定社員と限定社員の違いはあるにせよ、同じ期待役割なら同じランクからのスタートとし、昇進昇格スピードやキャリアラダー、昇降格運用も、学歴や年齢、性別によって恣意的に格差をつけてはいけません。
次に、 評価と報酬には、担当プロジェクトごとに1on1ミーティングで評価するノーレイティングと同一価値労働同一賃金制度を導入、公正な運用体制を構築します。クォーター制導入と共に女性管理職比率目標を設定します。信賞必罰を徹底し、性差による恣意的な運用には厳しいペナルティが与えられます。
自己成長支援は、キャリアプランの策定支援、並びに業績貢献水準をパスした方にはスキルアップに役立つトレーニング費用に充当できるクーポンを提供しましょう。敗者復活機会の設定を管掌し、合格時にはプロモーション等の異動に関する差配権限も付与することが肝要です。
勤続支援は、地域限定社員と非限定社員との待遇格差の解消や、時短勤務やテレワーク、副業/複業解禁、一旦退職した後でも容易に再就職できる仕組み等、勤続してもらうためのあらゆる工夫を凝らしましょう。特に副業/複業解禁は優秀な人ほど望んでおり、政府の後押しもあるため早急に導入すべきです。
育児・介護支援では、男女同日数の育児・介護休暇の取得を義務づけると同時に、休暇期間中の収入を出勤時と同額まで補填できる仕組みが必要です。前提として、当該休暇がキャリア形成上不利にならないキャリアデザインは必須であり、本人と周囲の負担を軽減する社会的なプラットホームも必要です。
敗者復活機会の提供も不可欠です。「女に負けるなんて男の沽券にかかわる」という価値観の持ち主が実際にその局面に遭遇した時のインパクトは相当のものであり、鬱病等の発症さえあり得ます。そんな方々のメンタルケア、捲土重来を期すチャンス、そして名誉ある撤退の道をどう準備できるかが問われます。
そして転職支援も重要です。ヘッドハンター、斡旋、派遣、アウトプレースメント等の外部パートナーと密に連携しながら、転職先が決まるまで手厚く面倒を見るべきです。真の退職理由の把握は勿論、将来の再就職の可能性を考慮したり、レピュテーションの維持やファン化のために取り組む価値があります。
政府の後押しや関連法規の制定・施行、そして社会的なインフラづくりは欠かせませんが、企業単独でも取り組み可能なキャリアマネジメントについて、自社ならどこで他社に勝てるのかを検討し、方針を定めておくことを推奨します。2020年になって慌てずに済むよう、着実に準備を整えていただきたいと考えます。
この本を読んでみよう
女性活躍の推進―資生堂が実践するダイバーシティ経営と働き方改革
1987年から着実に実践されてきた資生堂の女性活躍推進・次世代育成支援行動計画を理解できる。著者は資生堂の働き方改革推進役だったので実務家の手引書として好適だろう。女性管理職登用に関する取り組みがメインなので、関連する人事制度改革に関する記述がやや薄いのはやむを得ないところか。包括的な内容を期待するなら、下の本がお薦め。
企業のサバイバル手法の一環として女性活躍をどう活かすかという観点で書かれた一冊。胸に希望を抱いて入社した普通の女性社員が普通に努力すれば管理職になっていける組織が具備すべき仕組みとはどうあるのか、特に女性社員の採用や昇進に関するモチベーションの維持、女性が活躍したくなるカルチャの醸成等にも言及している点にご注目。
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