スタートアップのモテ期は一瞬
毎年無数のスタートアップが起業します。数十年後まで事業継続できる確率が1/1,000,000以下とも言われる厳しい闘いに臨む起業家にとって、近年の支援基盤の充実ぶりは本当に心強いものでしょう。中でもテクノロジー領域におけるU20起業に対するVCの投資意欲は目覚ましく、世界中の若き俊英との邂逅に奔走する動きが目に留まります。JKどころかJC起業家も現れました。
起業家の着眼点やサービスがユニークで、スケーラビリティが見込め、なんとなくイケてそうなMVPを見せてくれれば、大勢のエンジェルやVCが手を差し伸べてくれる可能性が高まった事自体は歓迎すべき事でしょう。最初期の資金調達ができずに敗走せざるをえなかったスタートアップが多かった時代に比べれば、本当に恵まれた環境になったものです。
ただそれは「期待できる間だけ」です。見込みがないと判断したら、彼等は一気に損切りへと舵を切ります。弁明にも耳を貸さず、都合も聞かず、指定期日までに融資や出資額の返済・返還を迫り、断行します。それが致命的な資金ショートを招こうが一向にお構いなしにやってくれるのですから、起業家にとってはたまったものではありません。
また、採用やマネジメント、営業、IT等の外部パートナー等、金融機関やVCが連れてきたリソースも一斉に引き上げるので、事業活動が即座に滞ることもあります。一度投資した起業家を絶対に見捨てないスタンスが売りのVCでも、地獄まで付き合ってはくれません。巻き返しを図ろうにも実働部隊がいなければ出来ることも限られ、スタートアップはこの時点で事実上「死に体」となります。
見限られた時、誰を味方にするのか
死に体に陥ったスタートアップの選択肢は「売却・譲渡」「リベンジ」「休止・清算・廃業」の3つです。
売却・譲渡
シリアル・アントレプレナーや事業価値が見込めるなら最適解はこれです。売却益を元手に次の起業に向け走り出せるので、これはこれで価値のある選択ですが、「自分の手で世の中を変えたい」という起業家にとっては、リベンジとの比較検討が悩ましいところでしょう。バリュエーションやデュー・ディリジェンス、M&Aに長けた会計士や監査法人の支援を仰ぎ、判断しましょう。
リベンジ
捲土重来を期すなら、「顧客開発モデル構築」という原理原則に立ち返って徹底的にレビューして仕切り直しましょう。もう一度親戚縁者に頭を下げてスウィートマネーを掻き集め、どこで何を間違えたのかを検証し、再びVCや金融機関から資金調達できるビジネスプランを磨き上げましょう。この場合、信頼できるコンサルタントを活用することがお薦めです。
休止・清算・廃業
万策尽き果てたと判断したら、できる限り早く「周りに迷惑をかけずに済むたたみ方」を考えましょう。株主をはじめ、顧客、取引先、仕入先、ベンダー、そして社員等のステークホルダーに降りかからざるを得ない迷惑を極小化する方策を練り、法律を遵守した手続きを踏み、誠意を持って関係各位に対応するしかありません。経験豊富な弁護士や会計士、FP等が頼りになります。
番外編 Living Dead
夢追いと成長を諦め、一介の中小企業として生き長らえる道もありますが、起業家の看板は降ろしましょう。強大な交渉力を持つ取引先のサプライチェーンに取り込まれ、自らの意思で自由に経営できない状態に陥ったとしても、家族や社員が食いつなげればいいと割り切れればそれはそれです。プロフェッショナルの支援も見込めず、事業価値もないので一代限りで廃業することになるでしょう。
番外編以外のいずれを選択するにせよ、プロフェッショナルの手は借りるべきですが、彼等の対応は想像以上に手間暇かかる上にタダでは働いてくれません。言葉は悪いですが、いわば「傷モノ」のスタートアップへの関与となると相当慎重な判断になり、二つ返事で引き受けてもらえることはまずないので、あらゆるツテを辿って必死に探してください。
その際、過去関与してくれた金融機関やVCの競合や、見事にリベンジを果たした起業家からのご紹介を中心に探すことをお薦めします。最初はリベンジプランをまとめるためのコンサルタントを見つけましょう。彼の仕事は、顧客開発モデリング、各種リソースの調達、マネジメントシステムの再構築、推進等が中心であり、事業活動のレビューは勿論、VC等へのプレゼンの支援も得られます。
プランが本物なら共感してくれるVCや金融機関はどこかに必ずいます。段階的に外部パートナーを味方に引き入れながら、顧客開発に全力を注ぎ込み続ければ、リベンジに現実味が帯びてきます。起業家のビジョンに共感して奮闘することこそ醍醐味であり矜持だと考え、自分とウマが合うコンサルタントをなんとしても探し出すことができれば、リベンジ成功への第一歩を踏み出せたも同然です。
この本を読んでみよう
起業家はどこで選択を誤るのか――スタートアップが必ず陥る9つのジレンマ
ビジネスプランの出来や遂行状況云々ではなく、人との関わり方に起因して抱え込むジレンマがパフォーマンスにどう影響するのか理解できる。起業家自身の特性がジレンマの原因となること、そして自分の特性を知っておくことが起業にとっても非常に重要であることもわかるだろう。起業プロセスのレビューに役立つので、挫折を経験した起業家は是非ご一読いただきたい。
ファイナンスの側面からスタートアップが理解しておくべき基本知識を習得するのに役立つ。ファイナンスが重要なことに疑問を差し挟む余地はないものの、実はスタートアップにとって大切なのは「人」であると喝破している点は、スタートアップの現場をよく知る著者ならではの見識。読みやすいのでファイナンスを知る最初に一冊としてもお薦め。
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