裁量労働制は「使われる人」には馴染まない
高度プロフェッショナル制度(以下高プロ)と絡めて一気に議論が沸騰した裁量労働制は、「使われる人」には適用できない。高プロのように、自分で仕事を創り出し、仕事量を決める裁量を持っている人でなければ、労働時間を自己管理することは無理だ。
「使われる人」の仕事は上司から与えられる。与えられた仕事をこなすために必要な時間は、割り振られた仕事の難易度と量で決まる。その匙加減は上司に委ねざるをえないのだ。これが裁量労働制を高度プロフェッショナル(高プロ)に限定してリンクさせた理由である。
対象が拡大されるとの懸念から巻き起こった騒動には一定の理解はできるが、それ以前に考えるべきことがある。
フォーカスすべきは成果創出力の強化
本来、高プロ導入の狙いは成果をあげることにフォーカスした働き方に改革することだった。それがなぜ裁量労働制の適用拡大という騒動になるのか、甚だ疑問だ。政官の思惑が絡んだ末の泥試合なのだろうが、当初の改革目的に立ち返って何をすべきかを考えよう。
要は、成果をあげるための取り組みに注力しなければならないのだ。なかなか成果には結びつかないが、毎晩深夜まで残業し、休日も返上して懸命に頑張っている人を高く評価しがちな評価・報酬制度こそ、抜本的に変えなければならない。
例えば、ベテランが汗水垂らして1ヶ月かかって仕上げた仕事を、新人がITを駆使して10分で仕上げたとしよう。両者とも同じ成果を上げたなら、短時間で仕上げた新人が高く評価されて然るべきだが、それを良しとしない人が少なからずいるのだ。
いわく、「若いのに汗をかいて仕事をしない」「先輩と同じやり方をしないのはけしからん」「君以外の人にもわかるような仕事の仕方をしてほしい」だとか(実話)。戯言は寝て言えと言いたいが、マネジメント層にこういう価値観がシェアされていることも珍しくない。
過労死、サビ残、長時間労働等の問題はまさにこの価値観に根ざしていると言えよう。
新評価・報酬制度のフレームワーク
短時間労働で高業績をあげる人を育てるための評価・報酬制度の原理原則は下記の通りだ。
□評価:短時間労働で高い業績を上げた人を厚遇、長時間労働で目標未達成の人は冷遇
例).6段階評価の場合(強制正規分布)
S.短時間労働・ストレッチ目標達成
A.短時間労働・目標達成
B.長時間労働・ストレッチ目標達成
C.長時間労働・目標達成
D.短時間労働・目標未達成
E.長時間労働・目標未達成
□報酬:短時間労働には時間外手当よりも高額な時間短縮手当を支給、賞賛
S.時間短縮手当・インセンティブ & 昇格昇進P加点
A.時間短縮手当
B.時間外労働手当・インセンティブ(減額)
C.時間外労働手当(法定より高額、時間短縮手当てより低額)
D.時間短縮手当(減額)
E.時間外労働手当(法定)
※各手当の支給水準は 時間短縮手当>時間外労働手当>法定時間外労働手当 で設定
なお、労働時間はヘルスチェック指標としても活用するほか、短時間労働で成果をあげるために必要なスキルアップ機会を提供、成果創出力強化を支援する。
成果があがる仕組みで人を惹きつける
「残業代ゼロ働かせ放題プラン」と揶揄される裁量労働制は、長時間労働に重きを置く仕組みにおいて「使う人」にとっては禁断の果実であり、「使われる人」にとっては悪夢である。評価対象を成果創出にフォーカスする上のような仕組みに変えれば、皆が短時間労働で成果を出すよう奮闘し、生産性向上を促進する。
勿論、成果をあげられない社員は出てくる。一定のチャンスを提供してもダメな人には退場を迫らねばならないだろうが、フリーライダーが減るのだから問題はない。
そして、短時間労働で成果をあげることで社員が自由に使える時間が増え、リフレッシュやリカバリーできるようになると健康経営にもつながり、時間短縮手当やインセンティブを支給しても総額人件費を現状より低く抑えられる可能性さえあるのだ。
ひいてはそれが社外の優秀な人材を自社に惹きつける魅力となり、人材獲得競争における優位性へとつながる。世の騒動は注視しつつ、他社に先駆けて取り組もう。
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